科学&テクノロジー

2022年4月 8日 (金)

非常口の緑色と白色のおはなし

 次の図はよく建物の中で見かける非常口の標識です。下図の2つの標識はデザインは同じですが左側は「緑色の背景に白色の文字」、右側は「白色の背景に緑色の文字」です。どちらが正しい表示でしょう?

非常口の看板
非常口の看板

 答えはどちらも正しいです。この2つの標識はどちらも非常口に関係する標識で間違いありませんがその意味は全く異なります。実はこの2つの標識の違いは「消防法施行規則」の「誘導灯及び誘導標識の基準」で定められています。

 緑色の背景に白色の文字の標識は「避難口のある場所」を示します。ですからこの標識のあるドアは非常口そのものを意味します。一方、白色の背景に緑色の文字は「避難口への通路」を示します。こちらは非常口までの経路を示すものです。

 不幸にも火災に遭遇したときにこの知識があるとないとでは非常口へたどり着く時間も変わってきそうです。どっちだったっけ?となりそうなややこしいルールですが万一のときは緑地に白い文字の非常口を目指しましょう。

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2022年3月25日 (金)

青色光より短波長の光はなぜ紫色なのか|青紫と赤紫の違い

 虹やプリズムでできた光の色の帯を見ると青色光より短波長側に紫色光が見えます。紫色は青色に赤味が加わった色ですが、どうして青色光より短波長側に長波長側の赤色が混ざった紫色光が見えるのでしょうか。

虹の光の色の帯(連続スペクトル)
虹の光の色の帯(連続スペクトル)

 青色光より短波長側に紫色光が見えるのはヒトの色覚に関係しています。「視覚が生じる仕組み 色が見える仕組み(3)」で説明した通り、ヒトの網膜には赤・緑・青の光を感じる錐体細胞があります。次の図はヒトの平均的な色覚の応答を図で表したものです。R(赤色光)、G(緑色光)、B(青色光)のグラフは光の波長に対してそれぞれの色を感じる色覚の刺激の割合を示したものでG(緑色光)の最大の刺激値を1として標準化したものです。

Cie-1931-xyz
CIE 1931 XYZ等色関数

 この図を見ると青色と緑色に対する色覚はそれぞれ450 nm付近と550 nm付近を中心とする光に応答することがわかります。一方、赤色に対する色覚は主に600 nm付近を中心とする赤色光に応答しますが450 nm付近を中心とする青色光にも応答することがわかります。

 たとえば波長450 nm付近の光に対しては青色と赤色の色覚が応答しますが、青色と赤色の刺激値の差が大きいため青色と認識します。波長450 nmより短い波長の光に対しては青色と赤色の刺激値の差が小さいため青色に赤色が加わった紫色と認識することになるのです。この紫は青色の応答が多いので青紫色の光となります。

 さて光の三原色の混色では赤色光と青色光を混ぜるとマゼンタ(赤紫色)の光になります。赤色と青色の色覚がそれぞれ十分に応答するため赤紫色の光となります。マゼンタの光は前述の青紫色の光と異なり虹の中には存在しない色の光、つまり相当する波長の単色光がない光になります。ピンク色の単色光が存在しないのも同じ理由です。

 マゼンタについては「マゼンタのおはなし|単色光(波長)が存在しない色」に詳しく説明してあります。

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2022年3月 2日 (水)

プラトンが考えた天体の運動|エウドクソスの同心天球仮説①

天体が織りなす現象を救う

 「天と地」の地とは我らが母なる大地、地球でことです。そして、天とは果てしない大空のことです。古代ギリシアの自然哲学者たちは天体の運動を考えれば天と地がどのように成り立っているのかがわかると考えました。例えばアリストテレスは宇宙の中心にある地球の周りを全天体が公転しているという説を唱えました。

 古代ギリシャの自然哲学では、自然現象の真理を追及し、その仕組みを解き明かすことを「現象を救う」と言い表しました。もちろん天体が織り成す自然現象もその対象となりました。天体の運動について現象を救う取り組みを初めて試みようとしたのはプラトンでした。

 古代より太陽や月を始めとする天体の運動には何らかの規則性があると考えられていました。狩猟民族にしろ、農耕民族にしろ、古代の人々が自然を利用しながら賢く生きていくためには、1日の時間の流れ、季節の移り変わりとその周期、位置や方角などを正確に知る必要がありました。そのため人類は太古から天体の運動のなかに規則性を見い出そうとしていたのです。

 しかしながら、真理の探究が遥か昔から行われていたわけではありません。古代ギリシャの自然哲学以前においては、自然現象の解釈は神学的・宗教的なものが中心であり、とても真理の探究とは言えませんでした。それらをできる限り排除して自然科学的な観点から真理を探究しようとしたのが最初の哲学者タレスであり、その後のソクラテスやプラトンでした。

プラトンが考えた天体の運動

 プラトンは天体の運動について、例えば、恒星はどのように動いているかを考えました。星座を作る恒星は、お互いの位置を変えることなく東から西へと移動します。古代の人たちが恒星の配置を星座と見立てることができたのは恒星が規則的な動きをするからです。恒星は24時間経過するとほぼ同じ位置に戻ってきます。しかし、恒星の位置は毎日少しずつずれていきます。そのため、季節によって恒星の見える位置が変わったり、恒星そのものが消えたり現れたりしますが、ほぼ一年経過すると恒星は再び同じ位置に戻ってきます。こうした現象からプラトンは天体の運動は円形で一様で規則的であると考えました。そして、天体の運動を説明するには、どのような円運動が必要になるのかを問いました。

Photo_20201014180401
プラトン

 プラトンが言及した円形で一様な運動とは、物体が一定の速さで回転する運動、つまり、等速円運動のことです。プラトンは等速円運動の組み合わせで、すべての天体の運動が説明できると考えました。

 しかし、プラトンは天体の運動について詳細に調べたわけではなく疑問を提示しただけでした。実際に真理の探究を進めて、天体の運動の仕組みを明らかにしたのは、プラトンの哲学を学んだ数学者のエウドクソスでした(続く)。

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2022年2月 4日 (金)

緑色の星は存在するのか?

恒星の色は表面温度で決まる

 宇宙にはたくさんの星が存在しています。それらの星を観察すると赤い星、黄色い星、青い星など様々な色をした星が存在していることがわかります。ところが緑色の星はいくら探しても見つけることはできません。緑色の星は存在しないのでしょうか。

Stars

 恒星の色は星からやってくる光の波長で決まります。星はさまざまな波長の光を出していますが、星が一番たくさん出す波長の光はその表面温度で決まります。つまり星の色は星の表面温度で決まります。大雑把に説明すると3千度の星は赤色に見え、6千度の星は黄色に見え、1万度の星は温度は青色に見えます。さらに温度が高い星は青白い色に見えます。それでは緑の星が見つからないということは緑色に相当する波長の光をたくさん出す星が存在しないということでしょうか。

緑色の星は存在するのか

 実は私たちにとって身近な星である太陽は緑色の光をたくさん出しています。しかし、太陽は緑色には見えませんし、太陽の表面温度は6千度ですから黄色に見える星のはずです。この矛盾はどうして生じるのでしょうか。

 次の図は太陽光のスペクトルです。可視光線の領域を見てみると500 nm前後のエネルギーが高いことがわかります。この波長範囲の光は緑色(青緑色)に見えます。また他の波長の光も含まれていることがわかります。

太陽光のスペクトル
太陽光のスペクトル

 実は表面温度が6千度の星は緑色の光を一番たくさん出しています。ところがこの表面温度の星から出てくる光には緑色以外の色の光も適度な強さで含まれています。そのため全体として黄色に見えてしまうのです。ですからヒトの色覚で見る星の色という観点からは緑色の星は存在しないということになります。

緑色に見える星がある

 天体観察をしている人の中には緑色の星を見た経験がある人もいるかもしれません。また天文に関する書籍にも緑色の星が掲載されていることがあります。この緑色の星の多くは連星です。連星は通常明るい主星と暗い伴星からなりますが主星が赤色で伴星が白っぽい色のときに伴星が緑色に見えます。白い星が緑色に見えるのは明るい主星の赤色の補色の緑色が伴星の表面に残像で現れるためと考えられています。つまり錯覚で白っぽい星が緑色に見えているのです。

 連星でなく単独の星でも緑色に見える場合があります。これは肉眼ではなく望遠鏡で星を観察している場合が多いようです。特に暗い星を見ているときやピントがずれたり収差が出たりしているときに星が緑色に見えます。これはヒトの色覚に関係していると考えられています。眼の網膜には色は見分けられないが暗いところで光を感じることができる桿体細胞と可視光線の短波長領域の光、中波長領域の光、長波長領域の色光を感じる3つの錐体細胞があります。この3つの錐体細胞のうち最も感度が高いのは中波長領域の光を感じる錐体細胞でヒトが最も見やすい色が緑色と言われるのはこのためです。

 錐体細胞は光が暗くなると反応が鈍くなるため私たちは暗いところでは色を見分けにくくなります。色を見分けにくい暗い星を見たときに感度の高い中波長領域の錐体細胞が反応して緑色に見えると考えられています。また、望遠鏡でピントがずれたり収差が出ているときは星の像は点にならず広がります。広がったところの像は暗くなるので色が見分けにくくなり緑色に見えると考えられています。

 緑の光を一番脱している星は緑色に見えず、緑に見える星は目の錯覚ですから緑の星は存在しない結論づけておきましょう。

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星の色はいろいろ

高温の物体から出る光 熱放射

太陽光が緑色の閃光に グリーンフラッシュ

視覚が生じる仕組み 色が見える仕組み(3)

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2021年9月14日 (火)

宇宙太陽光発電の仕組み

宇宙太陽光発電とは

  ソーラーパネルは太陽光を利用するため、地上では昼間しか発電することができません。また、曇りの日や雨の日は発電効率が低下します。もし、ソーラーパネルを宇宙空間に設置できたら、日照時間や天候に左右されることなく安定した発電をおこなうことが可能となります。

宇宙太陽光発電
宇宙太陽光発電

 実はこのアイデアは今から約50年前に考えられ、現在も研究開発が続けられている技術です。宇宙空間で太陽光発電をおこない、電気エネル
ギーを地上に送電して利用する発電システムを宇宙太陽光発電SSPS, Space Solar Power System)といいます。このアイデアは1968 年に米国の航空宇宙技術者のピーター・エドワード・グレーザー氏が提唱した宇宙太陽発電衛星SPS, Space Power Satellite)がもとになっています。

 1977年に米国のNASA(米国航空宇宙局)とエネルギー省はソーラーパネルを備えた人工衛星による発電システムの構想を打ち出しました。この構想は技術的に可能とされましたが、財政的な問題によって研究は打ち切りとなりました。

 この構想の実現に向けて継続的に研究に着手したのは日本でした。日本の宇宙開発事業団(現JAXA)が宇宙太陽光発電の研究を開始したのは1990年代の初めです。1990年代の終わりに、米国も宇宙太陽光発電の研究開発を再開しましたが、米国のエネルギー政策が原子力に傾倒していたこともあり、現在では継続的に研究開発を進めてきた日本の技術が世界でトップレベルとなりました。

宇宙太陽光発電の仕組み

 JAXAの宇宙太陽光発電システムは、高度約36,000 kmの静止軌道など(注)に設置した宇宙プラントと、地球上に設置した地上・海洋プラント(以降、地上プラントとする)で構成されます。

(注)他に太陽同期軌道や準天頂軌道に設置することも考えられている。静止軌道は1日24時間の常時発電が可能だが、伝送距離が長くなるため送受信の設備が大がかりになるという問題がある。

 宇宙プラントで集められた太陽エネルギーは電磁波に変換され、地上プラントに伝送されます。地上プラントでは、伝送されてきた電磁波のエネルギーを電気エネルギーに変換して使ったり、水素製造のエネルギーとして使ったりします。宇宙プラントから地上プラントにエネルギーを伝送する方法には、マイクロ波(電波)を使うマイクロ波SSPSM-SSPS)とレーザー光を使うレーザーSSPSL-SSPS)があります。

 マイクロ波SSPSは反射鏡とソーラーパネルを備えており、反射鏡で集めた光で発電を行います。発電で得られた電気エネルギーは雲や雨などの影響を受けにくい2.45 GHzまたは5.8 GHzのマイクロ波に変換され、地上プラントへ伝送されます。地上プラントでは受信したマイクロ波を再び電気エネルギーに戻して利用します。宇宙プラントの反射鏡と地上プラントの受電設備を直径2~3キロメートルとした場合、原子力発電所1基分に相当する約100万 kWの発電が可能となります。

宇宙太陽光発電マイクロ波SSPS
宇宙太陽光発電マイクロ波SSPS

 レーザーSSPSにはソーラーパネルがありません。反射鏡で集めた太陽光を直接レーザー光に変換し、地上プラントへ伝送します。伝送に用いるレーザーは波長1064ナノメートルの近赤外線を使います。これはこの波長の光が、大気による吸収が少なく、大気で散乱されずに遠くまで届くからです。地上プラントでは伝送されてきたレーザー光を電気エネルギーに変換し、そのエネルギーで海水を電気分解して水素を製造します。また、レーザー光を海水と光触媒に当てて、海水を光分解することで水素を製造する方法も検討されています。

宇宙太陽光発電レーザーSSPS
宇宙太陽光発電レーザーSSPS

 宇宙プラントから地上プラントに伝送されるマイクロ波やレーザー光は航空機や鳥類への影響がない強度のものが使われます。また、どちらの伝送方式も、エネルギーは地上プラントから発せられるパイロット信号を頼りに伝送されます。何らかの原因でパイロット信号が受信できなくなると、伝送が止まるようになっています。

宇宙太陽光発電の採算性は 

 宇宙太陽光発電に必要な技術的課題は現在の科学・技術で解決できると考えられています。採算性はどうなのでしょうか。

 JAXAの試算によると、宇宙太陽光発電は地上での太陽光発電に比べて5~10倍効率が良いとされています。また、他の発電方式に比べて、二酸化炭素の排出量が少なく、原子力発電のように核廃棄物を排出しません。そして、何よりも太陽光がエネルギー源なので、安定供給ができ、化石燃料のように枯渇する心配がありません。

 さて、宇宙太陽光発電の発電コストについては、地上での発電コストに匹敵する必要があります。現在、地上での発電コストは10円〜15円/ kWhです。100万kWの発電プラントの建設費用は人工衛星と地上設備を合わせて約1兆2400億円と資産されています。プラントの寿命を30年と設定したときの発電コストは8.5円/kWhになります。

 ちなみに日本のH-IIBロケットが静止軌道まで運べる機材は8トンです。1回の打ち上げコストは約150億円ですから、いかに宇宙に運ぶ機材を軽量化するかがコスト削減の重要な鍵になります。

H-IIBロケット
H-IIBロケット

 現時点では、宇宙太陽光発電は将来的に採算性のとれるシステムを実現することは可能であると期待されています。現在、JAXAは2030年頃に商用化をめざして研究・開発を進めていますが、2022年度に縦幅2メートル×横幅4メートルの小型のパネルを打ち上げ実証実験を始める予定です。

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2021年8月16日 (月)

ニュートンの思考実験「万有引力の法則」

 イギリスの物理学者アイザック・ニュートンの伝記に「リンゴが木から落ちるのを見て、万有引力を発見した」という有名な話があります。この話が本当かどうかは別にして、ニュートンは地球上の物体が落下する現象から月がなぜ落ちてこないのかを考えました。

ニュートンは月と落下するリンゴを見て万有引力を発見
ニュートンは月と落下するリンゴを見て万有引力を発見

 糸に物体をつなげて振り回すと物体は円運動します。このとき物体には遠心力が働いているため、糸を手から放すと物体は飛んでいってしまいます。月は地球のまわりを公転していますが、月と地球は糸でつながれているわけではありません。ニュートンは月が地球から離れずに同じ距離を保っているのは、月に働く遠心力と地球が月をつなぎとめる力がつり合っているからではないかと考えました。そして、地球が月をつなぎとめる力は、落下するリンゴに働く力と同じではないかと考えたのです。その力は重力のことです。もちろん、ガリレイが落下実験をやってみせたことからもわかるとおり、ニュートンが重力を発見したわけではありません。

 ココログ 光と色と「ガリレオの思考実験「重いものほど速く落下するのか」

 ニュートンが次に考えたのは、地球だけが重力で月をつなぎとめているのかということでした。地球に重力があるのであれば、月にも重力があるはずではないか。すなわち月と地球はお互いをつなぎとめるように引っ張り合っているのではないかと考えました。そして、ニュートンは質量をもつ物体の間にはお互いに引き合う力が働いていると考え「万有引力の法則」を導き出しました。リンゴが落下する現象と天体の運動は同じ原理に基づいているという結論に達したのです。

 宇宙で実験することはできません。ニュートンは身の回りの現象をヒントに宇宙でどのようなことが起こるかを天体観測の結果に照らし合わせながら思考実験で考えたのです。

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2021年7月30日 (金)

見る―眼の誕生はわたしたちをどう変えたか

見る―眼の誕生はわたしたちをどう変えたか

サイモン・イングス (著) 吉田 利子 (翻訳)

 2009年に出版された本ですが、眼に関する様々なことが解説された本です。いろいろな動物の眼の進化や仕組みなどを解説しています。また、ヒトの視覚の研究の歴史についても触れられており、過去の科学者の取り組みなどを紹介しています。眼について光学と生物学だけではなく、幅広い分野の話を取り上げています。

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単行本: 450ページ
出版社: 早川書房 (2009/1/23)
ISBN-10: 4152089997
ISBN-13: 978-4152089991
発売日: 2009/1/23
商品の寸法: 18.6 x 14.2 x 3.4 cm

【内容】

 光を効率よくとらえようとしてさまざまな生き物が眼を発達させ、見るという能力を獲得した。これまで見つかった最大の眼は、巨大なダイオウイカのもので、目玉の直径が40センチあったという。イカの眼とヒトの眼はまったく異なる進化をたどってきたものだが、それでも両者はじつによく似た構造をしているのだ。

 では、わたしたちはどうやってものを見ているのだろう。多くの哲学者や科学者がその謎に取り組んできた。プラトンは、眼がある種の光線を放射するおかげでものが見えるのだと唱えた。19世紀、死者の網膜には像が残ると言われ、殺人事件の捜査で眼球の写真が撮られた。色覚障害のあった科学者ドルトンは、自分の眼球の色が異なるのだと考え、死後に自分の眼を解剖させている。

 眼には想像以上の物語がある。眼の進化と意識、色覚や錯覚に隠された秘密、視覚の未来まで、眼と「見ること」のすべてを探る

 

・触れて触る眼―ホシバナモグラの鼻、ハダカデバネズミ
・カンブリア紀の大爆発と眼の誕生
・三葉虫のひさしを持った眼、あいだをおいてはめ込まれた眼
・ショウジョウバエの脚に作られた眼
・第三の眼、松果体
・「視光線」を放射している眼?
・色と言葉
・ステレオグラム
・殺人の原因にもなった視覚の化学
・虹が10色に見える4色型色覚をもつ女性
 その他

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2021年6月30日 (水)

オリンピックの五輪の色の意味は?

オリンピックシンボルとは

 オリンピックシンボルはオリンピック憲章第1章8で「単色または5色の同じ大きさの結び合う5つの輪」と定義されているオリンピック・リングで構成されるシンボルとされています。

オリンピックシンボル
オリンピックシンボル

オリンピック・リングの由来

 近代オリンピックの創立者のフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵が1913年に考案したものです。

ピエール・ド・クーベルタン男爵
ピエール・ド・クーベルタン男爵

 その経緯として古代オリンピックが開催されたギリシアのデルフォイの祭壇にあった5つの輪を紋章が刻まれた石碑を参考に考案されたという説がありますが、この石碑は第11回ベルリンオリンピックの際に組織委員会の事務総長のカール・ディームが聖火リレーの式典の演出のために設置したものでした。式典は盛大に執り行われましたが、この石碑は撤去されませんでした。1950年代後半にアメリカ人作家のリン・プールとグレイ・プールがデルフォイを訪れたときにこの石を再発見し「古代競技の歴史(History of ancient Olympic games、1963年)」で紹介しました。この石碑は「カール・ディエムの石」として知られるようになり、オリンピック・リングのデザインは古代オリンピックに由来するものという説が流布しました。

オリンピック・リングの意味

 オリンピック・リングは白地に青、黄、黒、緑、赤の5つの輪が連なったものです。クーベルタン男爵はこの5つの輪をヨーロッパ大陸、アメリカ大陸、アフリカ大陸、アジア大陸、オセアニア大陸の5つの世界大陸に見立てました。また5つの大陸と色には関係がなく、どの輪がどの大陸を意味しているというような定義はされていません。白、青、黄、黒、緑、赤の6色はすべての参加国の国旗を再現できる色して選んだものとされています。 

 クーベルタン男爵は「Olympique 1913年8月号」において、「このように組み合わせられた6色(旗の白地を含む)は例外なくすべての国の色を再現している。スウェーデンの青と黄、ギリシャの青と白、フランス、イギリス、アメリカ、ドイツ、ベルギー、イタリア、ハンガリーの三色旗、スペインの黄と赤、ブラジルとオーストラリアの革新的な国旗、古代日本と現代中国の国旗も含まれている。まさに、国際的なエンブレムです」と述べています。

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2021年6月25日 (金)

ガリレオの思考実験「重いものほど速く落下するのか」

 イタリアの科学者ガリレオ・ガリレイは「重たいものほど速く落下する」という当時主流だった考えを否定しました。

 ガリレオはこれを証明するために重い鉄球と軽い鉄球を用意し、2つの鉄球を紐でつないで落下するという思考実験を考えました。もし、重たいものが速く落下し、軽いものが遅く落下するならば、この紐でつないだ2つの鉄球の落下速度は、それぞれの鉄球の落下速度の平均値になるはずです。しかし、2つの鉄球は紐でつながれていますから、2つの鉄球の重さを合計した1つの物体と見なすことができます。そのように考えると、この物体の落下速度はもとの鉄球の落下速度より速くなるはずです。

ガリレオの思考実験「重いものほど速く落下するのか」
ガリレオの思考実験「重いものほど速く落下するのか」

 ガリレオはこの思考実験から同じ現象に対して矛盾する2つの結論が出てくるのはおかしいと考えて実際に実験をしてみました。そして、「重たいものほど速く落下する」が間違いであることを確かめまたのです。

 ちなみに、この実験はガリレオの弟子のヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニによる伝記ではピサの斜塔で行われたと伝えられていますが、実際には斜面で玉を転がす実験だったと考えられています。

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2021年5月10日 (月)

マゼンタのおはなし|単色光(波長)が存在しない色

マゼンタとは

 「光の三原色」や「色の三原色」にマゼンタという名前の色が出てきます。マゼンタは日本語では紅紫色と言いますが、わかりやすく言うと鮮明な赤紫色のことです。

 光の色としてのマゼンタは光の三原色の赤色光と青色光を均等に混ぜたときにできる色です。

(R,G,B)=(255,0,255)=#ff00ff

 物体の色としてのマゼンタについては、

 CMYKのプロセス印刷のMは次のような色になります。

(R,G,B)=(236,0,140)=#ec008c

 JIS慣用色名ではマンセル値で5RP 5.5/14とされており、次のような色になります。これはCMYKのインクの色味とは異なります。

マンセル値 5RP 5.5/14 (R,G,B)=(197,78,160)=#c54ea0

マゼンタの由来 

 マゼンタは元々はイタリアのロンバルディア州ミラノ県に存在するマジェンタ(Magenta)という街(コムーネ)の名前に由来します。

 1859年4月29日に開戦した第二次イタリア独立戦争において、イタリア北部ロンバルディア地方マジェンタ近郊で同年年6月4日にマジェンタの戦い(伊: La Battaglia di Magenta)が起こりました。この戦いではサルデーニャ王国・フランスの連合軍とオーストリア帝国軍が戦い、連合軍が勝利を収めました。

 1858年にフランスの化学者フランソワ・エマニュエル・ベルガンがアニリンと四塩化炭素を混ぜた赤紫色の染料を作りました。この染料は1859年に工業化されフクシアの花の色にちなんで「フクシン」と名付けられました。また、同年にイギリスの化学者チェンバース・ニコルソンとジョージ・マウルが「フクシン」と同様の赤紫色のアニリン染料を作り、1860年に「ロゼイン」という名前でロンドンで製造を開始しました。

 これらの赤紫色の染料はマジェンタの戦いの戦勝を記念してマゼンタと呼ばれるようになりました。この戦いで活躍したフランスのズアーヴ兵の制服の赤紫色をマゼンタと呼ぶようになっていたという説もあります。。

フランスのズアーヴ兵(1858年頃)
フランスのズアーヴ兵(1858年頃)

マゼンタに対応する単色光は存在しない

 太陽光をプリズムで分散すると紫から赤に連続して変化する光の色の帯、すなわち可視光線の連続スペクトルが現れます。

短い ← 波長 → 長い
可視光線のスペクトル
可視光線のスペクトル

 この可視スペクトルには様々な色が存在しますが、その色の中にマゼンタは存在しません。同じ理由で虹の色にもマゼンタは存在しません。

虹の色にマゼンタは存在しない
虹の色にマゼンタは存在しない

 可視スペクトルの中にマゼンタの光が存在しないということは、マゼンタに対応する単色光(単一波長からなるの光)が存在しないということです。

 マゼンタは単色光の赤色光と緑色光を均等に混ぜたときにできる色です。マゼンタの光はヒトの網膜に存在する赤色光と青色光に反応する錐体細胞を刺激します。脳はその刺激を受け取るとマゼンタの色と認識します。これは光源の色としてのマゼンタの認識も物体の色としてマゼンタの認識も同じ仕組みです。このように私たちが認識している色は私たちヒトの色覚に密接に関係しています。

 私たちが認識している色は眼に入る光の情報をもとに脳内で作り出しているものです。もともと光や物体には色はついていません。脳がものに色をつけているのです。色の正体は私たちが作り上げた概念にすぎません。私たちが見ている色とりどりの景色は私たちの脳内で作り出されているバーチャルな世界と言えます。単色光が存在しないマゼンタの色が存在することは何ら不思議なことではありません。

マゼンタ(赤紫色)が見える理由

 前述の可視スペクトルをみると波長の短い方に紫色光、波長の長い方に赤色光が存在していることがわかります。このことを踏まえて考えると、赤色光と青色光を均等に混ぜるとその中間色の緑色が見えそうですが、実際には可視スペクトルの両端の色を連結するマゼンタ(赤紫色)が見えます。

色相環
色相環

 単色光の赤色光と青色光を混ぜるとどうしてマゼンタ(赤紫色)になるのかはヒトの色覚に深く関係しています。次の図は観測者の色覚の応答を数値で表した等色関数を図で表したものです。R(赤色光)、G(緑色光)、B(青色光)のグラフはそれぞれの色を感じる錐体細胞の刺激の割合を示したもの、G(緑色光)の刺激の最大値を1として標準化したものです。

CIE 1931 XYZ等色関数
CIE 1931 XYZ等色関数

 ここで注目すべきことは、赤色光に反応する錐体細胞は短波長側の青色光でも刺激を受けるということです。つまり、赤色光と青色光が均等に混じった光を受けると、赤色光と青色光の中間色の緑色にならず、マゼンタ(赤紫色)に見えるのです。

マゼンタは色覚の進化に関係している

 多くの動物は四原色の色覚(四色型色覚)を持っています。蝶などの昆虫は紫外線を見ることができ、鳥類や爬虫類の多くはヒトよりも色を見分ける能力が高く、より鮮やかな色の世界を見ています。これらの動物が色を見分ける能力が高いのは、それぞれの動物の生活環境に関係していると考えられます。昼行性の動物はより多く色を見分けられた方が有利だったのです。

 犬や猫など多くの哺乳類はニ原色の色覚(ニ色型色覚)しか持っていません。たとえば、犬は赤と緑を見分けることができません。そのため、緑色の芝生の上で赤色の花を見つけるのが苦手です。かつて哺乳類は夜行性だったため、色を見分けることよりも、暗いところで良く見える能力が必要でした。そこで色を感じる錐体細胞が2つになり、色は見分けられないが弱い光を感じることができる桿体細胞が発達しました。

 哺乳類の中でも霊長類の旧世界ザル(狭鼻小目)は三原色の色覚(三色型色覚)を持っています。いまから数千年前に赤色光に反応する錐体細胞の一部が変化し、緑色光に反応する錐体細胞ができ、3つの赤色錐体・緑色錐体・青色錐体(注)を有するようになったと考えられています。色を見分ける能力が向上したのは、森林で暮らすようになり、木々の緑の葉、さざまなな色の花や木の実を見分ける必要があったからかもしれません。

(注)最近は S 錐体(短波長)、M錐体 (中波長)、L錐体(長波長)と呼ばれる場合が多い。

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