コレステロールの研究で不思議な物質を発見
1888年、コレステロールの研究をしていたオーストラリアの植物学者フリードリヒ・ライニッツァーはコレステリルベンゾエートという物質に普通の固体の結晶とは異なる性質があることを発見しました。
フリードリヒ・ライニッツァー(Friedrich Reinitzer)
普通の固体は結晶を加熱すると、ある温度(融点)で液体となります。ところが、この物質の結晶を加熱すると145℃で白濁した液体となり、さらに加熱すると178.5℃で透明な液体となったのです。つまり、彼はコレステリルベンゾエートに2つの融点があることを発見したのです。この物質を不思議に思った彼はドイツの物理学者O・レーマンに詳しい調査を依頼しました。レーマンは物質を加熱しながら観察できる顕微鏡をもっており、液体の状態のコレステリルベンゾエートに本来は固体の結晶がもつ光を2つの方向に屈折させる複屈折の性質があることを発見しました。彼はこの物質が液体でありながら固体の結晶の性質をもつと考え、「液晶」(Liquid Crystal)と名付けました。
1963年、米国電気メーカーRCA社のR・ウィリアムズは液晶に電圧をかけると透明な液晶が不透明に変わることを発見しました。1968年に同社によって液晶を利用した表示装置が開発されました。
1973年に日本のSHARPによって、世界初の液晶表示装置をもつ電卓が開発され、液晶ディスプレイ(LCD、Liquid Crystal Display)はいろいろな機器に利用されるようになりました。
液晶とは何か
液晶は液体と固体(結晶)の中間の状態、またはそのような状態となる物質のことです。そのため、液晶は液体の流動性と固体の結晶性を兼ね備えています。液晶の分子は液体の分子のように自由に動くことができますが、ある方向については固体の結晶の原子のように規則的に配列する性質があります。LCDに使われている液晶は細長い形をしています。例えば、5CB と呼ばれているネマティック液晶の分子は、次の図のようにベンゼン環がつながった硬い部分と炭素が直鎖状につながった柔らかい部分からなる構造をしています。
ネマティック液晶5CBの構造
液晶分子はこの柔らかい部分があるため液体のような流動性をもち、硬い部分があるため規則正しく配列することができます。
ネマティック液晶は分子が一定の方向を向いて規則的に配列するが、三次元的な配列には秩序をもたない液晶
この液晶に電圧をかけるとシアノ基(-CN)によって液晶分子中に正電荷に偏った部分と負電荷に偏った部分ができて分極します。そのため、液晶分子は電界の方向に規則正しく配列します。電圧をかけていないときは規則的に配列しません。
液晶に電圧をかけると
どうして液晶で画像を表示できるのか
液晶は自ら光を出しませんが、液晶分子の配列が変わると、光を透過したり、反射したりする割合が変わります。LCDは液晶にかける電圧の強さを制御することにより、明るさを変えることによって画像の表示を行っています。このしくみは窓のブラインドを閉じたり、開いたりするのとよく似ていると考えることができるでしょう。
液晶は窓のブラインドに似ている
LCDはこの「ブラインド」の開閉を画面の1画素単位で行い、各画素の明るさを変えることによって画像を表示しています。
液晶ディスプレイに描かれた「あ」
LCDには透過型LCDと反射型LCDがあります。透過型LCDは液晶パネルの背面にバックライトを配置し、液晶パネルを透過する光を使って画像を見えるようにします。ノートパソコンや液晶テレビは透過型LCDです。透過型LCDは暗いところではよく見えますが、バックライトより明るい光が当たると見えにくくなります。一方、反射型LCDはバックライトがなく、外部の光を液晶パネルの背面にある反射板に反射させることによって画像を見えるようにします。反射型LCDは時計や電卓などの表示に使われています。反射型LCDは暗いところでは見えにくく、光がまったくないところでは見えません。
透過型LCDと反射型LCD
最近では透過型と反射型のハイブリッド型のLCDもあります。このタイプのLCDはバックライトと反射板の両方を使うため、明るいところでも、暗いところでもよく見えます。屋外で利用することの多い携帯電話のディスプレイなどをより見やすくすることができるでしょう。
それでは、LCDがどのようにして液晶分子を使って「ブラインド」の開閉を実現しているのか、これから透過型LCDのしくみを例に考えていきましょう。そのためには、まず光の偏光という現象を理解する必要があります。
偏光とはどのような現象か
波には波の進行方向と垂直に振動する横波と、波の進行方向に水平に振動する縦波があります。身近な例では、光の波が横波で、音波が縦波です。
横波と縦波の違い
横波は振動方向と進行方向が1つの平面上にあります。光の波がこの平面で振動することを光の偏りといい、そのような光を偏光と言います。自然光や電灯などの光源から出る光には振動面がバラバラの偏光が均等に含まれています。
光は縦波
さまざまな振動面の光を含む光から、ある振動面で振動している偏光を取り出すことができるのが偏光板です。
偏光板を通る光
2枚の偏光板を置いて、1枚の偏光板を回転させながら光の明るさを調べると、偏光板が90度回転するごとに明るさが変わります。光を偏光板に通すと、光の振動方向がそろいます。光は次の図のように最初に通り抜けた偏光板と同じ向きの偏光板を通り抜けることができますが、垂直の向きの偏光板は通り抜けることができません。
偏光板の向きを変えると
これは簡単な実験で確かめることができます。次の写真は2枚の偏光フィルターを同じ向きに重ねたときの光の透過を示すものです。2枚の偏光フィルタが重なったところで光が透過して文字が見えます。
偏光フィルターを通る光
偏光フィルターを1枚だけ90度回転させると、次の写真のように偏光フィルターが重なった部分が光を透過しなくなり文字が見えなくなります。
偏光フィルタの向きを変えると
向きの異なる偏光板を2枚固定して並べたとき、2枚の偏光板の間で光が偏光する方向を自由に変えることができたら、偏光板を通過する光を制御することができます。LCDでその役割をしているのが液晶です。光は液晶分子の配列にそって偏光するという性質があります。つまり、液晶分子の配列を変えることによって、光を液晶の配列にそってそのまま直進させて通過させたり、ねじ曲げて遮断したりすることができるのです。
液晶分子の配列と偏光がどのようにLCDで使われているかについては「液晶ディスプレイの仕組み(2)」で説明します。
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