理科

2026年3月12日 (木)

植物の光合成は緑色光を捨てているのか?|なぜ植物の葉は光を最大限に吸収する黒色ではなく緑色なのか

光合成とは

 光合成とは植物が太陽光のエネルギーを利用して無機化合物の二酸化炭素と水から有機化合物のブドウ糖を生成し、それをもとにデンプンやタンパク質など生きるために必要なエネルギー源や体を作る物質を合成する働きのことです。光合成は植物の葉などの細胞に含まれる葉緑体で行われます。

光合成の仕組み
光合成の仕組み

植物の葉はどうして緑色なのか

 葉緑体にはクロロフィル(葉緑素)という色素がたくさん含まれています。次の図はクロロフィルの吸収スペクトルです。クロロフィルは500 nm以下の青色光と600 nm以上の赤色光を吸収する性質をもっています。その結果、500 nmから600 nmの緑や黄色の光を反射します。その反射光が緑色や黄緑色に見えるのです。

クロロフィルの吸収スペクトル
クロロフィルの吸収スペクトル

緑色の光は光合成に寄与しないのか?

 光合成の主役は緑色光を吸収せずに反射するクロロフィルであり、緑色光は光合成に必要な光ではないと説明しているWebページや参考書を見かけます。この説明はとりわけ光学や物理学を切り口とした解説に多いようですが、最新の植物学の論文を見ると、植物の光合成における光の利用は単純ではなく、緑色光が必要ないという結論は誤りであることがわかります。

 光合成が単に光をたくさん吸収すれば良いという仕組みであれば、可視光線の全域を吸収する黒色が良いことになります。しかし、そう話は単純ではありません。大量の光のエネルギーは細胞を破壊する恐れがあるのです。大気を通って地表に届く太陽光のうち最も多いのは緑色光です。そのためクロロフィルは緑色光を吸収する量を抑えているのですが、緑色光をまったく吸収しないというわけでもありません。このクロロフィルの緑色光を吸収しにくい性質は逆に緑色光の効率的な利用に役立ちます。クロロフィルに吸収されなかかった多くの緑色光は葉の中で散乱します。この散乱した緑色光を待ち受けているのがクロロフィルとは別のカロチノイドと呼ばれる色素です。

 植物は光合成を終えるとクロロフィルが少なくなり紅葉します。紅葉の色は植物の葉に含まれれるカロチノイドという色素の色です。カロチノイドは葉が青々としているときも存在していますが、その色は大量のクロロフィルに隠されて現れません。このカロチノイドは過剰な緑色光を吸収して熱として散逸させ、細胞を破壊する光のエネルギーを無害化する働きをしています。同時にカロテノイドに吸収された緑色光はクロロフィルへ受け渡され間接的に光合成を促進しているのです。なぜ植物の葉が光を最大限に吸収する黒色ではなく緑色なのか。植物は緑色光を反射して捨てているのでは太陽光を巧に有効活用するための産みだした仕組みなのです。

光合成におけるカロテノイドの機能
㧘橋拓子,西山佳孝
Hiroko Takahashi, Yoshitaka Nishiyama
Roles of carotenoids in photosynthesis Keywords: carotenoids, energy quenching, photosystem, photoprotection, repair of PSII

まとめ

 クロロフィルによる光合成は大量の光のエネルギーのもとでは効率が落ちるため、あえて太陽光にたくさん含まれている緑色光の直接的な利用を避けています。植物に含まれるカロチノイドが緑色光を吸収することで植物の細胞を守るのと同時にクロロフィルの光合成を間接的に促進しています。クロロフィルのスペクトルから、青色と赤色の光だけあれば植物を成長させるという説明は適切ではありません。

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Author:Photon(工学修士 専門:光学、光分析、機器分析 執筆:光と色やレンズの本を執筆 日本分析化学会会員)

本サイトの図表や解説は教育機関における著作物利用を管理する「SARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)」を通じて学校教育の現場でも活用されています。

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2026年2月24日 (火)

【復帰しました】FNの高校物理 (fnorio.com)について

 ※祝!復帰したようです。良かった。ドメインの有効期限が2036年まで延長されています。

   DatesRegistry Expiration: 2036-02-22 13:54:51 UTC

 ※ステータスにRegistry Expiration: 2027-02-22 13:54:51 UTC と表示されました。復活を期待。

 高校物理 を学習できるサイトとして多くの受験生や学生に長年親しまれていたサイト「FNの高校物理 (fnorio.com)」 が現時点でアクセスできなくなっています。アクセスするとDNS_PROBE_FINISHED_NXDOMAIN のエラー表示が出ます。

Fnorio

 ドメインの情報を調べてみたところ fnorio.com は2002年2月22日に登録されたサイトです。つまり24年間の長きにわたり運用されてきたサイトです。ドメインの間近の有効期限を調べてみたところ 2026年2月22日でしたので、ドメインの契約が更新されなかったためサイトが閉じられたものと思われます。管理者のメールアドレスも fnorio.com ドメインですので連絡を取ることができない状態です。

 光と色との管理者も「FNの高校物理 (fnorio.com)」でいろいろと勉強させて頂きましたのでサイトが消滅している現状はとても残念に思っています。更新忘れなどの理由でサイトが復活してくれるのが何よりですが、サイトが消滅してしまってもインターネット上にアーカイブは残されています。現時点では次のWayback Machineのアーカイブページから各記事を参照することができます。 3月末になっても復活しない場合は残念ながら消滅した可能性が高いです。

Wayback Machine 「FNの高校物理(分野別目次) 」

https://web.archive.org/web/20251226200222/http://www.fnorio.com/index.htm

Waybackmachine-fnorio

 

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2026年1月23日 (金)

光の三原色の教育ツールデモンストレーター

 光の三原色の加法混色を確認することができる実験装置です。前面のつまみで赤・緑・青の原色の明るさを調整することができ、2色の光の混合や3色の光の混合を行うことができます。

「光の三原色」と「色の三原色」の原理と仕組みについては下記のページを参照してください。
【関連記事】「光の三原色」と「色の三原色」の原理と仕組み|色が見える仕組み(7)

Generic 光の3原色物理光学教育ツールデモンストレーター

サイズ:約12x8x11cm / 4.72x3.15x4.33インチ

 

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2023年5月11日 (木)

太陽と雲と薄明光線

 河川沿いの土手を歩いていたら空に大きな雲が広がっていました。風に吹かれて左の方へ移動していきます。雲の左側には太陽が輝いていたのですが雲に遮らられていきます。太陽が雲に隠れると雲の切れ間から光芒が漏れ出しました。これは薄明光線と言って雲の端や切れ間から光が漏れて光線が放射状に見える現象です。光線が下に降り注ぐ薄明光線は天使の柱とも呼ばれます。今回は光線が漏れ出している位置の下側に厚い雲が広がっているので天使の柱とまでは言えないような薄明光線でした。

1_20230511140201

 光線が漏れ出しているところを拡大撮影してみました。上の写真より雲がやや左側に移動し太陽がさらに雲に隠れています。太陽光と雲の厚さで複雑な色合いになっています。上から1/3ぐらいのところと1/2ぐらいのところになんだか動物の顔のように見えますね。1/3のところは口を大きく開いています。1/2のところは青い目が不気味です。

2_20230511140201

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2021年1月20日 (水)

太陽と月が同じ大きさに見える理由

 太陽の平均直径は1,392,000 km、月の平均直径は3,474.8 kmです。直径で比較すると太陽は月の400倍です。太陽の直径は月が400個も並ぶ大きさです。ところが、地球から太陽と月を見たときには、ほとんど同じ大きさに見えます。次の写真は太陽と月を同じ倍率で撮影して、見かけの大きさを比較したものです。

太陽と月の見かけの大きさの比較
太陽と月の見かけの大きさの比較

 地球から見たときに太陽と月が同じ大きさに見えるのは「地球から太陽の距離」と「地球から月までの距離」に関係しています。景色を眺めているとき、遠いところにあるものが小さく見えることは、日常でも体験していることと思います。

遠くにある柱は小さく見える
同じ大きさの柱でも遠くにあるものは小さく見える

 次の図は近くの物体Aと遠くの物体Bを見たときの様子を示したもです。これら2つの物体は同じ大きさですが、それぞれの物体までの距離が異なるため、物体を出た光が眼に入ってくる角度が異なります。そのため、網膜にできる像が、それぞれA'とB'となり、結果として、遠いところにある物体Bは近いところにある物体Aよりも小さく見えるのです。また、物体Cは物体Aよりも大きいのですが、物体Aと同じ大きさに見えます。

物体の大きさの捉え方
物体の大きさの捉え方

 このように、私たちは物体の大きさを光がやってくる角度として捉えます。従って、この角度で物体の見かけの大きさを表すことができます。この角度は次の図のようにえると求めることができます。

物体の見かけの大きさの求め方
物体の見かけの大きさの求め方

 物体の大きさy、物体までの距離L、物体が見える角度θの間には次の関係があります。

tanθ = y/L または y = L・tanθ

 さて、冒頭で述べたように太陽の平均直径は1,392,000 km、月の平均直径は3,474.8 kmですが、地球と太陽の平均距離は149,597,870 km、 地球と月の平均距離は384,400km です。これを上式に当てはめると、

太陽の場合は、

tanθ = 1,392,200/149,597,870
θ = 0.53

月の場合は、

tanθ = 3,474.8/384,400
θ = 0.52

となり、どちらの角度も約0.5度になります。結果として、太陽と月の見かけの大きさ(視直径)はほとんど同じ大きさになります。

 地球と太陽は上図の物体Aと物体Cと同じような位置関係にあり、太陽と月の視直径は約0.5度で、地球からの見かけの大きさは同じと覚えておくと良いでしょう。

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2020年10月 5日 (月)

安価なスタンド付き三角プリズム

三角プリズム 物理学 光の実験 教育 光学ガラス製 光スペクトル 物理教育

 三角プリズムは以前は高価だったのですが、最近では安価な中国製のものが入手できるようになりました。しかしながら、スタンド付き(台座付き)の三角プリズムは安価なものはありませんでした。この三角プリズムは価格は2,400円ぐらいで、写真のようにプラスチック製のスタンドが付いています。プラスチック製ですので、多少のゆがみはありますが、簡単なプリズム分散の実験には十分に使えます。スタンドがなくて実験に苦労していた人は楽になると思います。

 プリズム本体は光学ガラス製とあります。どんな光学ガラスなのかは説明はありませんが、本ブログの記事「光学ガラス製のガラス玉」で紹介したBK7相当のK9と呼ばれれているものかもしれません。

台座付き三角プリズム
台座付き三角プリズム

 次のような箱に入って届きました。中国語で三角プリズムは「三稜鏡」と言います。ちなみにレンズは「透鏡」です。

三稜鏡の箱
三稜鏡の箱

【仕様】

材質:プラスチックスタンド、光学ガラスプリズム
スタンドカラー:ブラック
サイズ(L * W):17 * 12cm
重量:約 109g

パッケージに含まれるもの:
1×光学三角プリズム
1×ブラックスタンド

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2020年9月29日 (火)

凹レンズの公式の導出-虚像

 凹レンズでできる虚像のレンズの写像公式も実像のときと同様に求めることができます。

凹レンズでできる虚像
凹レンズでできる虚像

 この図からレンズの公式を導くことができます。

 次の図で△OABと△OA’B’が相似形であることに注目します。

凹レンズの虚像の相似形
凹レンズの虚像の相似形

△OABと△OA’B’が相似形ですから、

A’B’/AB=B’O/BO=b/a ……(1)式

の関係にあります。

次に、下図で△FPOと△FA’B’が相似形であることに注目します。

凹レンズの虚像の相似形
凹レンズの虚像の相似形

△FPOと△FA’B’が相似形ですから、

A’B’/PO=B’F/OF=(f-b)/f ……(2)式

の関係にあります。

ここで、AB=POであることに着目すると(1)式と(2)式が等しいことがわかります。

つまり、

b/a=(fーb)/f

の関係にあります。

この式を変形すると、

bf=afーab

となります。

両辺をfで割ると

b=aーab/f

より

-ab/f=b-a

両辺をabで割ると

-1/f=1/a-1/b ……(3)式

となります。

凹レンズの場合はf<0とし、また虚像はb<0とする約束がありますので、

1/f=1/a+1/b

のように表すことができます。

レンズの倍率mは虚像の高さと物体の高さの比ですからA’B‘/ABです。これは(1)式と同じですから、次の式が得られます。

m=A’B’/AB=b/a

ここで(3)式を考えてみましょう。1/a  と 1/b の差分が -1/f ですから、1/a - 1/b は負の値となることがわかります。

ということは

1/b > 1 /a

ということです。つまり、

b/a < 1

凹レンズの虚像の倍率は常に1より小さくなります。

これは凹レンズでは物体を拡大して見ることができないことを意味しています。

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2020年9月18日 (金)

光の反射の実験で半円レンズが使われる理由

 光の反射の実験のときに半円レンズを使う場合があります。次の図のように、光線を半円レンズの曲面からレンズの中心に向けて入射し、入射角と反射角が等しいことを確認します。

1_20200918101401
半円レンズによる反射の実験

 なぜ反射の実験に半円レンズが使われることが多いのでしょうか。それは半円レンズの中心に向かう光線および半円レンズの中心で反射する光線が半円レンズの曲面で屈折しないからです。光線が曲面の接線に対して垂直になっているため、そのまま直進するのです。

 そのため任意の入射角で光を入れたときに、必ず入射角=反射角になることを容易に確認できます。四角いガラス板の場合は、光が入射する点と射出する点で屈折するため、上図のようにはなりません。

 光線を半円レンズの中心からずれた位置に向けて入射すると、光線は曲面で屈折します。ナリカチャンネルに半円レンズの反射の実験の様子の映像がありました。

D20-1626 光の屈折・反射実験セット RRL-3Y

反射の実験で半円レンズを使うと、屈折の実験にスムーズに移行できます。

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2020年6月29日 (月)

白いアジサイ「アナベル」はなぜ白いのか?

近所の家の軒先でアジサイがとても綺麗に咲いていました。

アジサイ 紫陽花

 アジサイの花の色を左右する重要な物質は土壌中に含まれるアルミニウムです。アジサイの花の色素のデルフィニジンはアルミニウムと結びつくと青色に呈色し、アルミニウムが少ないと赤色に呈色する性質があります。

 アルミニウムは土壌中にたくさん含まれていますが、土壌が酸性だと溶け出しやすく、植物に吸収されやすくなります。一方、土壌がアルカリ性だと溶け出しにくくなります。

 同じ株に咲いているのに色の違う花をつけるのは、アジサイの根が四方八方に広がっているからです。雨が降ったり、水を与えているうちに、土壌の成分が流れ出したりして、酸性度やアルミニウムの量が変化すると、根が吸収するアルミニウムの量が変わるため、色が変わってくるのです。このあたりについては、本ブログ「光と色と:花の色はいろいろ」で解説しています。

 さて、写真の中に白いアジサイが咲いています。この白いアジサイはアナベルという品種です。アナベルはアルミニウムと結びつく色素をもっていないため、土壌の酸性度によって色が変わりません。アナベルは咲き始めの成長時期はクロロフィルにより、薄い緑色をしていますが、成長すると真っ白な花になります。

アナベル アジサイ

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四色のアジサイ

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2020年6月16日 (火)

レンチキュラーレンズで光学迷彩?(3) ものが消えて見える原理と仕組み

 レンチキュラーレンズで鉛筆が消えて見える

 次の写真の右上のように、縦向きに置いた鉛筆のうえに横向きに鉛筆を置きます。これを=の方向にしたレンチキュラーレンズの通して見ると、写真の左のように上に置いたはずの横向きの鉛筆が消えて、下に置いたはずの縦向きの鉛筆が見えます。このままの状態で、写真右下のようにレンチキュラーレンズを90度回転し、‖の方向にすると、縦向きの鉛筆が消えて、横向きの鉛筆が見えます。また、よく見てみると、写真左では、横向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(縦置きの鉛筆の左右)、写真右下では、縦向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(横向きの鉛筆の上下)が背景色とい同じオレンジ色になっています。

レンチキュラーレンズで鉛筆が消える
レンチキュラーレンズで鉛筆が消える

レンチキュラーレンズでものが消えて見える理由は、少年写真新聞社理科教育ニュースの2020年5月28日号に解説が掲載されていますが、ここでは、この現象についてもう少し詳しく解説します。さらに理解を深めることができればと思います。

シリンドリカルレンズの虚像

 レンチキュラーレンズによる鉛筆の見え方の変化の現象の基本的原理はシリンドリカルレンズでできる実像です。なぜなら、この現象は、レンチキュラーレンズを鉛筆に密着した状態で見ているときには起きないからです。ですから、上の写真のように、鉛筆が方向によって、見えたり消えたりするのは、レンチキュラーレンズでできる鉛筆の実像を見ていることになります。

 理解を深めるために、まずはひとつのシリンドリカルレンズで見える虚像を考えてみます。シリンドリカルレンズでできる虚像は、曲面がある方向に拡大されます。下の写真はグラフ用紙の真上にシリンドリカルレンズを=の方向に置いたものです。シリンドルカルレンズを=の方向に置いたとき、縦方向には曲面がありますが、横方向には曲面がありません。

レンチキュラーレンズの虚像
レンチキュラーレンズの虚像

 上の写真でレンズの中のグラフを見てみると、縦方向の線の太さや、縦線の間隔には変化がないことがわかります。これは曲面のない横方向で光が屈折しないからです。一方、横方向の線は太くなっており、横線の間隔も広くなっています。レンズの外側では横線は 4 行あるのに、レンズの中では拡大された 2行しか見えていなません。これは、曲面のある縦方向で光が屈折するからです。

 この虚像の現象からは、上の鉛筆が消える写真の現象を説明することはできません。虚像の場合、シリンドリカルレンズを置く方向にかかわらず、縦方向の鉛筆も横方向の鉛筆も消えて見えなくなることはありません。また、上述の通り、鉛筆が消えている部分が背景のオレンジ色になっていますが、虚像ではこのようなことは起こりません。

シリンドリカルレンズの実像

 次にシリンドリカルレンズをグラフ用紙から離し、実像を観察してみます。光が屈折しない方向の縦線の太さや間隔は、虚像のときと同様に変化がありません。一方、横線については、虚像とは異なり、縦方向が圧縮され、たくさんの行が見えています。シリンドリカルレンズでできる実像は光を屈折する方向に直線上に集まるようにできますので、これは理に適っています。

シリンドリカルレンズの実像
シリンドリカルレンズの実像

 また、=の方向に置いたシリンドリカルレンズでできる実像は縦方向が反転していて、横方向はそのままであることに留意しておきましょう。ですから、レンズの中の上側の列は、実際には下の列が見えていて、レンズの中の下側の列は実際の上の列が見えています。下記のようにグラフの上に赤いラインを引くと縦方向が反転していることがわかります。 

 リンドリカルレンズの実像(縦方向反転) 
シリンドリカルレンズの実像(縦方向反転)

さらに、レンズをグラフから離していくと、さらに縦方向が圧縮されて、横線が見えなくなります。ところで、縦方向が詰まっているということは、変化がないように見える縦線も実は縦方向に詰まっているということです。

シリンドリカルレンズの実像
シリンドリカルレンズの実像(横線が見えなくなる)

 次の図はシリンドリカルレンズでできる実像の仕組みを示したものです。シリンドリカルレンズを=の方向に配置すると、横長の物体ABの実像A'B'は、横方向はそのままですが、縦方向が縮んで細い線状となるため、視認しずらくなります。一方、縦長の物体CDの実像C'D'も縦方向に縮みますが、物体が十分に縦長なため、視認できます。レンズを90度回転すると、今度はC'D'が視認できなくなります。

シリンドリカルレンズの実像(模式図)

シリンドリカルレンズの実像(模式図)

 レンチキュラーレンズの各々のレンズの実像は反転していますが、微小な領域のため全体として見たときには反転して見えません。また、横置きの鉛筆の下側にある縦置き鉛筆が前面にあるように見えるのは、レンチキュラーレンズに物体を引き延ばして見せる効果があるからです。レンチキュラーレンズで鉛筆の端の方を観察すると、鉛筆が伸びて見えることがわかります。

 このことを確認するためパソコンで画像を作成して次のような確認をしてみました。

パソコンで次のような絵を描き(左)、これをレンチキュラーレンズを通してみてみました。画面にレンチキュラーレンズをぴったりとつけて、虚像を観察すると、レンチキュラーレンズの方向にかかわらず、元の絵からほとんど変化していません。

レンチキュラーレンズの虚像 元の絵(左) =方向(中) ‖方向(右)
レンチキュラーレンズの虚像 元の絵(左) =方向(中) ‖方向(右)

 レンチキュラーレンズを画面から離して、実像を観察すると、レンチュキュラーの置き方が=方向(写真左)か‖方向か(写真中)によって、元の絵とは見え方が変わります。最初の鉛筆の実験の写真と同じ結果となっています。

レンチキュラーレンズの実像 =方向(左) ‖方向(中) =方向で伸びる(右)
レンチキュラーレンズの実像 =方向(左) ‖方向(中) =方向で伸びる(右)

 写真左において、縦長の棒しか見えないのは、横長の棒がシリンドリカルレンズの屈折の働きで圧縮されてしまいぼやけて視認できなくなるからです。実際には縦長の棒も圧縮されていますが、圧縮される方向に縦長のため、横長の棒のようぼけたようには見えません。また、横長の棒の下側にあるはずの縦長の棒が前面に出ているように見えるのは、レンチキュラーレンズが物体を引き延ばして見せるからです。写真右を見ると、縦長の棒と黒い背景が下側に伸びて見えることがわかります。最初の鉛筆の写真で背面のオレンジ色が前面に出てきているのも同じ理由です。

 以上がレンチキュラーレンズの向きで、縦横の向きの鉛筆が消えて見える理由です。

さて、レンチキュラーレンズを通してものを見ると、確かにものが消えます。これはレンチキュラーレンズでできる実像が圧縮したり伸びたりしてぼやけているからです。確かに特殊なレンズを用いた面白い現象ですが、これだけですと光学迷彩というまでには少し無理がありそうです。

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