レンチキュラーレンズで鉛筆が消えて見える
次の写真の右上のように、縦向きに置いた鉛筆のうえに横向きに鉛筆を置きます。これを=の方向にしたレンチキュラーレンズの通して見ると、写真の左のように上に置いたはずの横向きの鉛筆が消えて、下に置いたはずの縦向きの鉛筆が見えます。このままの状態で、写真右下のようにレンチキュラーレンズを90度回転し、‖の方向にすると、縦向きの鉛筆が消えて、横向きの鉛筆が見えます。また、よく見てみると、写真左では、横向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(縦置きの鉛筆の左右)、写真右下では、縦向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(横向きの鉛筆の上下)が背景色とい同じオレンジ色になっています。
レンチキュラーレンズで鉛筆が消える
レンチキュラーレンズでものが消えて見える理由は、少年写真新聞社|理科教育ニュースの2020年5月28日号に解説が掲載されていますが、ここでは、この現象についてもう少し詳しく解説します。さらに理解を深めることができればと思います。
シリンドリカルレンズの虚像
レンチキュラーレンズによる鉛筆の見え方の変化の現象の基本的原理はシリンドリカルレンズでできる実像です。なぜなら、この現象は、レンチキュラーレンズを鉛筆に密着した状態で見ているときには起きないからです。ですから、上の写真のように、鉛筆が方向によって、見えたり消えたりするのは、レンチキュラーレンズでできる鉛筆の実像を見ていることになります。
理解を深めるために、まずはひとつのシリンドリカルレンズで見える虚像を考えてみます。シリンドリカルレンズでできる虚像は、曲面がある方向に拡大されます。下の写真はグラフ用紙の真上にシリンドリカルレンズを=の方向に置いたものです。シリンドルカルレンズを=の方向に置いたとき、縦方向には曲面がありますが、横方向には曲面がありません。
レンチキュラーレンズの虚像
上の写真でレンズの中のグラフを見てみると、縦方向の線の太さや、縦線の間隔には変化がないことがわかります。これは曲面のない横方向で光が屈折しないからです。一方、横方向の線は太くなっており、横線の間隔も広くなっています。レンズの外側では横線は 4 行あるのに、レンズの中では拡大された 2行しか見えていなません。これは、曲面のある縦方向で光が屈折するからです。
この虚像の現象からは、上の鉛筆が消える写真の現象を説明することはできません。虚像の場合、シリンドリカルレンズを置く方向にかかわらず、縦方向の鉛筆も横方向の鉛筆も消えて見えなくなることはありません。また、上述の通り、鉛筆が消えている部分が背景のオレンジ色になっていますが、虚像ではこのようなことは起こりません。
シリンドリカルレンズの実像
次にシリンドリカルレンズをグラフ用紙から離し、実像を観察してみます。光が屈折しない方向の縦線の太さや間隔は、虚像のときと同様に変化がありません。一方、横線については、虚像とは異なり、縦方向が圧縮され、たくさんの行が見えています。シリンドリカルレンズでできる実像は光を屈折する方向に直線上に集まるようにできますので、これは理に適っています。
シリンドリカルレンズの実像
また、=の方向に置いたシリンドリカルレンズでできる実像は縦方向が反転していて、横方向はそのままであることに留意しておきましょう。ですから、レンズの中の上側の列は、実際には下の列が見えていて、レンズの中の下側の列は実際の上の列が見えています。下記のようにグラフの上に赤いラインを引くと縦方向が反転していることがわかります。
シリンドリカルレンズの実像(縦方向反転)
さらに、レンズをグラフから離していくと、さらに縦方向が圧縮されて、横線が見えなくなります。ところで、縦方向が詰まっているということは、変化がないように見える縦線も実は縦方向に詰まっているということです。
シリンドリカルレンズの実像(横線が見えなくなる)
次の図はシリンドリカルレンズでできる実像の仕組みを示したものです。シリンドリカルレンズを=の方向に配置すると、横長の物体ABの実像A'B'は、横方向はそのままですが、縦方向が縮んで細い線状となるため、視認しずらくなります。一方、縦長の物体CDの実像C'D'も縦方向に縮みますが、物体が十分に縦長なため、視認できます。レンズを90度回転すると、今度はC'D'が視認できなくなります。
シリンドリカルレンズの実像(模式図)
レンチキュラーレンズの各々のレンズの実像は反転していますが、微小な領域のため全体として見たときには反転して見えません。また、横置きの鉛筆の下側にある縦置き鉛筆が前面にあるように見えるのは、レンチキュラーレンズに物体を引き延ばして見せる効果があるからです。レンチキュラーレンズで鉛筆の端の方を観察すると、鉛筆が伸びて見えることがわかります。
このことを確認するためパソコンで画像を作成して次のような確認をしてみました。
パソコンで次のような絵を描き(左)、これをレンチキュラーレンズを通してみてみました。画面にレンチキュラーレンズをぴったりとつけて、虚像を観察すると、レンチキュラーレンズの方向にかかわらず、元の絵からほとんど変化していません。
レンチキュラーレンズの虚像 元の絵(左) =方向(中) ‖方向(右)
レンチキュラーレンズを画面から離して、実像を観察すると、レンチュキュラーの置き方が=方向(写真左)か‖方向か(写真中)によって、元の絵とは見え方が変わります。最初の鉛筆の実験の写真と同じ結果となっています。
レンチキュラーレンズの実像 =方向(左) ‖方向(中) =方向で伸びる(右)
写真左において、縦長の棒しか見えないのは、横長の棒がシリンドリカルレンズの屈折の働きで圧縮されてしまいぼやけて視認できなくなるからです。実際には縦長の棒も圧縮されていますが、圧縮される方向に縦長のため、横長の棒のようぼけたようには見えません。また、横長の棒の下側にあるはずの縦長の棒が前面に出ているように見えるのは、レンチキュラーレンズが物体を引き延ばして見せるからです。写真右を見ると、縦長の棒と黒い背景が下側に伸びて見えることがわかります。最初の鉛筆の写真で背面のオレンジ色が前面に出てきているのも同じ理由です。
以上がレンチキュラーレンズの向きで、縦横の向きの鉛筆が消えて見える理由です。
さて、レンチキュラーレンズを通してものを見ると、確かにものが消えます。これはレンチキュラーレンズでできる実像が圧縮したり伸びたりしてぼやけているからです。確かに特殊なレンズを用いた面白い現象ですが、これだけですと光学迷彩というまでには少し無理がありそうです。
人気ブログランキングへ
【関連記事】
最近のコメント