光の三原色の波長はなぜ解説によって異なるのか?|視物質・条件等色・CIEの定義の波長
最終更新日:2026年3月10日
光の三原色(RGB)の原理を深く探求していくと避けて通れないのが波長(nm)という具体的な数値です。しかし、この波長を調べるとWebサイトや参考書によって数値が微妙に異なっていることに気づきませんか?
波長が異なる理由はいくつかありますが、その違いは何を対象にした解説なのかによります。何を解説しているのか明記しているものもありますが、単に光の三原色の波長や錐体細胞の波長としか記されていない解説もあります。異なる定義の混同によって、科学的な正確さを欠いている解説が少なからずあるのです。また古い文献値、誤記、由来が不明なものなどがあります。
1. 錐体細胞に含まれている視物質の最大吸収波長
錐体細胞にはL錐体(赤錐体)、M錐体(緑錐体)、S錐体(青錐体)がありますが、それぞれの波長を、560 nm、530 nm、430 nm(または420 nm)としているものです。また、それぞれのピーク波長に幅を持たせて、L錐体を560-580 nm、M錐体を530-540 nm、S錐体を420-440 nmとしている解説もあります。
Wikipediaには次の図が掲載されています。

Spectral absorption curves of the short (S), medium (M) and long (L) wavelength pigments in human cone and rod (R) cells.
After Bowmaker J.K. and Dartnall H.J.A., "Visual pigments of rods and cones in a human retina." ''J. Physiol.'' '''298''': pp501-511
この値は錐体細胞の視物質を抽出してその吸収スペクトルを分光光度計で測定したものです。ですから、眼の角膜、水晶体、硝子体での光の吸収の影響を受けていません。ですから視物質の物理的な吸収スペクトルと最大吸収波長です。
なお上図の横軸が等間隔ではないことに留意してください。この図をもとに作成した図で解説しているものがありますが、グラフはそのままで横軸を等間隔にした誤った図をよく見かけます。図の中にピークの数値が入っていないものは間違えてしまいます。
2.条件等色から求めたヒトの色覚の最大吸収波長
錐体細胞の刺激の割合から色を認識しているのは脳です。ですから、前述の視細胞の最大吸収波長とヒトの色覚の3色に対する最大応答波長は異なります。こちらの波長は条件等色の実験から生理学的に求められた波長で、L錐体が560 nm、M錐体が540 nm、S錐体が440 nmとされています。条件等色(メタメリズム)とは成分が異なる2つの光の色刺激が、特定の観測条件で等しい色に見えることです。例えば、光の三原色の緑色光と青色光を混ぜるとシアン光が得られます。単色光のシアン光とは光の成分が異なりますが、ほぼ同じ色に見えます(厳密には同じ色にならず単色光のシアンの方が鮮明になります。詳しい解説は「シアンのおはなし|単色光(波長)と複合光が存在する色」を参照)。

Simplified human cone response curves.
Based on Dicklyon's PNG version, itself based on data from Stockman, MacLeod & Johnson (1993) Journal of the Optical Society of America A, 10, 2491-2521d
(linear energy human cone response, via http://www.cvrl.org/database/text/cones/smj2.htm and http://www.cvrl.org/cones.htm)
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3.CIEが定義した光の三原色(RGB)の波長の国際規格
1931年に国際照明委員会(CIE, Commission Internationale de l'Eclairage)は光の三原色の波長を赤色光700 nm、緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの単色光と定義しました。この定義はイギリスのJohn GuildとWilliam David Wrightがそれぞれ別途に報告した条件等色の実験の結果から採用された値です。現在は単色光を発光するLED(発光ダイオード)光源がありますが、当時は実験に使いやすい光の波長が選ばれました。緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの光は水銀ランプの輝線です。赤色光はタングステンランプの白色光を分光器で分散させて得られた650 nmの光が使われましたが、定義としてはより長波長の700 nmの光が採用されました。
3.古い文献値、誤記、由来が不明なもの
数値が間違っている解説も多く見かけます。それらのサイトをこの記事ですべて紹介することはできませんが、問い合わせを頂いた中から最も間違いの影響が大きいと考えられるページを紹介します。
Googleでキーワード「光の三原色」で検索すると「FNの高校物理」の「光と絵の具の三原色(色とは何か)」というページが検索順位1位および強調スニペット(通称0位)に表示されます。このページは物理学を詳しく解説しており自分も尊敬するサイトの一つです。ところが、このページの中に次の記述があります。
つまりL錐体は610 nm、M錐体は550 nm、S錐体は450 nmと説明しています。これらの数値は文章の内容からは錐体細胞の3つの視細胞の最大吸収波長と考えられます。そうであるならばこの数値は間違っています。また条件等色による波長やCIEが定義した波長の数値とも異なっており何に由来する数値かわかりません。文章内に書籍の1ページをまるごとコピーした写真へのリンクがありますが、そこにも波長の記載はありません。その下に図2が表示されていますが、この図は太陽光のスペクトルに本記事で紹介した条件等色の図「Simplified human cone response curves.」を重ねたものと思われます。波長の数値が誤記としても図は上述の説明とは異なるものです。
図3は条件等色の実験から得られたLMS色空間の応答曲線です。これは色を再現(表示)するためのものではなく、ヒトが色覚が色をどのように知覚しているかを示すものです。ここから光の三原色の光源の波長について言及し、あたかも光の三原色ですべての色を表現できるかのような解説となっていますが、実際にはヒトの色覚を再現できる光の三原色の光源は存在しません。RGB色空間やXYZ色空間について解説もされていないので説明が中途半端になっています。
その後のオプシンの解説ではレチナールの構造変化の説明をしていると思われるリンクが403エラーとなっています。また光受容細胞1、光受容細胞2、光受容細胞3のリンク先は著作物のコピーとなっています。引用が表示されていますが1ページ丸ごとコピーの画像表示は引用の範疇を超えておりいただけません。
また、光の三原色と色の三原色の解説であるにも関わらず、加法混色や減法混色とは関係ない発光・発色の事例が掲載されています。
FNの高校物理は優れたサイトではありますが、光の三原色と色の三原色の解説ページとしては内容は適切ではないと考えます。このページをGoogleが検索順位1位や強調スニペットに表示していることについては色彩を学ぶ人たちに対して悪い影響を与えることを懸念しています。
※FNの高校物理は非常に秀逸なサイトですが更新は止まっているようです。最近ではドメインの有効期限切れで長らくサイトが消滅しており、管理者様への連絡もできない状態でした。幸いサイトは復活しましたがドメインの有効期限が10年先になっていました。誤りの指摘をできる可能性は低いと判断し、こちらで紹介させて頂くことにしました。
4.光の三原色RGBの比較表
| 分類 | L錐体 | M錐体 | S錐体 | 解説・意味合い |
| 1. 視細胞 | 560 nm | 530 nm | 430 nm | 網膜の錐体細胞(フォトプシン)が物理的に最も強く吸収する波長 |
| 2. 等色条件 | 560 nm | 540 nm | 440 nm | 脳内処理を経てヒトが赤・緑・青と知覚する波長 |
| 3. CIEの規格 | 700 nm | 546.1 nm | 435.8 nm | 色彩計測の基準として水銀灯の輝線等を用いて定義された波長です。 |
【参考記事】
光の三原色(RGB)と色の三原色(CMY)の原理と仕組み、色が見える仕組み、条件等色、光の三原色の波長が決まった経緯については次のページを参照してください。
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Author:Photon(工学修士 専門:光学、光分析、機器分析 執筆:光と色やレンズの本を執筆 日本分析化学会会員)
本サイトの図表や解説は教育機関における著作物利用を管理する「SARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)」を通じて学校教育の現場でも活用されています
色彩の科学の基本について詳しく学びたい方には次の書籍をおすすめします。このページで指摘していることをより深く理解することができます。
金子 隆芳 (著)(筑波大学名誉教授 専門:色彩心理学)
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