視覚

2026年3月 8日 (日)

光の三原色の波長はなぜ解説によって異なるのか?|視物質・条件等色・CIEの定義の波長

 

最終更新日:2026年3月10日

 光の三原色(RGB)の原理を深く探求していくと避けて通れないのが波長(nm)という具体的な数値です。しかし、この波長を調べるとWebサイトや参考書によって数値が微妙に異なっていることに気づきませんか?

 波長が異なる理由はいくつかありますが、その違いは何を対象にした解説なのかによります。何を解説しているのか明記しているものもありますが、単に光の三原色の波長や錐体細胞の波長としか記されていない解説もあります。異なる定義の混同によって、科学的な正確さを欠いている解説が少なからずあるのです。また古い文献値、誤記、由来が不明なものなどがあります。

1. 錐体細胞に含まれている視物質の最大吸収波長

 錐体細胞にはL錐体(赤錐体)、M錐体(緑錐体)、S錐体(青錐体)がありますが、それぞれの波長を、560 nm、530 nm、430 nm(または420 nm)としているものです。また、それぞれのピーク波長に幅を持たせて、L錐体を560-580 nm、M錐体を530-540 nm、S錐体を420-440 nmとしている解説もあります。

 Wikipediaには次の図が掲載されています。


Spectral-absorption-curves-of-the-short-
Spectral absorption curves of the short (S), medium (M) and long (L) wavelength pigments in human cone and rod (R) cells.
After Bowmaker J.K. and Dartnall H.J.A., "Visual pigments of rods and cones in a human retina." ''J. Physiol.'' '''298''': pp501-511

 この値は錐体細胞の視物質を抽出してその吸収スペクトルを分光光度計で測定したものです。ですから、眼の角膜、水晶体、硝子体での光の吸収の影響を受けていません。ですから視物質の物理的な吸収スペクトルと最大吸収波長です。

 なお上図の横軸が等間隔ではないことに留意してください。この図をもとに作成した図で解説しているものがありますが、グラフはそのままで横軸を等間隔にした誤った図をよく見かけます。図の中にピークの数値が入っていないものは間違えてしまいます。

2.条件等色から求めたヒトの色覚の最大吸収波長

 錐体細胞の刺激の割合から色を認識しているのは脳です。ですから、前述の視細胞の最大吸収波長とヒトの色覚の3色に対する最大応答波長は異なります。こちらの波長は条件等色の実験から生理学的に求められた波長で、L錐体が560 nm、M錐体が540 nm、S錐体が440 nmとされています。条件等色(メタメリズム)とは成分が異なる2つの光の色刺激が、特定の観測条件で等しい色に見えることです。例えば、光の三原色の緑色光と青色光を混ぜるとシアン光が得られます。単色光のシアン光とは光の成分が異なりますが、ほぼ同じ色に見えます(厳密には同じ色にならず単色光のシアンの方が鮮明になります。詳しい解説は「シアンのおはなし|単色光(波長)と複合光が存在する色」を参照)。

3.CIEが定義した光の三原色(RGB)の波長の国際規格

 1931年に国際照明委員会(CIE, Commission Internationale de l'Eclairage)は光の三原色の波長を赤色光700 nm、緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの単色光と定義しました。この定義はイギリスのJohn GuildとWilliam David Wrightがそれぞれ別途に報告した条件等色の実験の結果から採用された値です。現在は単色光を発光するLED(発光ダイオード)光源がありますが、当時は実験に使いやすい光の波長が選ばれました。緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの光は水銀ランプの輝線です。赤色光はタングステンランプの白色光を分光器で分散させて得られた650 nmの光が使われましたが、定義としてはより長波長の700 nmの光が採用されました。

太陽光に含まれる可視光線と光の三原色(RGB)の色の比較
太陽光に含まれる可視光線と光の三原色(RGB)の色の比較

3.古い文献値、誤記、由来が不明なもの

 数値が間違っている解説も多く見かけます。それらのサイトをこの記事ですべて紹介することはできませんが、問い合わせを頂いた中から最も間違いの影響が大きいと考えられるページを紹介します。

 Googleでキーワード「光の三原色」で検索すると「FNの高校物理」の「光と絵の具の三原色(色とは何か)」というページが検索順位1位および強調スニペット(通称0位)に表示されます。このページは物理学を詳しく解説しており自分も尊敬するサイトの一つです。ところが、このページの中に次の記述があります。

人間の目の網膜には、赤色波長(6.1×10-7m)近傍の光に共鳴してその光のエネルギーを吸収し興奮する細胞と、緑色波長(5.5×10-7m)近傍の光を共鳴吸収して興奮する細胞と、青色波長(4.5×10-7m)近傍の光を吸収共鳴して興奮する細胞がある。それらの細胞の先端は錐体状をしており、それぞれはL錐体(赤錐体)、M錐体(緑錐体)、S錐体(青錐体)と呼ばれる。

 つまりL錐体は610 nm、M錐体は550 nm、S錐体は450 nmと説明しています。これらの数値は文章の内容からは錐体細胞の3つの視細胞の最大吸収波長と考えられます。そうであるならばこの数値は間違っています。また条件等色による波長やCIEが定義した波長の数値とも異なっており何に由来する数値かわかりません。文章内に書籍の1ページをまるごとコピーした写真へのリンクがありますが、そこにも波長の記載はありません。その下に図2が表示されていますが、この図は太陽光のスペクトルに本記事で紹介した条件等色の図「Simplified human cone response curves.」を重ねたものと思われます。波長の数値が誤記としても図は上述の説明とは異なるものです。

 図3は条件等色の実験から得られたLMS色空間の応答曲線です。これは色を再現(表示)するためのものではなく、ヒトが色覚が色をどのように知覚しているかを示すものです。ここから光の三原色の光源の波長について言及し、あたかも光の三原色ですべての色を表現できるかのような解説となっていますが、実際にはヒトの色覚を再現できる光の三原色の光源は存在しません。RGB色空間やXYZ色空間について解説もされていないので説明が中途半端になっています。

 その後のオプシンの解説ではレチナールの構造変化の説明をしていると思われるリンクが403エラーとなっています。また光受容細胞1、光受容細胞2、光受容細胞3のリンク先は著作物のコピーとなっています。引用が表示されていますが1ページ丸ごとコピーの画像表示は引用の範疇を超えておりいただけません。

 また、光の三原色と色の三原色の解説であるにも関わらず、加法混色や減法混色とは関係ない発光・発色の事例が掲載されています。

 FNの高校物理は優れたサイトではありますが、光の三原色と色の三原色の解説ページとしては内容は適切ではないと考えます。このページをGoogleが検索順位1位や強調スニペットに表示していることについては色彩を学ぶ人たちに対して悪い影響を与えることを懸念しています。

 ※FNの高校物理は非常に秀逸なサイトですが更新は止まっているようです。最近ではドメインの有効期限切れで長らくサイトが消滅しており、管理者様への連絡もできない状態でした。幸いサイトは復活しましたがドメインの有効期限が10年先になっていました。誤りの指摘をできる可能性は低いと判断し、こちらで紹介させて頂くことにしました。

4.光の三原色RGBの比較表

光の三原色の波長:階層別(視細胞・生理学・CIE規格)比較データ一覧
分類 L錐体 M錐体 S錐体 解説・意味合い
1. 視細胞 560  nm 530  nm 430  nm 網膜の錐体細胞(フォトプシン)が物理的に最も強く吸収する波長
2. 等色条件 560  nm 540 nm 440 nm 脳内処理を経てヒトが赤・緑・青と知覚する波長
3. CIEの規格 700 nm 546.1 nm 435.8 nm 色彩計測の基準として水銀灯の輝線等を用いて定義された波長です。

【参考記事】

 光の三原色(RGB)と色の三原色(CMY)の原理と仕組み、色が見える仕組み、条件等色、光の三原色の波長が決まった経緯については次のページを参照してください。

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Author:Photon(工学修士 専門:光学、光分析、機器分析 執筆:光と色やレンズの本を執筆 日本分析化学会会員)

本サイトの図表や解説は教育機関における著作物利用を管理する「SARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)」を通じて学校教育の現場でも活用されています

色彩の科学の基本について詳しく学びたい方には次の書籍をおすすめします。このページで指摘していることをより深く理解することができます。

Photonの書評

色彩の科学(岩波新書 44)

金子 隆芳 (著)(筑波大学名誉教授 専門:色彩心理学)

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2025年12月27日 (土)

【#おもしろ映像】どれが本物? Optical illusion with printer

 プリンターで印刷された立体図の中に本物があります。どれも立体に見えて区別ができません。

どれが本物? Optical illusion with printer
どれが本物? Optical illusion with printer

 見る角度によって立体に見えるのですがどれも本物に見えます。

samsung printers optical illusion ibelieveinadv.com

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2025年12月19日 (金)

【#おもしろ映像】不思議な部屋 この錯視どうなっている?

この部屋の中のものは大きさがバラバラ。しかし、人間の脳はすっかりとだまされてしまうのです。

不思議な部屋 この錯視どうなっている?
不思議な部屋 この錯視どうなっている?

 「絵は壁にかかっているものだ」「コーヒーカップは机の上にあるものだ」「椅子はテーブルの横にあるものだ」というような先入観が視覚を混乱させるのでしょう。

Assumptions

 

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2023年5月14日 (日)

水中で色はどのように見えるか?

 水中の様子をカメラで撮影すると次の写真のように真っ青な世界が映ります。人間の目ではここまで青く見えないかもしれませんが、カメラはしっかりと水中では青色の世界であることを捉えています。

水中は青色の世界
水中は青色の世界

 次の図は水の吸収スペクトルです。水は波長が長い光をより吸収していることがわかります。500 nmより短い波長の青色系の光はほとんど吸収されていませんが、600 nmより長い波長の赤色系の光をたくさん吸収していることがわかります。水の光の吸収はわずかなためコップ1杯の水は青色には見えませんが、水の量が増えていくと青色に見えるようになります。

水の吸収スペクトル
水の吸収スペクトル

 さて水中の青色の世界でさまざまな色はどのように見えるでしょうか。深くなるにつれて全体の光の量が少なくなると同時に赤色系の光が失われてきます。この様子を実験して撮影したのが下記の映像です。深い水中では赤色は黒い色に見えます。水中に赤色系の光がほとんど存在しなくなるため赤色の物体が反射する光がなくなるからです。

Underwater Color Loss With GoPro 0 to 155 Feet Depth - Fishing Lure Deep Test

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2022年3月25日 (金)

青色光より短波長の光はなぜ紫色なのか|青紫と赤紫の違い

 虹やプリズムでできた光の色の帯を見ると青色光より短波長側に紫色光(バイオレット:青紫)が見えます。紫色は青色に赤味が加わった色ですが、どうして青色光より短波長側に長波長側の赤色が混ざった紫色光が見えるのでしょうか。

虹の光の色の帯(連続スペクトル)
虹の光の色の帯(連続スペクトル)

 青色光より短波長側に紫色光が見えるのはヒトの色覚に関係しています。「視覚が生じる仕組み 色が見える仕組み(3)」で説明した通り、ヒトの網膜には赤・緑・青の光を感じる錐体細胞があります。次の図はヒトの平均的な色覚の応答を図で表したものです。R(赤色光)、G(緑色光)、B(青色光)のグラフは光の波長に対してそれぞれの色を感じる色覚の刺激の割合を示したものでG(緑色光)の最大の刺激値を1として標準化したものです。

Cie-1931-xyz
CIE 1931 XYZ等色関数

 この図を見ると青色と緑色に対する色覚はそれぞれ450 nm付近と550 nm付近を中心とする光に応答することがわかります。一方、赤色に対する色覚は主に600 nm付近を中心とする赤色光に応答しますが450 nm付近を中心とする青色光にも応答することがわかります。

 たとえば波長450 nm付近の光に対しては青色と赤色の色覚が応答しますが、青色と赤色の刺激値の差が大きいため青色と認識します。波長450 nmより短い波長の光に対しては青色と赤色の刺激値の差が小さいため青色に赤色が加わった紫色と認識することになるのです。この紫は青色の応答が多いので青紫色の光となります。錐体の刺激により脳が色を認識する基本原理については光の三原色の仕組みと混色の原理を解説した次の記事で詳しく解説しています。

 さて光の三原色の混色では赤色光と青色光を混ぜるとマゼンタ(赤紫色)の光になります。赤色と青色の色覚がそれぞれ十分に応答するため赤紫色の光となります。マゼンタの光は前述の青紫色の光と異なり虹の中には存在しない色の光、つまり相当する波長の単色光がない光になります。ピンク色の単色光が存在しないのも同じ理由です。

 ヒトの色覚が単色光が存在するバイオレット(青紫)を認識する仕組みが理解できると、単色光が存在しないマゼンタ(赤紫)を脳がどのように認識しているかについても理解できます。マゼンタの詳細については次の記事を参考にしてください。

 

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2021年7月30日 (金)

見る―眼の誕生はわたしたちをどう変えたか

見る―眼の誕生はわたしたちをどう変えたか

サイモン・イングス (著) 吉田 利子 (翻訳)

 2009年に出版された本ですが、眼に関する様々なことが解説された本です。いろいろな動物の眼の進化や仕組みなどを解説しています。また、ヒトの視覚の研究の歴史についても触れられており、過去の科学者の取り組みなどを紹介しています。眼について光学と生物学だけではなく、幅広い分野の話を取り上げています。

Photo_20210730135201

単行本: 450ページ
出版社: 早川書房 (2009/1/23)
ISBN-10: 4152089997
ISBN-13: 978-4152089991
発売日: 2009/1/23
商品の寸法: 18.6 x 14.2 x 3.4 cm

【内容】

 光を効率よくとらえようとしてさまざまな生き物が眼を発達させ、見るという能力を獲得した。これまで見つかった最大の眼は、巨大なダイオウイカのもので、目玉の直径が40センチあったという。イカの眼とヒトの眼はまったく異なる進化をたどってきたものだが、それでも両者はじつによく似た構造をしているのだ。

 では、わたしたちはどうやってものを見ているのだろう。多くの哲学者や科学者がその謎に取り組んできた。プラトンは、眼がある種の光線を放射するおかげでものが見えるのだと唱えた。19世紀、死者の網膜には像が残ると言われ、殺人事件の捜査で眼球の写真が撮られた。色覚障害のあった科学者ドルトンは、自分の眼球の色が異なるのだと考え、死後に自分の眼を解剖させている。

 眼には想像以上の物語がある。眼の進化と意識、色覚や錯覚に隠された秘密、視覚の未来まで、眼と「見ること」のすべてを探る

 

・触れて触る眼―ホシバナモグラの鼻、ハダカデバネズミ
・カンブリア紀の大爆発と眼の誕生
・三葉虫のひさしを持った眼、あいだをおいてはめ込まれた眼
・ショウジョウバエの脚に作られた眼
・第三の眼、松果体
・「視光線」を放射している眼?
・色と言葉
・ステレオグラム
・殺人の原因にもなった視覚の化学
・虹が10色に見える4色型色覚をもつ女性
 その他

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2021年1月20日 (水)

太陽と月が同じ大きさに見える理由

 太陽の平均直径は1,392,000 km、月の平均直径は3,474.8 kmです。直径で比較すると太陽は月の400倍です。太陽の直径は月が400個も並ぶ大きさです。ところが、地球から太陽と月を見たときには、ほとんど同じ大きさに見えます。次の写真は太陽と月を同じ倍率で撮影して、見かけの大きさを比較したものです。

太陽と月の見かけの大きさの比較
太陽と月の見かけの大きさの比較

 地球から見たときに太陽と月が同じ大きさに見えるのは「地球から太陽の距離」と「地球から月までの距離」に関係しています。景色を眺めているとき、遠いところにあるものが小さく見えることは、日常でも体験していることと思います。

遠くにある柱は小さく見える
同じ大きさの柱でも遠くにあるものは小さく見える

 次の図は近くの物体Aと遠くの物体Bを見たときの様子を示したもです。これら2つの物体は同じ大きさですが、それぞれの物体までの距離が異なるため、物体を出た光が眼に入ってくる角度が異なります。そのため、網膜にできる像が、それぞれA'とB'となり、結果として、遠いところにある物体Bは近いところにある物体Aよりも小さく見えるのです。また、物体Cは物体Aよりも大きいのですが、物体Aと同じ大きさに見えます。

物体の大きさの捉え方
物体の大きさの捉え方

 このように、私たちは物体の大きさを光がやってくる角度として捉えます。従って、この角度で物体の見かけの大きさを表すことができます。この角度は次の図のようにえると求めることができます。

物体の見かけの大きさの求め方
物体の見かけの大きさの求め方

 物体の大きさy、物体までの距離L、物体が見える角度θの間には次の関係があります。

tanθ = y/L または y = L・tanθ

 さて、冒頭で述べたように太陽の平均直径は1,392,000 km、月の平均直径は3,474.8 kmですが、地球と太陽の平均距離は149,597,870 km、 地球と月の平均距離は384,400km です。これを上式に当てはめると、

太陽の場合は、

tanθ = 1,392,200/149,597,870
θ = 0.53

月の場合は、

tanθ = 3,474.8/384,400
θ = 0.52

となり、どちらの角度も約0.5度になります。結果として、太陽と月の見かけの大きさ(視直径)はほとんど同じ大きさになります。

 地球と太陽は上図の物体Aと物体Cと同じような位置関係にあり、太陽と月の視直径は約0.5度で、地球からの見かけの大きさは同じと覚えておくと良いでしょう。

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2020年10月17日 (土)

どっちが細長く見える?|シェパード錯視

 次の2つの箱を比べて見てください。どちらが細長く見えるでしょうか。

Shepard illusion シェパード錯視
どちらが細長く見える?

 この図はシェパード錯視といって、アメリカの認知科学者ロジャー・ニューランド・シェパード(Roger Newland Shepard )が1981年に下記の論文で発表したものです。

Shepard, R. N. (1981) Psychophysical complementarity. in Kubovy, M. and Pomeranz, J. (Eds.), Perceptual Organization, Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates, pp. 279-341. (see p.298)

 同様な錯視が1975年に日本の心理学者の牧野達郎が下記の論文で発表しています。

Makino, T. (1975). Comparison process as a factor of size-distance relationship. Psychologia, 18, 104-109.

 さて、こういう問題をわざわざ出すので答えは想像できると思いますが、左側と右側の箱の上部の平行四辺形はまったく同じ大きさです。そうは言っても、明らかに左側の方が細長く見えると思います。長い辺を奥行きの方へ傾くように配置すると長く見えます。ですが、左側の平行四辺形を45度右に回転してみると、

Shepard illusion シェパード錯視
左側の平行四辺形を回転してみると

 さて、平行四辺形でななく、次のように台形でやってみると、もっと誇張されます。この2つの台形は同じ大きさで同じ形をしています。

Shepard illusion シェパード錯視
台形にすると誇張される

 下記の本はロジャー・シェパードが1990年に発表した著作の日本語版です。

視覚のトリック―だまし絵が語る「見る」しくみ

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2020年5月17日 (日)

色彩の科学

色彩の科学 (岩波新書)

金子 隆芳 (著)

 初版1988年でいまだ新品で購入できます。自分の手元の本は2010年第10版でした。これだけ長く販売され続けている理由はこの本を読んでみればわかります。

 ニュートンの色彩論を皮切りに色彩の科学を、その発展の歴史とともに解説していきます。原著論文までしっかりと参照されており、ニュートン、ヤング、マクスウェル、ヘルムホルツなど色彩学の発展に関わる当時の科学者たちがたくさん登場し、彼らが実際に実験に用いた装置の写真や図が丁寧な説明とともに掲載されています。そして、現代色彩論の解説と展開しています。第9章「ゲーテの色の現象学」、第10章「ヘリングの心理学的色覚説」、第11章「物体色の色彩論」で色の本質にせまります。

 色彩を勉強する人にはおすすめの一冊です。

Photo_20200517111901

 内容(「BOOK」データベースより)

 豊かな色彩に囲まれた私たちの世界。だが「色が見える」とはどういうことなのだろうか?ニュートンやゲーテの色彩論以来、さまざまな人々がこの問題に取り組んできた。それらの成果を踏まえて、色覚異常や動物の色覚からイマジナリー・カラー、色ベクトルなどの最新理論まで、多岐にわたる色彩の世界を、物理学・心理学の両面から論じる。

新書: 220ページ
出版社: 岩波書店 (1988/10/20)
言語: 日本語
ISBN-10: 4004300444
ISBN-13: 978-4004300441
発売日: 1988/10/20
梱包サイズ: 17.2 x 10.4 x 1.2 cm

目次

1 ニュートン色彩論
2 色覚の三史
3 ヘルムホルツ三色説
4 測色学の祖・マクスウェル
5 現代色彩論の基本思想
6 現代色彩論のXYZ
7 ヘルムホルツ三原色と色覚異常
8 動物の色覚・処女開眼者の色覚
9 ゲーテの色の現象学
10 ヘリングの心理学的色覚説
11 物体色の色彩論
12 カラー・オーダー・システム

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2020年5月14日 (木)

光の三原色の波長はどのように決まったのか|色が見える仕組み(8)

最終更新:2026年3月8日

光の三原色の歴史

 ニュートンが1666年に行ったプリズムで虹をつくる実験をきっかけに「人間の眼はどのようにして色を感じているのか?」という疑問に関心が集まるようになりました。ニュートンをはじめ当時の学者たちは、人間の眼の中には光の色の数に相当する多種類の視細胞があると考えました。この考えに疑問をもったのがヤングでした。

ヒトの眼が色を感じる仕組みの探究のはじまり

 ヤングは1801年に絵の具の混色からヒントを得て「人間の眼の中には赤・緑・青の光を感じる視細胞があり、色は3つの視細胞が受けた刺激の割合で決まる」という三色説を提唱しました。ヤングの仮説は正しかったのですが、当時は光の混色実験が難しく再現性も乏しかったためまったく支持されませんでした。

 1860年、マクスウェルは色分けされた円板を回転させると別の色が見え、ある割合にすると白色に見えるという実験を行いました。Maxwellはこの実験で時間の経過とともに目に入る色光を変えて色をつくる継時加法混色を示したのです。

マクスウェルの円盤

この実験については、スコットランドの国立博物館のサイト(英語)に説明があります。当時の円板の写真も掲載されています。

彼は下記の装置で赤・緑・青の光の混合実験を行い、この3つの色光で白色光を作り出し、また様々な色を作り出せる可能性を示しました。

マクスウェルの箱

この装置を用いた実験については下記の論文に示されています。CAの方向から白色光を入れます。CBの間から入った白色光はミラーMで反射し、レンズLで集光されてEに向かいます。BAの間から入った白色光はスリットXYZを通って3つの白色光になります。3つの白色光はプリズムPで分光されて赤・緑・青の光となり、その後プリズムP'を通って混色され、レンズLをで集光されてEに向かいます。Eから覗くと、光の色を観察することができるようになっています。3色の光の強さはスリットXYZの位置と幅で調整することができます。BAから入ってEから出てくる光とCBから入ってEから出てくる白色光を比較し、BAからの混色された光がCBからの白色光と同じになるようにXYZを調整しました。


On the Theory of Compound Colours, and the Relations of the Colours of the Spectrum.
Philosophical Transactions, Vol. 150 pp. 57–84. 1 January 1860.
PDF https://www.jstor.org/stable/pdf/108759.pdf
本論文はJames Clerk Maxwellの単著となっていますが、この実験には夫人のKatherine Clerk Maxwellが貢献しています。この著書には観察者が2人出てきます。一人はJ.C. Maxwell本人ですが、本文中に出てくるもう一人の観測者Kは夫人のKatherineです。

 1868年、ヘルムホルツはヤングの3色説を定量的に解明し、ヤングの3色説が正しいことを説明しました。これをヤング・ヘルムホルツの三色説と言います。下図はヘルムホルツが求めた各錐体の分光感度曲線です。

ヤング・ヘルムホルツの三色説

こうしてヤング、マクスウェル、ヘルムホルツによって、三色説が有力な仮説となりました。

ヤング、マクスウェル、ヘルムホルツ

 1956年、スウェーデンの生理学者Gunnar Svaetichinは魚の網膜を調べ、青、緑、赤の3つの波長の光に特異的な感度を示すことを発見しまました。これは、ヤング・ヘルムホルツ三原色説を支持する最初の生理学的な実証となりました。


Spectral response curves from single cones,
Svaetichin, G., Actaphysiol. scand. 39, Suppl. 134, 17-46, 1956

網膜に赤・緑・青の光を感じる3種類の錐体細胞が存在することが確認されたのは1964年のことです。Marksらは錐体細胞を通した光と、錐体細胞を通していない光を比較することにより、光のスペ クトルの差を求め、網膜には 445nm(青)、535nm(緑)、570nm(赤)にピークをもつ3種類の視物質が存在することを証明しました。


Visual pigment of single primate canes.
Marks WB, Dobelle WH, MacNichol EF Jr:Science 143; 1181-1183, 1964.

 3種類の錐体の感度がもっとも高い波長は赤錐体450 nm、緑錐体530 nm、青錐体560 nmですが、それぞれの感度曲線は次の図のようにある程度の幅を持っています。

分光感度曲線

 青錐体はほぼ青色光に対応する感度分布になっていますが、緑錐体と赤錐体の感度分布は幅が広く、赤錐体は緑錐体よりも長波長側にシフトしているものの広い範囲で重複しています。青色の光に対しては、青錐体・緑錐体・赤錐体のすべてが応答することがわかります。この図を見てもわかるように、ある波長の光に対してひとつの錐体が応答するわけではありません。そのため、青錐体・緑錐体・赤錐体は波長の短(S)、中(M)、長(L)でそれぞれS錐体・M錐体・L錐体と呼ぶ場合もあります。

光の三原色を再現する等色とグラスマンの法則

 マクスウェルの実験からも分かる通り、赤・緑・青の光を任意に混合すると、様々な色を作ることができます。これは私たちが見ている色を光の三原色で再現できるということです。3色の光でどれぐらいの色を再現できるかは次の図のような装置を使うことで確認できます。例えば、白色光をプリズムで分けて得られる波長約490 nmのシアン(青緑)の単色光が、光の3原色でどのように再現できるかを調べる作業を行います。このような作業を色合わせ、もしくは等色と言います。

等色の実験 

 いま[A]と[B]、[C]と[D]という色光があるとします。それぞれの色光の組み合わせが等色であるとき、式1で表すことができます。このような式を等色式と言います。≡は等色であることを示す記号です。

[A]≡[B]   [C]≡[D]・・・(式1)

そして、上記の等色の実験から次の2つの法則があることが確かめられています。この2つの法則をグラスマンの法則と言います。

グラスマンの法則:比例則

光の強度を一定倍にしても等色式は成り立つ

α[A]≡ α[B]      β[C]≡ β[D]・・・(式2)

グラスマンの法則:加法則

等色の光同士を加えても等色式は成り立つ

[A]+[C] ≡[B]+[D]   [A] + [D] ≡ [B] + [C]・・・(式3)

また、ある試験光[A]が[R][G][B]の光をそれぞれα・β・γの割合で組み合わせたときにできるとき、式4のように表すことができます。

[A]≡ α[R] + β[G] + γ[B]・・・(式4)

グラスマンの法則では任意の[R][G][B]の光を決めてやれば、試験光を式4で表すことができます。しかし、様々な色の試験光に対して、[R][G][B]で色合わせを行うためには[R][G][B]の標準化が必要になります。

光の三原色の標準化

 1931年に国際照明委員会(CIE, Commission Internationale de l'Eclairage)は光の3原色を赤色光700 nm、緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの単色光としました。これらの波長は英国のJohn GuildWilliam David Wrightがそれぞれ別途に実施した等色実験の結果が採用されています。当時はLED(発光ダイオード)などありませんでしたから、実験に使いやすい光の波長が選ばれました。緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの光は水銀ランプの輝線です。赤色光はタングステンランプの白色光を分光器で分散させて得られた650 nmの光が使われましたが最終的にはより長波長の700 nmの光が採用されました。この三原色を使った色の表現方法をRGB表色系と言います。

 ところで、ヒトの眼の色を感じる錐体細胞は中心窩から2度以内のところに集中して分布しています。そのため、混色の実験でどのような色が見えるかは、観察者の視野によって変わります。そのため、CIEは測色標準観察者なるものを定義し、中心窩から2度の視野角で得られる色覚を人の標準的な色覚と定義しました。

次の図は、等色の実験において、試験光の波長を変更しながら、その試験光に等色する[R][G][B]の三刺激値を求めプロットしたものです。

CIE 1931 RGB等色関数

 この図は「CIE 1931 RGB等色関数」のグラフです。たとえば、660 nmの試験光に対する三刺激値の比率は次のよう読み取ることができます(実際には等色関数から計算で求めます)。

[R]:[G]:[B]=0.05932:0.00037:0.0000

 ところで、この等色関数のグラフを見ると、赤色光が450 nmあたりから550 nmあたりまでマイナスの値になっています。たとえば、約490 nmの試験光は、青色光と緑色光をおよそ0.05の割合で加えて、赤色光を0.05引かなければ再現できません。これを式で表すと次のようになります。

490 nmの試験光=0.05[B]+0.05[G]+(-0.05[R])

 光の三原色ではシアンの光は緑と青の光を混色するとできるはずですが、マイナスの赤い光を加えるというのはどういうことなのでしょうか。

 実は、波長490 nmのシアンの単色光を光の三原色の[G][B]の混色で作ろうとすると、このシアンの単色光の鮮やかさを再現することができないのです。そこで、等色実験で試験光のシアンの単色光に赤色の光を加えると、[G][B]で作ったシアンの光の色と等色になります(式5)。

490 nmのシアンの単色光 +[R]  = [G] + [B]・・・(式5)

ですから、490 nmのシアンの単色光は次のよう表すことになるのです。

490 nmのシアンの単色光 = [G] + [B] + [-R]・・・(式6)

 このように、490 nmのシアンの単色光を作るには[G][B]の光にマイナスの[R]を加えなければなりません。これは色を表現するのに非常に不都合です。そこで、CIEはマイナスの光を扱わなくても色を表すことができる数値で表す仮想的な3原色XYZをつくりました。大まかに言うとXは赤、Yは緑、Zは青で、Yだけには輝度を表す役割があります。このXYZを用いて現実の色を表現する方法をXYZ表色系と言います。

CIE 1931 XYZ等色関数

 ところで、カラーテレビや液晶ディスプレイは光の3原色を使って色を再現していますが、必ずしもCIEが定めた波長の光が使われているとは限りません。例えばカラーテレビは赤・緑・青の光を出す3種類の蛍光物質に電子ビームを当てて色を作りますが、それらの蛍光物質が出す光の波長はだいたい赤色光で610 nm、緑色光で550 nm、青色光で470 nmです。これらの波長は使う蛍光物質よって変わりますから、カラーテレビの色再現は厳密にはどの蛍光物質を採用したかによって異なることになります。このような色の表現を「機種依存な色表現」と言います。つまり、現実に使われているRGB 表色系は厳密には色を指定するのに向いていないという側面があります。

光の三原色の波長はなぜ解説によって異なるのか?

 光の三原色(RGB)の原理を深く探求していくと避けて通れないのが波長(nm)という具体的な数値です。しかし、この波長を調べるとWebサイトや参考書によって数値が微妙に異なっています。波長の数値が異なっている理由はいくつかありますが、その違いは何を対象にした解説なのかによります。詳細については次のページを参照してください。

 

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