量子力学

2020年12月 4日 (金)

飛び飛びのエネルギー|量子力学の幕開け(3)

プランクのエネルギー量子仮説

 ドイツの物理学者マックス・プランクはレイリー・ジーンズの式とヴィーンの式を組み合わせると黒体放射スペクトルをより正確に再現できると考え、試行錯誤の末、1900年にプランクの法則を導き出しました。

 プランクは光のエネルギーは波のように連続的に変化するのではなく、1個、2個と数えられる粒子のように飛び飛びに変化すると考えました。そして、ある振動数の光が担うことのできるエネルギーは、光の振動数にある定数をかけた値を最小単位として、その整数倍になるというエネルギー量子仮説を提唱しました。この定数は後にプランク定数と呼ばれるようになります。プランク定数に振動数をかけたhνをエネルギー量子と呼びます。こうしてプランクは黒体放射スペクトルに極大値が現れる理由を説明しました。

プランクの量子仮説
プランクの量子仮説

 エネルギー量子仮説によると、光はhν単位でしかエネルギーをやり取りできません。ここで、図6に示すように、ある大きさのエネルギーEをさまざまな振動数の光に分配することを考えてみましょう。振動数が大きくなると、hν単位も大きくなりますから、振動数の小さい光の方がより多くのhν単位でEを担うことになります。Eの分配が進んで、残りのエネルギーがhνより小さくなると、光はエネルギーを担えなくなります。また、hνがEより大きい光は、最初からエネルギーを担うことができません。このように、さまざまな振動数の光にEを分配しようとすると、ある振動数から分配できなくなるのです。また、Eの大きさによって、効率的にエネルギーを担える振動数が異なります。そのため、黒体放射スペクトルに極大値が現れることになるのです。

光のエネルギーの分配
光のエネルギーの分配


 当時の物理学-古典物理学-によれば、光の波のエネルギーは連続的に変化するという考え方が常識でした。ですから、エネルギーが飛び飛びに変化するプランクのエネルギー量子仮説は古典物理学の常識を根底から覆す発見だったのです。プランクが見い出した仮説は後年アインシュタインやニールス・ボーアなどによって確立されていく量子力学の基礎となりました。この発見が量子論の幕開けとされ、プランクは量子論の父と呼ばれました。しかし、プランク自身は古典物理学を信じて疑うことはなく、自ら導いた仮説に直ちに納得していませんでした。古典物理学とエネルギー量子仮説を結びつける何らかの理論が見つかるだろうと信じて研究を進めたのです。

マックス・プランク
マックス・プランク

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2020年11月27日 (金)

高温の物体から出る光を調べる|量子力学の幕開け(2)

熱い鉄箱から出る光の不思議な現象

 高温の物体から出る光を調べるためには、色のついた物体を使うことはできません。なぜなら、色のついた物体は、その色に対応する光を放射するからです。そこで、黒い物体が放射する光、黒体放射が研究の対象となりました。ところが、さまざまな波長の光を放射したり、吸収したりする理想的な黒体は実在しません。

 プロセインの物理学者グスタフ・キルヒホッフは、内部が空洞の鉄箱に小さな穴を開けた装置を考案しました。この穴から光を入れると、光は内部で反射を繰り返し、やがて吸収されてしまいます。逆に、この箱を熱すると、光が穴から出てきます。彼は、この鉄箱が理想的な黒体放射をすると考え、箱を高温にしたときに穴から出てくる光のエネルギーを調べました。この空洞からの熱の放射を空洞放射といいます。

キルヒホッフと空洞放射
キルヒホッフ(左)と空洞放射(右)

 この実験で得られた黒体放射スペクトルは次の図のようになりました。どの温度でも、光のエネルギーは、光の振動数が小さいうちは、振動数の増加に伴い大きくなりますが、ある振動数を超えると小さくなります。光のエネルギーが極大となる振動数は、温度が高いほど大きくなります。このスペクトルの形状は当時の物理学者たちの予想に反していました。彼らは、波である光は振動数が大きいほど大きなエネルギーをもつことができると考えていました。理論的な予想では、スペクトルは右肩あがりになるはずで、光のエネルギーがある振動数で急に小さくなるはずがないと考えました。

黒体放射のスペクトル
黒体放射のスペクトル

 イギリスの物理学者レイリー卿ことジョン・ウィリアム・ストラットとジェームズ・ジーンズ、ドイツの物理学者ヴィルヘルム・ヴィーンはそれぞれ黒体放射スペクトルの近似式を導くことを試み始めました。

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レイリー卿(左)とジーンズ(中)とヴィーン(右)

 彼らはそれぞれ次の図に示すスペクトルを求める数式を作りました。しかし、レイリー・ジーンズの式は振動数が大きくなると実測値と合わず、ヴィーンの式は振動数が小さくなると実測値と合わなかったのです。

レイリー・ジーンズの式とヴィーンの式の近似値と実測値
レイリー・ジーンズの式とヴィーンの式の近似値と実測値

 レイリー・ジーンズの式とヴィーンの式を参考に近似値と実測値がよく合致する式を導いたのはドイツの物理学者マックス・プランクでした。

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2020年11月26日 (木)

純鉄の製造を求めて|量子力学の幕開け(1)

それは溶鉱炉の温度制御から始まった

「現在の大問題は演説や多数決ではなく、鉄と血でこそ解決される」。これは1862年にプロイセン王国のオットー・フォン・ビスマルク首相が行った熱血演説の言葉です。 この言葉の意味するところは、ドイツ統一を果たす手段は大砲と兵士、 つまり軍事力しかないということです。

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オットー・フォン・ビスマルク

 1871年、普仏戦争に勝利したプロイセン王国は、フランス北東部のアルザス・ロレーヌ地域を獲得しました。この地域は資源が豊富で、鉄鉱石と石炭を採掘できました。優れた大砲を手に入れるには、高純度の鉄を作ることができる製鉄技術を確立する必要がありました。プロイセン王国はここで製鉄業を興し、鉄の製造に力を入れました。

アルザス・ロレーヌ地域
アルザス・ロレーヌ地域

 製鉄は、鉄鉱石を溶鉱炉にいれ、高温で熔融します。高純度の鉄を作るためには、溶鉱炉の温度を正確に管理しなければなりません。しかし、鉄が溶融する数千度の温度を測れる温度計はありません。そこで、職人が溶融した鉄の色を見て、暗赤色だから温度が低い、白っぽいから温度が高いというように、長年の経験から温度を見極めました。

溶融鉄
溶融鉄

 当時、温度によって、物体から出てくる光の色が異なることは知られていましたが、その詳しい関係はよくわかっていませんでした。そこで、溶鉱炉の温度を正確に知るため、物体の温度と光の色の関係を解明する研究が盛んに行われるようになりました。


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2020年8月13日 (木)

光と物質のふしぎな理論-私の量子電磁力学

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (岩波現代文庫)

リチャード・P. ファインマン (著), Richard P. Feynman (原著), 釜江 常好 (翻訳), 大貫 昌子 (翻訳)

 この本はファンマン博士の講義の内容をまとめたものです。光を粒子として考え、光と物質の相互作用などをわかりやすく説明しています(もともとの量電磁力学がそれほど簡単ではありませんが、量子電磁力学の本の中ではかなり優しい内容です。

 私たちは、光は直進するという基本的な性質をもっていることや、光が反射するとき入射角と反射角が等しくなるということを知っていますが、この本を読むと、もはやその法則は絶対的なものではなく、近似的なものであるということがわかります。 光がどのように伝わっていくのかなどについても説明されています。

 後半では光子や電子の運動や相互作用などについてファインマンダイアグラムを用いて説明しています。

自分がもっている本はハードカバーで表紙は下記の左側ですが、現在再販されているものは右側のような表紙になっています。

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内容(「BOOK」データベースより)

「ねえ、リチャード、あなたは何を研究しているの?」友達の奥さんがそう尋ねてきた。はてさて、どうする、ファインマンさん。物理が全然わからない人に、自分の研究を理解してもらえるか。それも、超難解で鳴る量子電磁力学を。光と電子が綾なす不思議な世界へ誘う好著。物理学者リチャード・ファインマン、面目躍如の語りが冴える。

単行本: 215ページ
出版社: 岩波書店 (1987/06)
ISBN-10: 4000058665
ISBN-13: 978-4000058667
発売日: 1987/06
商品の寸法: 18 x 13 x 1.6 cm

目次

  1. はじめに
  2. 光の粒子
  3. 電子とその相互作用
  4. 未解決の部分

 

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2020年4月26日 (日)

鏡の中の物理学 (講談社学術文庫 31)

鏡の中の物理学 (講談社学術文庫)

朝永 振一郎 (著)

優れた科学者は難しい話をこのようにわかりやすく説明するのだなということを実感できる一冊です。波乃光子の裁判では量子の振る舞いを解き明かしていきます。

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ノーベル物理学賞に輝く著者がユーモアをまじえながら平明な文章で説く、科学入門の名篇「鏡のなかの物理学」「素粒子は粒子であるか」「光子の裁判」を収録。“鏡のなかの世界と現実の世界との関係”という日常的な現象をとおして、最も基本的な自然法則や科学することの意義が語られる。また量子的粒子「波乃(なみの)光子」を被告とした裁判劇は、わかりやすく量子力学の本質を解き明したノン・フィクションの傑作として、読者に深い感銘を与える。

文庫: 129ページ
出版社: 講談社 (1976/6/4)
言語 日本語
ISBN-10: 4061580310
ISBN-13: 978-4061580312
発売日: 1976/6/4
商品の寸法: 14.8 x 10.2 x 1 cm

目次

・鏡の中の物理学
・素粒子は粒子であるか
・光子の裁判-ある日の夢-

 

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2020年4月25日 (土)

光は蓄えることができるか(1)ー光は光のままで蓄えることが可能か

 光を光のままで蓄える方法としてまず簡単に思いつくのは、次の図のように内面が鏡面になった空洞の球体に光を取り込んで無限に反射させる方法でしょう。もちろん、球体内部は空気が存在しない真空とします。

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 この方法は一見すると永久に光をためておくことができるような感じがしますが、実現は不可能です。なぜなら球体の内面の反射率を100%にすることができないからです。仮に内面の反射率を99%にすることができたとしましょう。n回反射した後の光の強さは下記の式で求めることができます。

光の強さ

 球体内で光が100回反射すると光の強さはもとの約37%、300回反射すると約5%になってしまいます。

 光の速さは秒速約30万 kmもありますから、私たちが扱えるような大きさの球体では、光は無限に近い回数反射して、あっという間に消失してしまいます。それでは、球体の大きさを宇宙的規模まで大きくするとどうでしょうか。そうすると、単位時間あたりに光が反射する回数が減るので、ある程度の時間は光を球体内にとどめることはできるでしょう。

 しかし、これは遠くにある星から光がやってくるのと同じで、光を再び取り出すことができるまでに相当の時間を要することになってしまいます。とても光をためることができたと言えるような状態ではありません。

光は光として蓄えることができないのでしょうか。この続きはまた。

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2012年10月 7日 (日)

ニールス・ボーアの生誕127周年

 10月7日のGoogleロゴはデンマークの物理学者、ニールス・ボーアの生誕127周年を祝う画像となりました。

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 ニールス・ボーアは1885年、コペンハーゲンで生まれました。1903年にコペンハーゲン大学へ入学したのち、1911年にはイギリスへ留学し、トムソンやラザフォードのもとで原子の構造について研究を行っていました。

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 1913年、ラザフォードの原子モデルの矛盾について考えていた彼は、スイスの物理学教師ヨハン・ヤコブ・バルマーが1885年に発表した水素の原子のスペクトルに関する論文に注目しました。

 ボーアはバルマーの論文を読んだ瞬間に水素原子がどのような構造をしているのか直ちにひらめきました。そして、わずか半年ほどで「原子と分子の構造について」という論文を発表し、ボーアの原子モデルを提唱しました。

 ボーアの原子モデルは、原子の構造の説明に量子の概念が導入したものです。マックス・プランクのエネルギー量子仮説から十余年、ボーアの功績によって、いよいよ量子論が本格的に論じられるようになりました。

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2012年9月23日 (日)

リチャード・ファインマン博士の二重スリットの思考実験の講義

とても良い時代です。1964年のリチャード・ファインマン博士の授業の映像をこうも簡単に見ることができるのですから。

Richard_feynman_nobel

量子論は1個の電子が波の性質をもつことを明らかにしました。光が波であることを証明したヤングの実験において、光の代わりに電子を1個ずつ二重スリットに通すと、電子は回折・干渉を起こし、波の性質を現しました。

この講義は、1個の電子が同時に2つのスリットを通ったのかどうかは確かめることはできないということを明らかにするための思考実験について説明したものです。

Richard Feynman on Electron 2 Slit Experiment, After noise reduction

 

 

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2012年9月 9日 (日)

リチャード・ファインマンの量子力学の講義

Richard Feynman on Quantum Mechanics Part 1 - Photons Corpuscles of Light

Richard Feynman on Quantum Mechanics - Part 2 - Reflection and Quantum Behaviour.

Richard Feynman on Quantum Mechanics - Part 3 - Electrons and their Interactions.

Richard Feynman on Quantum Mechanics - Part 4 - New Queries.

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2012年9月 4日 (火)

ホーキング、パラリンピックの開会式で語る

8月29日にロンドンで行われた第14回夏季パラリンピックの開会式に、スティーヴン・ホーキング博士が登場し、博士の合成音声が流されました。

Orbital - Where Is It Going? - Paralympics

ホーキング博士は次のように語っています。

欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、世界で、いや、おそらく宇宙で最も巨大で最も複雑な機械である。巨大な力で素粒子を互いに激突させることで、ビッグ・バンの状態を再現します。先般のヒッグス粒子と見られる発見は、人類の努力と国際機関による共同研究の勝利です。それは、世界に対するわれわれの理解を変え、ありとあらゆるものについての完全なる理論への洞察を提供する可能性を秘めています。

流れている曲は「オービタル」というイギリスのテクノユニットの演奏によるものです。

オービタルは電子軌道という意味があります。原子中の電子が決められた軌道上を回転運動しているというニールス・ボーアの原子モデルは量子力学の議論を本格的に進めるきっかとなりました。ホーキング博士にぴったりの名前です

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