古代エジプトにレンズは存在していたのか
以前、古代エジプトのヒエログラフに「レンズ」を意味する文字があるという情報を得ていろいろ調べたことがあります。インンターネットのいくつかの記事では古代エジプトのレンズについて「simple glass meniscal lenses(簡単なガラス製の半月レンズ)」と紹介されていますが、そのヒエログラフがどのようなものかを示す論文を見つけることができませんでした。その経緯は下記の記事にまとめてあります。
当時の古代エジプトにはレンズを作ることができるような十分に透明なガラスは存在していませんでした。しかし、水晶など天然の透明な結晶はありました。当時の人たちが水晶などを使って意図的にレンズを作成したとは考えにくいですが、レンズの一部の働きをする道具を作って利用していた可能性はありそうです。
その中でもっとも可能性がありそうなものは光を集めて着火するための道具でしょう。しかし、これをもって古代の人々が意図的にレンズと作ったと主張するには無理があるかもしれません。透明なものが光の収れん現象を起こし、可燃物を着火させることはよく知られています。当時の人々も原理を理解していたかはともかく、球状の透明なものが光を効率的に収れんさせるという経験と知識はもっていたでしょう。
さて、「アッシリアの水晶レンズ」もしくは「ニムルドのレンズ」と呼ばれている世界最古のレンズがあります。このレンズはしばしばオーパーツとして取り上げられることもありますが、実際にはレンズとして意図的に作られたものではなく、家具や置き物などの装飾に使った象嵌材だったと考えられています。下記の記事にまとめてあります。
このアッシリアのレンズと呼ばれる水晶は象嵌材ではありますが平凸レンズの形をしていたため、レンズの働きによる現象を確認できたはずです。この象嵌材を作成した職人はこの象嵌材を通して作業台の上にあったものの拡大像を見ていたかもしれません。
象嵌材で気が付いたのですが「玉眼」というものがあります。「玉眼」とは仏像の眼を本物のように見せるために使われた水晶のことです。像の眼の部分に穴を開けて板状の水晶を嵌め込み、水晶の裏に虹彩や瞳を描いて白い布を当てます。これを表側から見ると、本物の眼のように見えるというわけです。「玉眼」は仏像に限って使われたわけではなかったでしょう。
古代エジプトでは太陽神ラーが最も重要な神とされていました。
古代エジプト人にとっての光は太陽神ラーの眼差しで、ラーの眼は神聖なものでした。もし、ラーの眼に「玉眼」の加工が施されたいたら神秘的に見えたに違いありません。
そのような観点から古代エジプトの「玉眼」を探してみたところ次のサイトが見つかりました。これをレンズと呼んで良いのかどうか実物を見たいのですが、そう簡単には実現できないでしょう。この論文に写真でも掲載されていると良いのですが、今回のリサーチはとりあえずここまでとしておきます。
19 July 1999 Jay M. Enoch, Univ. of California/Berkeley (United States) Proc. SPIE 3749, 18th Congress of the International Commission for Optics, (19 July 1999) Abstract The first known lenses appeared during the IVth and Vth Dynasties (fabricated mainly between ca. 2500 - 2400 BC) of the Old Kingdom of Egypt. Excellent examples of these lenses are found in The Louvre Museum in Paris and the Egyptian Museum in Cairo. These lenses were components of eye constructs in statues and had unique qualities. In particular, the `eyes' appear to follow the viewer as he/she rotates about the statues in any direction. Clearly, this was an intended effect which can be readily photographed (and understood optically). The lenses were ground from high quality rock crystal (a form of quartz). They had a convex and highly polished front surface. On the plane rear lens surface as `iris' was painted. Centered in the dark- appearing pupil zone was an approximately hemispheric negative ground, high power, concave lens surface. 初めてレンズが登場したのはエジプト古王国の第4王朝と第5王朝のものです(主に紀元前2500年から2400年の間に製作された)。これらのレンズは、パリのルーブル美術館やカイロのエジプト博物館に所蔵されており、彫像の目を構成する部品であり、独特の性質を持っています。特に、この「目」は鑑賞者が彫像をどの方向から見ても追随するように見える。これは明らかに意図された効果であり、容易に写真に収めることができます(光学的に理解できます)。レンズは、高品質のロッククリスタル(石英の一種)から研磨されたものです。レンズは高品質のロッククリスタル(石英の一種)を研磨したもので、前面は凸状に高度に研磨されています。後面の平面には「アイリス」の文字が描かれている。暗く見える瞳の部分を中心に、ほぼ半球状のマイナス地、高出力の凹レンズ面がある。 |
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