光のおはなし

2020年6月29日 (月)

白いアジサイ「アナベル」はなぜ白いのか?

近所の家の軒先でアジサイがとても綺麗に咲いていました。

アジサイ 紫陽花

 アジサイの花の色を左右する重要な物質は土壌中に含まれるアルミニウムです。アジサイの花の色素のデルフィニジンはアルミニウムと結びつくと青色に呈色し、アルミニウムが少ないと赤色に呈色する性質があります。

 アルミニウムは土壌中にたくさん含まれていますが、土壌が酸性だと溶け出しやすく、植物に吸収されやすくなります。一方、土壌がアルカリ性だと溶け出しにくくなります。

 同じ株に咲いているのに色の違う花をつけるのは、アジサイの根が四方八方に広がっているからです。雨が降ったり、水を与えているうちに、土壌の成分が流れ出したりして、酸性度やアルミニウムの量が変化すると、根が吸収するアルミニウムの量が変わるため、色が変わってくるのです。このあたりについては、本ブログ「光と色と:花の色はいろいろ」で解説しています。

 さて、写真の中に白いアジサイが咲いています。この白いアジサイはアナベルという品種です。アナベルはアルミニウムと結びつく色素をもっていないため、土壌の酸性度によって色が変わりません。アナベルは咲き始めの成長時期はクロロフィルにより、薄い緑色をしていますが、成長すると真っ白な花になります。

アナベル アジサイ

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2020年6月16日 (火)

レンチキュラーレンズで光学迷彩?(3) ものが消えて見える原理と仕組み

 レンチキュラーレンズで鉛筆が消えて見える

 次の写真の右上のように、縦向きに置いた鉛筆のうえに横向きに鉛筆を置きます。これを=の方向にしたレンチキュラーレンズの通して見ると、写真の左のように上に置いたはずの横向きの鉛筆が消えて、下に置いたはずの縦向きの鉛筆が見えます。このままの状態で、写真右下のようにレンチキュラーレンズを90度回転し、‖の方向にすると、縦向きの鉛筆が消えて、横向きの鉛筆が見えます。また、よく見てみると、写真左では、横向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(縦置きの鉛筆の左右)、写真右下では、縦向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(横向きの鉛筆の上下)が背景色とい同じオレンジ色になっています。

レンチキュラーレンズで鉛筆が消える
レンチキュラーレンズで鉛筆が消える

レンチキュラーレンズでものが消えて見える理由は、少年写真新聞社理科教育ニュースの2020年5月28日号に解説が掲載されていますが、ここでは、この現象についてもう少し詳しく解説します。さらに理解を深めることができればと思います。

シリンドリカルレンズの虚像

 レンチキュラーレンズによる鉛筆の見え方の変化の現象の基本的原理はシリンドリカルレンズでできる実像です。なぜなら、この現象は、レンチキュラーレンズを鉛筆に密着した状態で見ているときには起きないからです。ですから、上の写真のように、鉛筆が方向によって、見えたり消えたりするのは、レンチキュラーレンズでできる鉛筆の実像を見ていることになります。

 理解を深めるために、まずはひとつのシリンドリカルレンズで見える虚像を考えてみます。シリンドリカルレンズでできる虚像は、曲面がある方向に拡大されます。下の写真はグラフ用紙の真上にシリンドリカルレンズを=の方向に置いたものです。シリンドルカルレンズを=の方向に置いたとき、縦方向には曲面がありますが、横方向には曲面がありません。

レンチキュラーレンズの虚像
レンチキュラーレンズの虚像

 上の写真でレンズの中のグラフを見てみると、縦方向の線の太さや、縦線の間隔には変化がないことがわかります。これは曲面のない横方向で光が屈折しないからです。一方、横方向の線は太くなっており、横線の間隔も広くなっています。レンズの外側では横線は 4 行あるのに、レンズの中では拡大された 2行しか見えていなません。これは、曲面のある縦方向で光が屈折するからです。

 この虚像の現象からは、上の鉛筆が消える写真の現象を説明することはできません。虚像の場合、シリンドリカルレンズを置く方向にかかわらず、縦方向の鉛筆も横方向の鉛筆も消えて見えなくなることはありません。また、上述の通り、鉛筆が消えている部分が背景のオレンジ色になっていますが、虚像ではこのようなことは起こりません。

シリンドリカルレンズの実像

 次にシリンドリカルレンズをグラフ用紙から離し、実像を観察してみます。光が屈折しない方向の縦線の太さや間隔は、虚像のときと同様に変化がありません。一方、横線については、虚像とは異なり、縦方向が圧縮され、たくさんの行が見えています。シリンドリカルレンズでできる実像は光を屈折する方向に直線上に集まるようにできますので、これは理に適っています。

シリンドリカルレンズの実像
シリンドリカルレンズの実像

 また、=の方向に置いたシリンドリカルレンズでできる実像は縦方向が反転していて、横方向はそのままであることに留意しておきましょう。ですから、レンズの中の上側の列は、実際には下の列が見えていて、レンズの中の下側の列は実際の上の列が見えています。下記のようにグラフの上に赤いラインを引くと縦方向が反転していることがわかります。 

 リンドリカルレンズの実像(縦方向反転) 
シリンドリカルレンズの実像(縦方向反転)

さらに、レンズをグラフから離していくと、さらに縦方向が圧縮されて、横線が見えなくなります。ところで、縦方向が詰まっているということは、変化がないように見える縦線も実は縦方向に詰まっているということです。

シリンドリカルレンズの実像
シリンドリカルレンズの実像(横線が見えなくなる)

 次の図はシリンドリカルレンズでできる実像の仕組みを示したものです。シリンドリカルレンズを=の方向に配置すると、横長の物体ABの実像A'B'は、横方向はそのままですが、縦方向が縮んで細い線状となるため、視認しずらくなります。一方、縦長の物体CDの実像C'D'も縦方向に縮みますが、物体が十分に縦長なため、視認できます。レンズを90度回転すると、今度はC'D'が視認できなくなります。

シリンドリカルレンズの実像(模式図)

シリンドリカルレンズの実像(模式図)

 レンチキュラーレンズの各々のレンズの実像は反転していますが、微小な領域のため全体として見たときには反転して見えません。また、横置きの鉛筆の下側にある縦置き鉛筆が前面にあるように見えるのは、レンチキュラーレンズに物体を引き延ばして見せる効果があるからです。レンチキュラーレンズで鉛筆の端の方を観察すると、鉛筆が伸びて見えることがわかります。

 このことを確認するためパソコンで画像を作成して次のような確認をしてみました。

パソコンで次のような絵を描き(左)、これをレンチキュラーレンズを通してみてみました。画面にレンチキュラーレンズをぴったりとつけて、虚像を観察すると、レンチキュラーレンズの方向にかかわらず、元の絵からほとんど変化していません。

レンチキュラーレンズの虚像 元の絵(左) =方向(中) ‖方向(右)
レンチキュラーレンズの虚像 元の絵(左) =方向(中) ‖方向(右)

 レンチキュラーレンズを画面から離して、実像を観察すると、レンチュキュラーの置き方が=方向(写真左)か‖方向か(写真中)によって、元の絵とは見え方が変わります。最初の鉛筆の実験の写真と同じ結果となっています。

レンチキュラーレンズの実像 =方向(左) ‖方向(中) =方向で伸びる(右)
レンチキュラーレンズの実像 =方向(左) ‖方向(中) =方向で伸びる(右)

 写真左において、縦長の棒しか見えないのは、横長の棒がシリンドリカルレンズの屈折の働きで圧縮されてしまいぼやけて視認できなくなるからです。実際には縦長の棒も圧縮されていますが、圧縮される方向に縦長のため、横長の棒のようぼけたようには見えません。また、横長の棒の下側にあるはずの縦長の棒が前面に出ているように見えるのは、レンチキュラーレンズが物体を引き延ばして見せるからです。写真右を見ると、縦長の棒と黒い背景が下側に伸びて見えることがわかります。最初の鉛筆の写真で背面のオレンジ色が前面に出てきているのも同じ理由です。

 以上がレンチキュラーレンズの向きで、縦横の向きの鉛筆が消えて見える理由です。

さて、レンチキュラーレンズを通してものを見ると、確かにものが消えます。これはレンチキュラーレンズでできる実像が圧縮したり伸びたりしてぼやけているからです。確かに特殊なレンズを用いた面白い現象ですが、これだけですと光学迷彩というまでには少し無理がありそうです。

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2020年5月16日 (土)

雷の正体見たり静電気 雷の仕組み

雷の正体を探る

 大音響とともに鋭い光の筋が空を切り裂く雷。古代の人々は雷は雲の中にいる神様が光と音を出していると考えていました。たとえば、ギリシャ神話の全知全能の神であるゼウスは雷を司る天空神です。日本では、古くから雷神が雷をおこすと考えられていました。日本語の雷の語源は神鳴りと考えられています.

雷神(俵屋宗達)

 雷の正体は18世紀の半ばには電気であることが予想されていました。雷の正体を初めて実験で確かめたのは、アメリカの政治家・科学者のベンジャミン・フランクリンです。フランクリンは静電気の実験に使われていたライデン瓶に蓄電すると、電気火花が発生するのを見て、この電気火花と稲妻は同じものではないかと考えたのです。

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 ライデン瓶は1746年にオランダのライデン大学の物理学者ピーテル・ファン・ミュッセンブルークが発明した蓄電装置です。実際には数ヶ月ほど前にドイツのエヴァルト・ゲオルク・フォン・クライストも同じ仕組みのものを発明しています。ライデン瓶の上部の金属球に静電気を帯びたものを触れると、金属箔に電気が蓄えられます。電気が蓄えられた状態で、内側と外側の金属箔を短絡(ショート)するとライデン瓶の中で放電が起こり、電気火花が発生します。

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フランクリンの凧あげ実験

 1752年6月、フランクリンは雷の正体を調べるため、自分の息子とともに雷雲をめがけて凧あげの実験を行いました。 彼は凧に針金を取り付け、凧糸には水に濡れやすい麻糸を使いました。そして、麻糸に金属の鍵を取り付けました。金属の鍵から手元までは感電防止のため濡れにくい絹糸を使いました。雷で麻糸が帯電して逆立ったとき、彼は息子に金属の鍵の先にライデン瓶を近づけるように言いました。息子がライデン瓶を鍵に近づけると、雷の電気がライデン瓶に蓄電されていきました。そして、ライデン瓶を短絡させると、ライデン瓶の中で電気火花が生じました。一瞬の出来事でしたが、雷の正体が電気であることが確かめられた瞬間でした。

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※フランクリンの凧あげ実験は非常に危険ななので、絶対にやってはいけません。

雷雲が発生するしくみ

 空に浮かぶ雲は細かい水滴や氷の粒でできています。これらの水滴や氷の粒は地上や海上で蒸発した水です。空気は気温が高いほど水蒸気をたくさん含むことができます。暖かい空気は軽いので上空へ昇っていきますが、上空は気圧が低いので膨張します。このとき、空気は外部から熱を与えられない状態で膨張します。空気自身が持つ熱が膨張に使われるので、空気の温度が下がります。空気に含まれる水蒸気は冷やされると気体のままでは存在できなくなり、凝結して細かい水滴や氷の粒になります。これが雲の正体です。
 雷がよく起きるのは、夏に空高くまで発達した積乱雲の中です。積乱雲の中では、強い上昇気流のために、氷同士が激しく衝突します。このとき、氷の表面の水や衝突で融けた水が負の電荷を持ち、それが成長する氷に移動します。そのため、大きい氷の粒がマイナス、小さい粒がプラスの電気を帯びます。小さい粒は、軽いために雲の上の方へ、大きい粒は重いため雲の下の方へ移動します。その結果、雷雲は、ちょうどプラスとマイナスが向かい合った形となり、そこに高い電圧がかかるというわけです。また雷雲が大地に近づくと、その下の地面はプラスに帯電していきます。これを静電誘導といいます。

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 雷雲が発生すると、雲の中で静電気がたまります。この静電気が、雲と地上の間の大気の絶縁性で支えきれないほど大きくなると、雲から地上へ対地放電が起こります。これが落雷です。また、放電は落雷よりも雲の中で頻繁に起こります。このとき、雲が青白く光って見えます。ひとつの雷雲の中で起こる場合を雲内放電、複数の雷雲の間で起こる場合を雲間放電といいます。

<h4>稲妻が光るしくみ</h4>


 内部を真空にしたライデン瓶で放電の実験を行うと、電気火花が生じなくなります。つまり、電気火花の発生には空気が関係しています。本来、空気は絶縁体で電流は流れません。しかし、強い電圧をかけると、瞬間的に電気絶縁性が失われ大電流が流れます。すると、大きなエネルギーを持った電子が、空気中の窒素や酸素に衝突します。窒素や酸素は電子のエネルギーを受け取り、自分自身も電子を放出してイオン化して高エネルギー状態になります。高エネルギー状態になった窒素や酸素は、すぐに元のエネルギー状態に戻ります。このとき、余分なエネルギーが光となって出てくるわけです。これを放電現象といいますが、稲妻の光もこれと同じ現象です。なお、放電が起こると、火花の周囲の温度が急激に上昇し、空気が瞬間的に膨張します。そして、膨張した空気はすぐに冷えるため収縮します。この空気の膨張と収縮が振動となって音となります。

 雷の放電は、大気の絶縁性のために、いっきに地面には届きません。何度も小きざみに放電を繰り返し、電気の通り道を作りながら、地面へと近づきます。稲妻がジグザグに見えるのはこのためです。これを先駆放電といいます。稲妻が地面に届くと、今度は逆に地面から雲に向かって放電が起こります。これを帰還雷撃といい、このとき強い光と大きな音を出します。これが落雷です。

 落雷をハイスピードカメラで撮影して映像がYouTubeにあがっています。

 Slow Motion Lightning

落雷の威力は凄いです。

Close-Up Lightning strike Compilation with Horrifying Sound and Destruction |Thunder strikes

 

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2020年5月14日 (木)

光の三原色の波長はどのように決まったのか 色が見える仕組み(8)

ヒトの眼が色を感じる仕組みの探究

 ニュートンが1666年に行ったプリズムで虹をつくる実験をきっかけに「人間の眼はどのようにして色を感じているのか?」という疑問に関心が集まるようになりました。ニュートンをはじめ当時の学者たちは、人間の眼の中には光の色の数に相当する多種類の視細胞があると考えました。

 ヤングはこの考えに疑問をもち、1801年に絵の具の混色からヒントを得て「人間の眼の中には赤・緑・青の光を感じる視細胞があり、色は3つの視細胞が受けた刺激の割合で決まる」という三色説を提唱しました。ヤングの仮説は正しかったのですが、当時は光の混色実験が難しく再現性も乏しかったためまったく支持されませんでした。

 1860年、マクスウェルは色分けされた円板を回転させると別の色が見え、ある割合にすると白色に見えるという実験を行いました。Maxwellはこの実験で時間の経過とともに目に入る色光を変えて色をつくる継時加法混色を示したのです。

マクスウェルの円盤

この実験については、スコットランドの国立博物館のサイト(英語)に説明があります。当時の円板の写真も掲載されています。

彼は下記の装置で赤・緑・青の光の混合実験を行い、この3つの色光で白色光を作り出し、また様々な色を作り出せる可能性を示しました。

マクスウェルの箱

この装置を用いた実験については下記の論文に示されています。CAの方向から白色光を入れます。CBの間から入った白色光はミラーMで反射し、レンズLで集光されてEに向かいます。BAの間から入った白色光はスリットXYZを通って3つの白色光になります。3つの白色光はプリズムPで分光されて赤・緑・青の光となり、その後プリズムP'を通って混色され、レンズLをで集光されてEに向かいます。Eから覗くと、光の色を観察することができるようになっています。3色の光の強さはスリットXYZの位置と幅で調整することができます。BAから入ってEから出てくる光とCBから入ってEから出てくる白色光を比較し、BAからの混色された光がCBからの白色光と同じになるようにXYZを調整しました。

On the Theory of Compound Colours, and the Relations of the Colours of the Spectrum.
Philosophical Transactions, Vol. 150 pp. 57–84. 1 January 1860.
PDF https://www.jstor.org/stable/pdf/108759.pdf
本論文はJames Clerk Maxwellの単著となっていますが、この実験には夫人のKatherine Clerk Maxwellが貢献しています。この著書には観察者が2人出てきます。一人はJ.C. Maxwell本人ですが、本文中に出てくるもう一人の観測者Kは夫人のKatherineです。

 1868年、ヘルムホルツはヤングの3色説を定量的に解明し、ヤングの3色説が正しいことを説明しました。これをヤング・ヘルムホルツの三色説と言います。下図はヘルムホルツが求めた各錐体の分光感度曲線です。

ヤング・ヘルムホルツの三色説

こうしてヤング、マクスウェル、ヘルムホルツによって、三色説が有力な仮説となりました。

ヤング、マクスウェル、ヘルムホルツ

 1956年、スウェーデンの生理学者Gunnar Svaetichinは魚の網膜を調べ、青、緑、赤の3つの波長の光に特異的な感度を示すことを発見しまました。これは、ヤング・ヘルムホルツ三原色説を支持する最初の生理学的な実証となりました。

Spectral response curves from single cones,
Svaetichin, G., Actaphysiol. scand. 39, Suppl. 134, 17-46, 1956

網膜に赤・緑・青の光を感じる3種類の錐体細胞が存在することが確認されたのは1964年のことです。Marksらは錐体細胞を通した光と、錐体細胞を通していない光を比較することにより、光のスペ クトルの差を求め、網膜には 445nm(青)、535nm(緑)、570nm(赤)にピークをもつ3種類の視物質が存在することを証明しました。

Visual pigment of single primate canes.
Marks WB, Dobelle WH, MacNichol EF Jr:Science 143; 1181-1183, 1964.

 3種類の錐体の感度がもっとも高い波長は赤錐体450 nm、緑錐体530 nm、青錐体560 nmですが、それぞれの感度曲線は次の図のようにある程度の幅を持っています。

分光感度曲線

 青錐体はほぼ青色光に対応する感度分布になっていますが、緑錐体と赤錐体の感度分布は幅が広く、赤錐体は緑錐体よりも長波長側にシフトしているものの広い範囲で重複しています。青色の光に対しては、青錐体・緑錐体・赤錐体のすべてが応答することがわかります。この図を見てもわかるように、ある波長の光に対してひとつの錐体が応答するわけではありません。そのため、青錐体・緑錐体・赤錐体は波長の短(S)、中(M)、長(L)でそれぞれS錐体・M錐体・L錐体と呼ぶ場合もあります。

光の三原色を再現する等色

 マクスウェルの実験からも分かる通り、赤・緑・青の光を任意に混合すると、様々な色を作ることができます。これは私たちが見ている色を光の三原色で再現できるということです。3色の光でどれぐらいの色を再現できるかは次の図のような装置を使うことで確認できます。例えば、白色光をプリズムで分けて得られる波長約490 nmのシアン(青緑)の単色光が、光の3原色でどのように再現できるかを調べる作業を行います。このような作業を色合わせ、もしくは等色と言います。

等色の実験 

 いま[A]と[B]、[C]と[D]という色光があるとします。それぞれの色光の組み合わせが等色であるとき、式1で表すことができます。このような式を等色式と言います。≡は等色であることを示す記号です。

[A]≡[B]   [C]≡[D]・・・(式1)

そして、上記の等色の実験から次の2つの法則があることが確かめられています。この2つの法則をグラスマンの法則と言います。

グラスマンの法則:比例則

光の強度を一定倍にしても等色式は成り立つ

α[A]≡ α[B]      β[C]≡ β[D]・・・(式2)

グラスマンの法則:加法則

等色の光同士を加えても等色式は成り立つ

[A]+[C] ≡[B]+[D]   [A] + [D] ≡ [B] + [C]・・・(式3)

また、ある試験光[A]が[R][G][B]の光をそれぞれα・β・γの割合で組み合わせたときにできるとき、式4のように表すことができます。

[A]≡ α[R] + β[G] + γ[B]・・・(式4)

グラスマンの法則では任意の[R][G][B]の光を決めてやれば、試験光を式4で表すことができます。しかし、様々な色の試験光に対して、[R][G][B]で色合わせを行うためには[R][G][B]の標準化が必要になります。

光の三原色の標準化

 1931年に国際照明委員会(CIE, Commission Internationale de l'Eclairage)は光の3原色を赤色光700 nm、緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの単色光としました。当時はLED(発光ダイオード)などありませんでしたから、実験に使いやすい光の波長が選ばれました。緑色光546.1 nm、青色光435.8 nmの光は水銀ランプの輝線です。赤色光700 nmは可視光の最も長波長の光を採用しました。このCIEの等色の標準化には、英国のJohn GuildWilliam David Wrightがそれぞれ別途に実施した実験結果が採用されています。この実験に使われていた光の三原色が上記の3つ波長の光だったのです。この三原色を使った色の表現方法をRGB表色系と言います。

 ところで、ヒトの眼の色を感じる錐体細胞は中心窩から2度以内のところに集中して分布しています。そのため、混色の実験でどのような色が見えるかは、観察者の視野によって変わります。そのため、CIEは測色標準観察者なるものを定義し、中心窩から2度の視野角で得られる色覚を人の標準的な色覚と定義しました。

次の図は、等色の実験において、試験光の波長を変更しながら、その試験光に等色する[R][G][B]の三刺激値を求めプロットしたものです。

CIE 1931 RGB等色関数

 この図は「CIE 1931 RGB等色関数」のグラフです。たとえば、660 nmの試験光に対する三刺激値の比率は次のよう読み取ることができます(実際には等色関数から計算で求めます)。

[R]:[G]:[B]=0.05932:0.00037:0.0000

 ところで、この等色関数のグラフを見ると、赤色光が450 nmあたりから550 nmあたりまでマイナスの値になっています。たとえば、約490 nmの試験光は、青色光と緑色光をおよそ0.05の割合で加えて、赤色光を0.05引かなければ再現できません。これを式で表すと次のようになります。

490 nmの試験光=0.05[B]+0.05[G]+(-0.05[R])

 光の三原色ではシアンの光は緑と青の光を混色するとできるはずですが、マイナスの赤い光を加えるというのはどういうことなのでしょうか。

 実は、波長490 nmのシアンの単色光を光の三原色の[G][B]の混色で作ろうとすると、このシアンの単色光の鮮やかさを再現することができないのです。そこで、等色実験で試験光のシアンの単色光に赤色の光を加えると、[G][B]で作ったシアンの光の色と等色になります(式5)。

490 nmのシアンの単色光 +[R]  = [G] + [B]・・・(式5)

ですから、490 nmのシアンの単色光は次のよう表すことになるのです。

490 nmのシアンの単色光 = [G] + [B] + [-R]・・・(式6)

 このように、490 nmのシアンの単色光を作るには[G][B]の光にマイナスの[R]を加えなければなりません。これは色を表現するのに非常に不都合です。そこで、CIEはマイナスの光を扱わなくても色を表すことができる数値で表す仮想的な3原色XYZをつくりました。大まかに言うとXは赤、Yは緑、Zは青で、Yだけには輝度を表す役割があります。このXYZを用いて現実の色を表現する方法をXYZ表色系と言います。

CIE 1931 XYZ等色関数

 ところで、カラーテレビや液晶ディスプレイは光の3原色を使って色を再現していますが、必ずしもCIEが定めた波長の光が使われているとは限りません。例えばカラーテレビは赤・緑・青の光を出す3種類の蛍光物質に電子ビームを当てて色を作りますが、それらの蛍光物質が出す光の波長はだいたい赤色光で610 nm、緑色光で550 nm、青色光で470 nmです。これらの波長は使う蛍光物質よって変わりますから、カラーテレビの色再現は厳密にはどの蛍光物質を採用したかによって異なることになります。このような色の表現を「機種依存な色表現」と言います。つまり、現実に使われているRGB 表色系は厳密には色を指定するのに向いていないという側面があります。

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2020年5月10日 (日)

光と視覚の科学―神話・哲学・芸術と現代科学の融合

光と視覚の科学―神話・哲学・芸術と現代科学の融合

アーサー ザイエンス (著), Arthur Zajonc (原著), 林 大 (翻訳)

この本も既に中古本でしか入手できなくなりました。人類が光と視覚についてどのような疑問をもち、どのように考え、どのように取り扱い、そして科学的にどのように解き明かしてきたのかなどを解説する一冊です。光について、いろいろ書いたり、話をしたりする機会がある人は

Photo_20200509182601

内容(「BOOK」データベースより)

知の領域を縦横無尽に越境し、光の謎と神秘を語りつくす。

内容(「MARC」データベースより)

光と視覚について人間がこの3000年間に考えてきたことを、重層的に、余す所なく書き尽くす。物理学と心理学、数学と直観、科学と芸術…あらゆるアプローチと洞察をとりあげ、対比し、一体化させる。

単行本: 425ページ
出版社: 白揚社 (1997/09)
ISBN-10: 4826900791
ISBN-13: 978-4826900799
発売日: 1997/09
商品の寸法: 19.2 x 13.6 x 3.4 cm

目次

1 絡み合う二つの光―自然の光と精神の光
2 光の贈り物
3 分断された光―神の光と光の科学
4 光を解剖する
5 歌う炎―エーテルの波としての光
6 輝く場―電気の光で見る
7 虹の扉
8 光を見る―科学に魂を吹き込む ゲーテとシュタイナー
9 蝋燭の光の量子論
10 相対性と美
11 最小の光―現代の見方
12 光を見る

 

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2020年5月 9日 (土)

レンチキュラーレンズで光学迷彩?(2) レンチキュラーレンズの仕組み

レンチキュラーレンズはどんなレンズ?

 レンチキュラーレンズは半透明の板状のプラスチック製レンズです。レンチキュラーレンズを触ってみると、片面はツルツルしていて、片面はザラザラしていることがわかります。良くみると、縦方向の縞模様が入っていることがわかります。

レンチキュラーレンズ

 レンチキュラーレンズの表面をルーペで拡大すると、次の図のように、細長いカマボコ状のものが並んでいることがわかります。このカマボコ状のものは、その一つ一つがシリンドリカルレンズになっています。

レンチキュラーレンズの表面を拡大してみると

シリンドリカルレンズとは

 次の写真のように、水を入れた牛乳びん越しに「あ」を見ると、びんが縦置きのときは左右が反転して横に伸びて見え、横置きのときは上下が反転して縦に伸びて見えますこのように方向で見え方が異なるのは、牛乳びんが円柱形をしているからです。

牛乳ビンのレンズ

 次の図のように、円柱の側面の一部を切り出した形のレンズをシリンドリカルレンズといいます。その形状からカマボコレンズと呼ばれることもあります。普通の球面レンズはどこを切り出しても断面に曲面がありますが、シリンドリカルレンズは曲面をもつ断面ABと、曲面をもたない断面CDがあります。

シリンドリカルレンズの構造

 そのため、シリンドリカルレンズには、レンズの働きをする向きと、働きをしない向きがあります。普通のレンズは次の図の左側のように光軸に平行な光を1点の焦点に集めますが、シリンドリカルレンズは光を直線上に集めます。

普通のレンズとシリンドリカルレンズの違い

 小さなシリンドリカルレンズをたくさん配列したレンズがレンチキュラーレンズです。レンチキュラーレンズを通してものを見たときに、『レンチキュラーレンズで光学迷彩?(1) 手品と物体の見え方』で紹介したような見え方になるのは、たくさん配列されているシリンドリカルレンズの働きによるものです。どうして、ものが消えたり、伸びて見えたりするかについては、次の機会に説明します。

レンチキュラーレンズという用語

 ところで、英語の『レンチキュラー(lenticular)』は「レンズの」「レンズ状の」「水晶体の」という意味です。ですので、レンチキュラーレズは「レンズのレンズ」「レンズ状のレンズ」で、「頭痛が痛い」「馬から落馬する」のような重言になっています。

 日本語特有の誤用かと思いましたが、英語版のWikipeidaではlenticular lenseとなっていますし、海外の多くのサイトでlenticula lensと表現されています。日本でもレンチキュラーレンズという表現が多いのですが、日本語版のWikipediaではレンチキュラーとなっています。なお、日本語版および英語版のWikipediaの解説は3Dやアニメーションを表示するためのレンチキュラーレンズが前提となった説明になっていて、レンチキュラーレンズそのものの説明になっていないようです。

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2020年5月 4日 (月)

時計が右回りの理由

 最近はデジタル時計を使っている人が多いと思いますが、時計回りにと言われれば、誰しも右回りであることを理解するでしょう。

Watch

 世界中にはさまざま文化やルールがありますが、時計が右回りは万国共通です。どうして右回りが万国共通になっているかというと、それは時計の成り立ちに関係しています。古来より、人類は太陽の動きにより、朝ー昼ー夜といった時間の流れを意識していたはずです。そして、太陽の動きから正確な時の流れを計る日時計が発明されました。

 人類最古の日時計は真っ直ぐな棒を地面に突き立てた簡単なものでした。紀元前3000年頃のエジプトでは、オベリスクと呼ばれる神殿などに立てられたモニュメントの影が日時計として利用されていました。影の位置で時刻を知ることができ、影の長さで季節を知ることができました。また、古代バビロニアでも日時計が利用されていたという記録も残っています。日時計は古代ギリシャや古代ローマで発展しました。

 

 さて、人類はアフリカで生まれ、北上していきました。文明の多くは北半球で発展したと考えられます。日時計の影は北半球では右回りになります。その後の時計の開発も北半球で進んだため、時計の針は右回りとなりました。

 日時計は英語でSundial(サンダイアル)といいます。時計以外にも回転式のメーター、ツマミやダイアルなどが右回りなのも日時計に関係していると考えられています。もし、人類が誕生したときの地球の大陸が南半球中心だったら、時計回りは左回りになっていたかもしれません。

 日時計は自分でも作れますが、下記のキットが良くできています。

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2020年4月25日 (土)

光は蓄えることができるか(1)ー光は光のままで蓄えることが可能か

 光を光のままで蓄える方法としてまず簡単に思いつくのは、次の図のように内面が鏡面になった空洞の球体に光を取り込んで無限に反射させる方法でしょう。もちろん、球体内部は空気が存在しない真空とします。

Kagamijigoku

 この方法は一見すると永久に光をためておくことができるような感じがしますが、実現は不可能です。なぜなら球体の内面の反射率を100%にすることができないからです。仮に内面の反射率を99%にすることができたとしましょう。n回反射した後の光の強さは下記の式で求めることができます。

光の強さ

 球体内で光が100回反射すると光の強さはもとの約37%、300回反射すると約5%になってしまいます。

 光の速さは秒速約30万 kmもありますから、私たちが扱えるような大きさの球体では、光は無限に近い回数反射して、あっという間に消失してしまいます。それでは、球体の大きさを宇宙的規模まで大きくするとどうでしょうか。そうすると、単位時間あたりに光が反射する回数が減るので、ある程度の時間は光を球体内にとどめることはできるでしょう。

 しかし、これは遠くにある星から光がやってくるのと同じで、光を再び取り出すことができるまでに相当の時間を要することになってしまいます。とても光をためることができたと言えるような状態ではありません。

光は光として蓄えることができないのでしょうか。この続きはまた。

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2020年4月23日 (木)

レンチキュラーレンズで光学迷彩?(1) 手品と物体の見え方

レンチキュラーレンズを使った手品

 レンチキュラーレンズという板状のレンズを通して物体を見えると、物体が消えて見えなくなる現象が起こります。この現象は手品でも利用されています。まずは次の手品の動画をご覧ください(BGMがかかっているので音量に注意してから再生してください)。

4D surprise + joke - Tenyo

 背面が横縞模様の壁になっている台の上に透明な箱を被せます。箱の向こうに背面の壁がしっかり見えていますが、この箱を開けると、なんと台の上に自由の女神が現れます。

レンチキュラーレンズを通して物体を見てみると

 つづいて、次の映像をご覧ください。解説は英語ですが、映像を見ると、レンチキュラーレンズを通して物体を見ると、どんな見え方になるかわかります。

A Real Invisibility Shield | How Does It Work?

横向きの2本の棒にプライヤーが立てかけられています。それらの前にレンチキュラーレンズを置くと、プライヤーが消え、横向きの2本の棒だけが見えます。しかも、2本の棒はプライヤーの後ろにあるのに、前面にあるように見えています。また、2分25秒ぐらいからになりますが、レンチキュラーレンズを棒の先端の方へ移動すると、棒が伸びて見えます。

なぜ、このような現象が生じるのかについては、後日、記事をアップします。

また、この現象は光学迷彩と言えるのでしょうか。

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2020年4月21日 (火)

光には重さがあるのか

 イギリスの物理学者アイザック・ニュートンの伝記に「リンゴが木から落ちるのを見て、万有引力を発見した」という有名な逸話があります。ボールを投げると放物線状に曲がりながら落下するように、私たちの身の回りにある質量をもつものはすべて地球の重力に引かれて地面に落下します。

 アインシュタインは1905年6月に『運動物体の電気力学について』という論文で特殊相対性理論を発表し、その3ヶ月後に『物体の慣性はその物体の含むエネルギーに依存するであろうか』という論文で、エネルギーと質量は等価であり、相互に交換可能であることを示しました。これが有名な次の式です。

       ①式

 それでは、エネルギーと質量が等価であるならば、エネルギーをもっている光も重力の影響で曲がるのではないでしょうか。

Photo_20200419151601

 アインシュタインは、強い重力が働く場所では、図のように空間が曲がると考えました。そして、空間が曲がると、時間が遅れると考えました。これを重力による時空の曲がりと言います。そして、時空が曲がったところでは、直進する性質をもつ光が空間の曲がりに沿って進むようになる。つまり、光は歪んだ空間の中を直進するが、空間が曲がっているのだから、外から見ると光が曲がって進んでいるように見えると考えました。光の進路を調べればこの理論が正しいかどうかを確認できると予言しました。

Photo_20200419152901

 彼の予言は1919年5月29日の皆既日食のときに、太陽の光が遮断されたわずかな時間を利用して、太陽周辺に見える星を観察することによって確かめられました。このとき、太陽の陰に隠れて見えない位置にあるはずの星が見えたことが確認されたことによって、アインシュタインの一般相対性理論が正しいことが証明されたのです。

 エネルギーと質量が同等で、光が重力によって曲がるならば、光に質量があると言っても良いのしょうか。私たちが物体の質量を考えるとき、物体は静止しています。この静止した物体の質量を静止質量といいます。その静止した物体の質量とエネルギーの関係を表した式が

     ①式

なのですが、元々、この①式は次の②式から運動量pがゼロだったときに導出されるものです。①式を見て、単純に「光もエネルギーがあるから質量がある」と考えてはいけません。光は静止することなく常に一定の速度で動いていますから、①式は光には適用できません。

     ②式

(E:エネルギー、m:質量、p:運動量、c:光速)

ところで、②式において、質量mがゼロだったとすると、

     ③式

となります。mがゼロでもEはゼロにはならないことは明白です。

この式を運動量pの式に直すと、

   ④式

となります。この式はマクスウェルの電磁波の方程式から導出することができます。ここでは省略しますが、②式において質量mをゼロとしたときに、電磁波の持つ運動量とエネルギーの関係式に一致したため、光の質量はゼロと考えられるようになりました。

 ただし、光は静止することなく常に一定の速度で動いていますから、光の静止質量がゼロであるというのは便宜的な意味でしかありません。逆説的に言えば、静止質量がゼロの光は常に動いていなければならないのです。

 ニュートン力学で定義される質量は物体の動かしにくさの度合いを示す量ですから、これを加速も減速もしない常に速度が一定の光に適用することはできません。しかし、光の粒子説において、光を粒子と考えると、光子は質量のない粒子ということになってしまいます。光子の質量をゼロとすることで、都合良く光を粒子として取り扱うことができるのです。

 エネルギーと質量が同等であるということについては、重力は質量だけでなくエネルギーを持ったものと相互作用するので、光も重力の影響を受けると考えて良いでしょう。

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