アインシュタインの光速度不変の思考実験
相対性理論を導いたドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインは手鏡に自分の顔を映しながら光速と同じ速さで走ったら鏡に自分の顔が映らなくなるのだろうかと考えました。
当時、光は空間を満たすエーテルという仮想の媒質を伝わると考えられていました。つまり、光速とは光がエーテルを伝わる速さと考えられていたのです。アインシュタインは自分も手鏡もエーテルの中を光速で進んでいるのだから鏡には自分の顔が映らなくなるだろうと考えてみましたが、このことが当時知られていた物理の法則に矛盾することに気がつきました。
次の図のようにまっすぐな高速道路を同じ方向に時速80キロメートルで走る自動車Aと時速100キロメートルで走る自動車Bを考えてみましょう。AからBを見ると、Bは時速20キロメートルで進行方向に遠ざかって行くように見えます。逆にBからAを見ると、Aは時速20キロメートルで進行方向と逆の方向に遠ざかって行くように見えます。この見かけの速度のことを相対速度といいます。もし、AとBの速度が同じであれば、AからBBを見ても、BからAを見ても、相対速度は0で動いていないように見えます。これがガリレオの相対原理です。
ニュートンがガリレイの相対原理から導いた「慣性の法則」(運動の第1法則)によれば、私たちは一定の速度で動いているとき、どれぐらいの速さで、どの方向に動いているのかわかりません。そもそも動いているかどうかさえわからないのです。これをさきほどの自動車の例にあてはめてみると、AとBはそれぞれ一定の速さで動いているのですから、まわりの景色や相手が見えなければ自分が動いていることに気がつかないはずです。また、AとBの速さが同じであれば、お互いにある一定の距離を置いて静止しているように見えます。相手が見えていてもまわりの景色が見えなければ自分が動いていることに気がつかないはずです。
さて、手鏡に顔を映しながら、光速と同じ速さで走ったとき、手鏡も自分も同じ速度で動いているわけですから、自分が動いていることに気がつくことはできないはずです。このとき、自分も手鏡も光もエーテルの中を光速で進むわけですから、自分の顔から出た光は鏡にたどりつくことができません。顔から出た光が鏡に届かなければ、その光が鏡で反射することもないので、鏡には顔が映らなくなります。
鏡に顔が映らなくなるということは、自分が動いていることがわかるということです。アインシュタインは光速で走ったときにだけ、自分が動いていることがわかるというのはおかしいと考えました。そして、エーテルの存在を否定し、光にはガリレオの相対原理は通用しない、つまり光速は観測者によらず、いつも同じ大きさであると考えました。
このようにアインシュタインは思考実験で光速度不変の原理にたどり着いたのです。やがて、エーテルが存在しないことや、光速度が不変であることが実験で確かめられ、アインシュタインの考えが正しいことが証明されたのです。
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