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2021年3月30日 (火)

無限の猿定理とは

バベルの図書館の収蔵されている本

 バベルの図書館のすべての所蔵本は25個の文字をでたらめに組み合わせでできています。そのため、バベルの図書館に収蔵本はでたらめに文字が羅列した意味のない本が多数を占めますが、その中には意味の通じる本もあります。

 たとえば、ウィリアム・シェークスピアのような作品ができあがる確率はどれぐらいになるでしょうか。確率は0ではありませんが、限りなく0に近いでしょう。シェークスピアのような作品ができあがるのは奇跡に近いのですが、十分に時間をかければ意味の通じる本ができあがると考えることもできるでしょう。

 乱数で文字列を発生し一冊の意味ある本ができあがる確率は「無限の猿定理」で考えることができます。

参考:光と色とバベルの図書館の所蔵数は何冊か

無限の猿定理とは

 猿が十分に長い時間をかけてキーボードを適当に打ち続けると、やがてシェイクスピアの作品の文章ができあがることもある。これが無限の猿
定理です。これは十分に長い時間をかけてランダムに1文字ずつ打ち出すと、どんな文字列でも作り上げられるという意味です。この定理によると、この記事も十分に時間さえかければ何の意図もなくできあがってしまうことになります。

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 もちろん猿がキーボードを適当に打ち続けるという条件は無理があります。猿は同じキーをずっと打ち続けたり、キーボードを壊したりしてしまうでしょう。ですから、猿を使った説明はあくまでも比喩です。そこでコンピュータで乱数を発生させてランダムに文字を打ち出すことを考えることにしましょう。また、シェークスピアの作品を例に説明すると、あまりに文字数が多くて話が複雑になるため簡単な例で考えてみましょう。

 MONKEYが打ち出される確率

 いまAからZまでの26文字の大文字のアルファベットからなるキーボードで文字をランダムに打ち出すことを考えます。このキーボードで任意の一文字が打ち出される確率は1/26です。m文字の文字列が打ち出される確率は 1/26mとなります。

 MONKEYは6文字ですからMONKEYが打ち出される確率は1/266、約3億890万分の1となります。仮に1秒で6文字打ち出せるとしても、すべての組み合わせを打ち出すのに要する時間は約3億890万秒、10年弱かかります。この確率は単語の文字数が大きくなるほど小さくなります。8文字になると約6,600年に1度、10文字になると約450万年に1度、12文字なると約30億年に1度になります。

 さて、実際のタイプライターやパソコンのキーボードのキーの数は約100個です。このキーボードでm文字の文字列が打ち出される確率は 1/100mとなります。6文字のMONKEYが打ち出される確率を同様に計算してみると、1/1006で1兆分の1で3万年に1度となります。8文字の確率は1京分の1で3億年に1度、9文字では100京分の1で300億年に1度です。これは宇宙の歴史138億年を上回ります。

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キーボードでMONKEYを打ち出す

俳句が打ち出される確率

 次にもう少し文字数を大きくして世界でもっとも短い詩である五・七・五の文字列からなる俳句について考えてみましょう。ひらがな50文字のキーボードを使うとすると、俳句の組み合わせは 5017 通りとなります。これは7の後ろに0が28個も続く大きな数字です。

 松尾芭蕉の「ふるいけや かわずとびこむ みずのおと」や与謝蕪村の「なのはなや つきはひがしに ひはにしに」という俳句ができる確率は 1/5017 であり極めて小さい値となります。

 シェイクスピアの「ハムレット」に出てくる有名な一文「To be, or not to be: that is the question.」で考えるとどうなるでしょうか。この台詞はスペースとカンマとコロンとピリオドを除くとちょうど 30 文字あります。大文字のアルファベット 26 文字のキーボードで考えると、この台詞ができあがる確率は 1/2630 となります。100 個のキーボードで打ち出される確率を考えると 1/10030 になります。

 10030 は1の後ろに 60 個も続く大きな数字です。いずれにしても作品中の文章がすべて打ち出される確率は極めて0に近い値であることは容易に想像できます。ハムレットの台詞が打ち出される事象が起きる可能性はほとんどないと言えるでしょう。

猿の数を増やすとどうなる

 さて「無限の猿の定理」の意味を考えると、確率は極めて低いものの理論的には十分に長い時間をかけるとシェイクスピアの作品がいつかは打ち出されることになります。ここでもう一度MONKEY を打ち出す実験を考えてみましょう。キーが 100 個のキーボードで MONKEY が打ち出される確率は1兆分の1で、1秒間に6文字打ち出すと、すべての組み合わせを打ち出すのに1兆秒かかる結果となりました。

 それでは、キーボードを1兆台用意して、1兆匹の猿がいっせいにキーボードを打ち始めたらどうなるでしょう。理論的には1秒後に1兆台のキーボードのうちどれか1台のキーボードが MONKEY を打ち出すことになるはずです。数秒後、1分後はどうでしょうか。ほぼ確実に MONKEY という文字列が打ち出されると言えるのではないでしょうか。

 このような条件は理論的にはいくらでも設定することが可能です。しかし、現実離れした条件を設定した場合、実際に確かめる術はありません。

無限の猿定理は現物実験で確かめることはできない

「無限の猿定理」は単純に言ってしまえば「何度も繰り返せばそのうち当たりが出る」と言っているのと同じです。しかし、無限の猿定理の事象が本当に起きるかどうかを確かめるには途方もない時間や途方もない数の装置を必要とするため「現物実験」で確かめることはできません。そのため、無限の猿定理の問題は「思考実験」で取り組む必要があるわけです。

 現物実験とは一口で言えば実在する物を使った実験のことです。科学の理論や法則に基づいて、条件などを変えながら、現物を使って実験を行います。実験から得られたデータをもとに、仮説を立てたり、結論を導き出したりします。

 一方、思考実験とは実際に実験を行わず、設定した前提条件をもとに、理論的に導かれる現象を思考のみによって解き明かしていくことです。言い換えれば、実際に実験できないことを、頭の中であれこれと考えてみることです。あれこれ考えると言っても、思考実験はあくまで科学の理論や法則に忠実に則って進めなければなりません。その約束が守られている限りにおいては、思考実験によって従来の科学の枠を超えた新しい科学の理論を導き出すことも可能です。事実、たくさんの新しい科学の理論体系が思考実験によって導き出されてきました。

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