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2020年6月10日 (水)

分光分析の幕開け(5)-可視光線の波長範囲の測定

ニュートンのプリズム実験で見逃されたもの

 ニュートンが1666年に太陽光をプリズムで分散してスペクトルの観察をした実験の様子は、ニュートンが1704に出版した『光学』に詳しい記述があります。

▶︎ニュートンのプリズム分光実験が1666年である根拠
https://optica.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/1666-2081.html
▶︎光学の原著 Opticks by Sir Isaac Newton / Project Gutenberg
https://optica.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/opticks-by-sir.html

 なにしろ、ニュートンは光を波と考ようとはしませんでしたので、可視光線の連続スペクトルの各部の色を屈折角と関係づけて説明しています。

可視光線のスペクトル

 ですから、ニュートンは光の色の説明で波長のことは言及していません。その後の他の科学者達によるスペクトルの実験でも、しばらくの間は光の色と波長が関係づけられることはありませんでした。赤外線を発見したハーシェルも紫外線を発見したリッター も光と波長の関係については言及していません。詳細な実験がいろいろ行われ、いろいろなことが解き明かされたにも関わらず、光の色と波長の関係だけは取り残されていたのです。

光は波であると結論づけたのは誰か?

 ニュートンの時代でも、クリスティアーン・ホイヘンスやロバート・フックなど光が波であろうと考えていた科学者はいましたが、光の波長を求めるところまでは至っていません。光の波長はあまりにも小さいため、当時の技術で光の波長を測定するのは困難だったのです。

 光が波であることを解き明かしたのはトマス ・ヤングです。ヤングは1790 年代には医学を学び、視覚、色覚、聴覚、音声について研究を行いました。それらの研究をきっかけに、やがて光学に興味をもつようになり、光の正体が何かを考えるようになりました。

Thomasyoung
トマス ・ヤング

 ヤングは 1773 年に生まれで、ニュートンは 1727 年、ホイヘンスは 1695 年、フックは1705年に没しています。ですから、ヤングは光の粒子説と波動説の争いの渦中にあったわけではありません。ヤングが生まれた頃には、この争いは光の粒子説の勝利で決着がついていました。その後も、ニュートンが提唱した説が覆されることはありませんでした。

 しかし、ヤングは音は空気中を伝わる波によって生じるのだから、光も波だろうという考えに至り、光が波であることを突き止める研究を進めました。そして、1800 年に「音と光についての実験および理論的研究に関する議論」という論文を発表し、世界で初めて波の干渉の原理につい
て説明しました。この論文は、音と光の比較から、光の振る舞いについて説明したものです。しかし、干渉の現象は音の波での説明であり、光
の干渉にまでは十分に拡張されていませんでした。

 ヤングはその後も光の干渉の実験を勧め、有名なヤングの実験(二重スリットの実験)で光の波を干渉させ、光が波であることを証明しました。この実験はヤングが1807年に発表した 「自然哲学講義」に掲載されていますが、この話は長くなるので、ここでは取りあげません。

ニュートンのスペクトルを波長と関係ずける

 ヤングは1801年に単純な回折格子を用いて、格子の溝の間隔から波長を計算しました。ヤングが用いた回折格子は、1インチあたり500本の溝が刻まれたガラス板でした。この回折格子に45度で太陽光を入射させると、光の干渉により、4つの明るい序列が現れました。回折角の正弦が整数1:2:3:4に従って増加していることから、ヤングは太陽光の波長を求めることができました。ヤングの計算では、可視光線の範囲は424 nmから675 nmの光となります。このことはヤングの1802年にまとめた下記の論文に掲載されています。

Young, T., "The Bakerian Lecture: On the Theory of Light and Colours", Phil. Trans. R. Soc. Lond., 92, 12-48 (1802). 
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstl.1802.0004
Veiw PDFをクリックすると、PDFを参照することができます。

上記の論文の39ページの下表に結果がまとめられています。

Theoryoflightandcolours

この表の波長の単位はインチになっています。

赤側の端と紫側の端をメートルに換算してみましょう。

Red Extremaは、0.0000266 inchとあります。1inchは2.54 cmですから、0.0254 mになります。

0.000026 inch × 0.0254 m/inch = 0.00000067564 m

これに109をかけてnmにすると、675.64 nmになります。

同様に、

Violet Extremaは、0.0000167 inchiですから、424.18 nmになります。

実は小数点の下三桁の数字に2.54をかけると、ちょうどnm単位になります。

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