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2020年6月

2020年6月29日 (月)

白いアジサイ「アナベル」はなぜ白いのか?

近所の家の軒先でアジサイがとても綺麗に咲いていました。

アジサイ 紫陽花

 アジサイの花の色を左右する重要な物質は土壌中に含まれるアルミニウムです。アジサイの花の色素のデルフィニジンはアルミニウムと結びつくと青色に呈色し、アルミニウムが少ないと赤色に呈色する性質があります。

 アルミニウムは土壌中にたくさん含まれていますが、土壌が酸性だと溶け出しやすく、植物に吸収されやすくなります。一方、土壌がアルカリ性だと溶け出しにくくなります。

 同じ株に咲いているのに色の違う花をつけるのは、アジサイの根が四方八方に広がっているからです。雨が降ったり、水を与えているうちに、土壌の成分が流れ出したりして、酸性度やアルミニウムの量が変化すると、根が吸収するアルミニウムの量が変わるため、色が変わってくるのです。このあたりについては、本ブログ「光と色と:花の色はいろいろ」で解説しています。

 さて、写真の中に白いアジサイが咲いています。この白いアジサイはアナベルという品種です。アナベルはアルミニウムと結びつく色素をもっていないため、土壌の酸性度によって色が変わりません。アナベルは咲き始めの成長時期はクロロフィルにより、薄い緑色をしていますが、成長すると真っ白な花になります。

アナベル アジサイ

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2020年6月23日 (火)

Opus Majus of Roger Bacon ロジャー・ベーコンの大著作

ロジャー・ベーコンは13世紀に活躍したイギリスの哲学者でカトリックの司祭でした。ニュートンより400年も前の時代に、自然科学の理論の探求を行い、実験や観察を行いました。近代科学の先駆者と言えるでしょう。

Rogerbacon

今回紹介する書籍はロジャー・ベーコンの大著作(Opus Majus)の上下巻です(この本は英語版です)。

光学・レンズの歴史を勉強するうえで、ロジャー・ベーコンの功績は外せません。高価ではありますが、光学の歴史に興味のある人は手元にあっても良いかと思います。

Book Description

Volume one of a two volume set. (This description is for both volumes.) Contains much of Bacon's principle writings in mathematics, optics, experimental science, and philosophy. Bacon is regarded as the first modern scientist. This is one of his major works with 8 plates and 72 illustrations.

The Opus Majus of Roger Bacon (Cambridge Library Collection - Physical Sciences)

The Opus Majus of Roger Bacon, Volume 2, Part 1 & 2 (Cambridge Library Collection - Physical Sciences)

 

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2020年6月22日 (月)

プロジェクターでプラネタリウムもどき

Amazon Primeで『バーチャル・プラネタリウム 自宅で愉しむ「全天88星座」の世界』という番組を放映していたので、下記のプロジェクターを使って天井に映像を投影して見てみました。

DR.J LED プロジェクター 小型 4000ルーメン 1080PフルHD対応 [720Pネイティブ] HDMIケーブル付属 台形補正 パソコン/スマホ/タブレット/ゲーム機など接続可能 USB/マイクロSD/HDMI/AV/VGAサポート 標準的なカメラ三脚に対応 3年保証

次の写真は天井をスマホで撮影したものです。天井は白色ではなく、板目の入った板なのですが、映像を投影してもあまり気になりません。

この写真は春の大三角形。三角形の左上の星は「うしかい座のα星アークトゥルス」、下の星は「おとめ座のα星スピカ」、右上の星が「しし座のβ星デネボラ」です。右上の星座は「しし座」です。

春の大三角形

次の写真は「M83うみへび座の棒渦巻銀河」です。真ん中あたりに見える縦線は天井の板の合わせ目です(^^ゞ

Photo_20200622122201

これらの映像を動画で見ることができます。

YouTubeに動画の短編がアップされています。

『バーチャル・プラネタリウム』トレーラー

 

YouTubeにはたくさん天文の映像がアップされています。プロジェクターで見ると迫力があります。

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2020年6月17日 (水)

らくらく図解 光とレーザー

らくらく図解 光とレーザー

著者:陳 軍 山本 将史 共著

既に中古本しか入手できませんが、なかなか良い本なので紹介します。

本書の題名は「光とレーザー」ですが、決してレーザーにだけ特化した内容ではなく、光の基本から解説してくれます。光学の基礎を勉強してきて、そろそろ数式の理解もしたいなと考えている初心者にはぴったりの本と思います。また、あまり数式が得意でなくても、数式を見て理解が深まるという気づきも出てきそうな一冊です。

内容(「BOOK」データベースより)

 光とレーザーについて図面を多用しながらていねいに解説。重要な部分は端折ることなく、一定程度は数式を使いながら、説明します。光とレーザーをキーワードにし、光の不思議・面白い現象を光の性質・本質から謎解きし、光やレーザーの応用技術も解説します。

単行本: 196ページ
出版社: オーム社 (2006/12)
ISBN-10: 4274066681
ISBN-13: 978-4274066689
発売日: 2006/12
商品の寸法: 21 x 14.8 x 1.8 cm

目次

はじめに
第1章 光って何だろう?
1-1 春はあけぼの
●ありふれた「ひかり」とはなんでしょう
●光を探る旅
●光の速さはどのくらい?
●光の速度はどこでも誰にとっても同じ
1-2 光は粒(光子)か?(幾何光学)
●鏡の国のわたし(反射)
●お風呂の中の足は短く見える?(屈折)
●分散
●虹の仕組み
1-3 光は波(光波)か?(波動光学)
●波って何か?(波動の表現)
●ヤングの干渉実験(干渉)
●ぼやけて細かく見えない(回折)
●光の正体は電磁波(マクスウェル方程式)
●光は横に振動する(偏光)
●反射率、屈折率
●再び分散について
●電子が光を青くする(散乱)
1-4 光は量子なんだ!
●光の正体見たり?
●黒体輻射の謎
●光が電子を弾き飛ばす(光電効果)
●光は量子?!
1-5 光はどうやって生まれる?
●光は余分なエネルギー
●電球の光
●蛍光灯の光
●太陽の光
●魔法の光(シンクロトロン放射)
●レーザーの光
●エネルギーと光
1-6 光はいろいろな顔を見せる
●相対論の中での光
●電磁力を媒介する光
第2章 こんなに光は使われている
2-1 カメラレンズの進化
●レンズとは人類が手に入れた光を制御する道具
●光線追跡
●画質を悪くする収差とは何か
●こうやって綺麗な画像を手に入れる
2-2 信号にも使われるLED
●「LED」とは
●LEDの使われ方
2-3 ブラウン管に替わる平面ディスプレイ
●まずはブラウン管
●液晶ディスプレイ
●プラズマディスプレイ
●FED(電界放射ディスプレイ)
●有機EL
2-4 環境にやさしい光発電
●再生エネルギーの利用としての光発電
●広がる光発電の利用
第3章 レーザーって何?
3-1 レーザーって何だろう?
●レーザー光と自然光の違い
●レーザーの誕生と発展
●レーザーの分類
●レーザーの構造
●レーザー発振の仕組み(1)発光(レーザー媒質の役割)
●レーザー発振の仕組み(2)励起(外部エネルギーの役割)
●レーザー発振の仕組み(3)正帰還(共振器の役割)
●レーザー発振の仕組み(4)レーザー光はこのように生まれる
3-2 レーザー光の特徴
●指向性
●単色性
●可干渉性
●集光性(高エネルギー密度)
●制御性
3-3 気体レーザーの構造と仕組み
●He-Neレーザーの概要
●He-Neレーザーの外形と構造
●He-Neレーザーの励起と発振の仕組み
3-4 半導体レーザーの構造と仕組み
●半導体レーザーの構造と発光の仕組み
●半導体レーザーの励起方法
●半導体レーザーの特性
3-5 固体レーザーの構造と仕組み
●YAGレーザーの構造
●YAGレーザーの発振
3-6 その他のレーザー
●色素レーザー
●X線レーザー
●自由電子レーザー
第4章 レーザーはこんなところに使われている
4-1 進化する光ディスク
●光ディスクの種類と特徴
●CD-ROM(再生専用)の構造
●CD-R(追記型)の構造
●CD-RW(書換型:相変化)の構造
●MO/MD(書換型:光磁気)の構造
●BDとHD DVDの違い
4-2 きれいで静かなレーザープリンタ
●プリンタの進化
●スキャナの原理
●スキャナの進化
4-3 どこにでもあるICを作る半導体露光装置ステッパ
●現代生活を支えるIC
●ステッパ/スキャナとは
●ステッパの全体構造
●光源と照明部
●投影部
●位置制御にも光が使われている
4-4 レジ待ちを短縮するバーコードリーダー
●便利なバーコードシステム
●バーコードリーダーの構造
●ホログラフィとは
●ホログラフィック・スキャナ
4-5 インターネットを高速にする光ファイバ
●光ファイバによる高速化の波
●光ファイバの原理
●波長多重による高速化
4-6 より短い光を使いたい(第2高調波)
●非線形光学効果とは
●第2高調波の発生
●疑似位相整合(QPM : Quasi Phase Matching)
4-7 飛ばない光(近接場光)
●飛ばない光とは
●近接場光で測定する
●近接場光で書き込む・読み出す
●近接場光で操作する
●近接場光で加工する
参考文献
索引

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2020年6月16日 (火)

レンチキュラーレンズで光学迷彩?(3) ものが消えて見える原理と仕組み

 レンチキュラーレンズで鉛筆が消えて見える

 次の写真の右上のように、縦向きに置いた鉛筆のうえに横向きに鉛筆を置きます。これを=の方向にしたレンチキュラーレンズの通して見ると、写真の左のように上に置いたはずの横向きの鉛筆が消えて、下に置いたはずの縦向きの鉛筆が見えます。このままの状態で、写真右下のようにレンチキュラーレンズを90度回転し、‖の方向にすると、縦向きの鉛筆が消えて、横向きの鉛筆が見えます。また、よく見てみると、写真左では、横向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(縦置きの鉛筆の左右)、写真右下では、縦向きの鉛筆が消えて見えなくなっている部分(横向きの鉛筆の上下)が背景色とい同じオレンジ色になっています。

レンチキュラーレンズで鉛筆が消える
レンチキュラーレンズで鉛筆が消える

レンチキュラーレンズでものが消えて見える理由は、少年写真新聞社理科教育ニュースの2020年5月28日号に解説が掲載されていますが、ここでは、この現象についてもう少し詳しく解説します。さらに理解を深めることができればと思います。

シリンドリカルレンズの虚像

 レンチキュラーレンズによる鉛筆の見え方の変化の現象の基本的原理はシリンドリカルレンズでできる実像です。なぜなら、この現象は、レンチキュラーレンズを鉛筆に密着した状態で見ているときには起きないからです。ですから、上の写真のように、鉛筆が方向によって、見えたり消えたりするのは、レンチキュラーレンズでできる鉛筆の実像を見ていることになります。

 理解を深めるために、まずはひとつのシリンドリカルレンズで見える虚像を考えてみます。シリンドリカルレンズでできる虚像は、曲面がある方向に拡大されます。下の写真はグラフ用紙の真上にシリンドリカルレンズを=の方向に置いたものです。シリンドルカルレンズを=の方向に置いたとき、縦方向には曲面がありますが、横方向には曲面がありません。

レンチキュラーレンズの虚像
レンチキュラーレンズの虚像

 上の写真でレンズの中のグラフを見てみると、縦方向の線の太さや、縦線の間隔には変化がないことがわかります。これは曲面のない横方向で光が屈折しないからです。一方、横方向の線は太くなっており、横線の間隔も広くなっています。レンズの外側では横線は 4 行あるのに、レンズの中では拡大された 2行しか見えていなません。これは、曲面のある縦方向で光が屈折するからです。

 この虚像の現象からは、上の鉛筆が消える写真の現象を説明することはできません。虚像の場合、シリンドリカルレンズを置く方向にかかわらず、縦方向の鉛筆も横方向の鉛筆も消えて見えなくなることはありません。また、上述の通り、鉛筆が消えている部分が背景のオレンジ色になっていますが、虚像ではこのようなことは起こりません。

シリンドリカルレンズの実像

 次にシリンドリカルレンズをグラフ用紙から離し、実像を観察してみます。光が屈折しない方向の縦線の太さや間隔は、虚像のときと同様に変化がありません。一方、横線については、虚像とは異なり、縦方向が圧縮され、たくさんの行が見えています。シリンドリカルレンズでできる実像は光を屈折する方向に直線上に集まるようにできますので、これは理に適っています。

シリンドリカルレンズの実像
シリンドリカルレンズの実像

 また、=の方向に置いたシリンドリカルレンズでできる実像は縦方向が反転していて、横方向はそのままであることに留意しておきましょう。ですから、レンズの中の上側の列は、実際には下の列が見えていて、レンズの中の下側の列は実際の上の列が見えています。下記のようにグラフの上に赤いラインを引くと縦方向が反転していることがわかります。 

 リンドリカルレンズの実像(縦方向反転) 
シリンドリカルレンズの実像(縦方向反転)

さらに、レンズをグラフから離していくと、さらに縦方向が圧縮されて、横線が見えなくなります。ところで、縦方向が詰まっているということは、変化がないように見える縦線も実は縦方向に詰まっているということです。

シリンドリカルレンズの実像
シリンドリカルレンズの実像(横線が見えなくなる)

 次の図はシリンドリカルレンズでできる実像の仕組みを示したものです。シリンドリカルレンズを=の方向に配置すると、横長の物体ABの実像A'B'は、横方向はそのままですが、縦方向が縮んで細い線状となるため、視認しずらくなります。一方、縦長の物体CDの実像C'D'も縦方向に縮みますが、物体が十分に縦長なため、視認できます。レンズを90度回転すると、今度はC'D'が視認できなくなります。

シリンドリカルレンズの実像(模式図)

シリンドリカルレンズの実像(模式図)

 レンチキュラーレンズの各々のレンズの実像は反転していますが、微小な領域のため全体として見たときには反転して見えません。また、横置きの鉛筆の下側にある縦置き鉛筆が前面にあるように見えるのは、レンチキュラーレンズに物体を引き延ばして見せる効果があるからです。レンチキュラーレンズで鉛筆の端の方を観察すると、鉛筆が伸びて見えることがわかります。

 このことを確認するためパソコンで画像を作成して次のような確認をしてみました。

パソコンで次のような絵を描き(左)、これをレンチキュラーレンズを通してみてみました。画面にレンチキュラーレンズをぴったりとつけて、虚像を観察すると、レンチキュラーレンズの方向にかかわらず、元の絵からほとんど変化していません。

レンチキュラーレンズの虚像 元の絵(左) =方向(中) ‖方向(右)
レンチキュラーレンズの虚像 元の絵(左) =方向(中) ‖方向(右)

 レンチキュラーレンズを画面から離して、実像を観察すると、レンチュキュラーの置き方が=方向(写真左)か‖方向か(写真中)によって、元の絵とは見え方が変わります。最初の鉛筆の実験の写真と同じ結果となっています。

レンチキュラーレンズの実像 =方向(左) ‖方向(中) =方向で伸びる(右)
レンチキュラーレンズの実像 =方向(左) ‖方向(中) =方向で伸びる(右)

 写真左において、縦長の棒しか見えないのは、横長の棒がシリンドリカルレンズの屈折の働きで圧縮されてしまいぼやけて視認できなくなるからです。実際には縦長の棒も圧縮されていますが、圧縮される方向に縦長のため、横長の棒のようぼけたようには見えません。また、横長の棒の下側にあるはずの縦長の棒が前面に出ているように見えるのは、レンチキュラーレンズが物体を引き延ばして見せるからです。写真右を見ると、縦長の棒と黒い背景が下側に伸びて見えることがわかります。最初の鉛筆の写真で背面のオレンジ色が前面に出てきているのも同じ理由です。

 以上がレンチキュラーレンズの向きで、縦横の向きの鉛筆が消えて見える理由です。

さて、レンチキュラーレンズを通してものを見ると、確かにものが消えます。これはレンチキュラーレンズでできる実像が圧縮したり伸びたりしてぼやけているからです。確かに特殊なレンズを用いた面白い現象ですが、これだけですと光学迷彩というまでには少し無理がありそうです。

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2020年6月12日 (金)

初期ギリシア科学―タレスからアリストテレスまで (叢書・ウニベルシタス) [単行本]

 初期ギリシア科学―タレスからアリストテレスまで (叢書・ウニベルシタス)

G.E.R. ロイド (著), Geoffrey Ernest Richard Lloyd (原著), 山野 耕治 (翻訳), 山口 義久 (翻訳)

 この本は初版が1994年ですが、増刷を重ねています。

 科学系の記事を書いていると、歴史を振り返ることがあります。多くは17世紀から19世紀あたりを調べると済むのですが、さらに突き詰めていくと、そのときに外せないのが、やはり古代ギリシャの哲学者たちのものの見方や考え方です。

 この本を一度読んでおくと、自分の知識の引き出しを増やすことができると思います。

ギリシア科学―タレスからアリストテレスまで

内容(「BOOK」データベースより)

天文学・物理学・生物学を軸に、ギリシア科学の理論と方法、探究の本質を明らかにする。

内容(「MARC」データベースより)

今日の科学文明の出発点を探る書。古代ギリシアの著述家達の注意を引きつけた科学の様々な分科の問題・理論・方法について、また彼らの試みていた探究の本質について、天文・物理・生物学を軸に論じた。

単行本: 229ページ
出版社: 法政大学出版局 (1994/12)
ISBN-10: 458800459X
ISBN-13: 978-4588004599
発売日: 1994/12
商品の寸法: 20 x 13.6 x 2 cm 

目次

第1章 背景と始まり
第2章 ミレトス派の学説
第3章 ピュタゴラス派
第4章 変化の問題
第5章 ヒッポクラテス集典の筆者たち
第6章 プラトン
第7章 前四世紀の天文学
第8章 アリストテレス
第9章 結論

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2020年6月10日 (水)

分光分析の幕開け(5)-可視光線の波長範囲の測定

ニュートンのプリズム実験で見逃されたもの

 ニュートンが1666年に太陽光をプリズムで分散してスペクトルの観察をした実験の様子は、ニュートンが1704に出版した『光学』に詳しい記述があります。

▶︎ニュートンのプリズム分光実験が1666年である根拠
https://optica.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/1666-2081.html
▶︎光学の原著 Opticks by Sir Isaac Newton / Project Gutenberg
https://optica.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/opticks-by-sir.html

 なにしろ、ニュートンは光を波と考ようとはしませんでしたので、可視光線の連続スペクトルの各部の色を屈折角と関係づけて説明しています。

可視光線のスペクトル

 ですから、ニュートンは光の色の説明で波長のことは言及していません。その後の他の科学者達によるスペクトルの実験でも、しばらくの間は光の色と波長が関係づけられることはありませんでした。赤外線を発見したハーシェルも紫外線を発見したリッター も光と波長の関係については言及していません。詳細な実験がいろいろ行われ、いろいろなことが解き明かされたにも関わらず、光の色と波長の関係だけは取り残されていたのです。

光は波であると結論づけたのは誰か?

 ニュートンの時代でも、クリスティアーン・ホイヘンスやロバート・フックなど光が波であろうと考えていた科学者はいましたが、光の波長を求めるところまでは至っていません。光の波長はあまりにも小さいため、当時の技術で光の波長を測定するのは困難だったのです。

 光が波であることを解き明かしたのはトマス ・ヤングです。ヤングは1790 年代には医学を学び、視覚、色覚、聴覚、音声について研究を行いました。それらの研究をきっかけに、やがて光学に興味をもつようになり、光の正体が何かを考えるようになりました。

Thomasyoung
トマス ・ヤング

 ヤングは 1773 年に生まれで、ニュートンは 1727 年、ホイヘンスは 1695 年、フックは1705年に没しています。ですから、ヤングは光の粒子説と波動説の争いの渦中にあったわけではありません。ヤングが生まれた頃には、この争いは光の粒子説の勝利で決着がついていました。その後も、ニュートンが提唱した説が覆されることはありませんでした。

 しかし、ヤングは音は空気中を伝わる波によって生じるのだから、光も波だろうという考えに至り、光が波であることを突き止める研究を進めました。そして、1800 年に「音と光についての実験および理論的研究に関する議論」という論文を発表し、世界で初めて波の干渉の原理につい
て説明しました。この論文は、音と光の比較から、光の振る舞いについて説明したものです。しかし、干渉の現象は音の波での説明であり、光
の干渉にまでは十分に拡張されていませんでした。

 ヤングはその後も光の干渉の実験を勧め、有名なヤングの実験(二重スリットの実験)で光の波を干渉させ、光が波であることを証明しました。この実験はヤングが1807年に発表した 「自然哲学講義」に掲載されていますが、この話は長くなるので、ここでは取りあげません。

ニュートンのスペクトルを波長と関係ずける

 ヤングは1801年に単純な回折格子を用いて、格子の溝の間隔から波長を計算しました。ヤングが用いた回折格子は、1インチあたり500本の溝が刻まれたガラス板でした。この回折格子に45度で太陽光を入射させると、光の干渉により、4つの明るい序列が現れました。回折角の正弦が整数1:2:3:4に従って増加していることから、ヤングは太陽光の波長を求めることができました。ヤングの計算では、可視光線の範囲は424 nmから675 nmの光となります。このことはヤングの1802年にまとめた下記の論文に掲載されています。

Young, T., "The Bakerian Lecture: On the Theory of Light and Colours", Phil. Trans. R. Soc. Lond., 92, 12-48 (1802). 
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstl.1802.0004
Veiw PDFをクリックすると、PDFを参照することができます。

上記の論文の39ページの下表に結果がまとめられています。

Theoryoflightandcolours

この表の波長の単位はインチになっています。

赤側の端と紫側の端をメートルに換算してみましょう。

Red Extremaは、0.0000266 inchとあります。1inchは2.54 cmですから、0.0254 mになります。

0.000026 inch × 0.0254 m/inch = 0.00000067564 m

これに109をかけてnmにすると、675.64 nmになります。

同様に、

Violet Extremaは、0.0000167 inchiですから、424.18 nmになります。

実は小数点の下三桁の数字に2.54をかけると、ちょうどnm単位になります。

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2020年6月 8日 (月)

月(2020年6月8日 月齢16.4)

 先週末から月を撮影しようと思っていたのですが、雨や曇りが続いていたので、月が綺麗に見えませでした。

本日は晴天なりで、東京都の月の出が21:28、月の見える方向に小高い丘があるので、月が見え始めるまでには少し時間がかかりました。

月齢16.4の月

 月の左上に明るい星が輝いています。太陽系第5番惑星の木星です。

月と木星

 この撮影に使ったカメラはパナソニック デジタルカメラ ルミックス FZ85 ブラック DC-FZ85-Kです。焦点距離が20 mm〜1200 mmで、光学ズーム60倍です。

 このカメラにレイノックス 2.2X テレコンバージョンレンズ DCR-2025PROをつけています。このテレコンは2.2倍なので、FZ-85の光学ズームが60×2.2倍で132倍となりますが、ここまで拡大すると分解能がついいきません。また色収差が出ます。

 

 FZ-85にテレコンをつけるには、パナソニック レンズアダプター ルミックス DMW-LA8が必要です。レイノックスのテレコンに付属のアダプターリング52 mmを使うと、このレンズアダプターに取り付けることができます。

 

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2020年6月 6日 (土)

光学ガラス製のガラス玉

水晶玉 60mm 無色透明 クリア台座付き 宙玉撮影 クリスタルボール レンズボール 撮影 水晶球

ガラス玉があると、魚眼レンズの観察や虹ができる仕組み(水滴中の光の進み方)など、いろいろな実験ができます。以前は、大きなものを手軽な価格で入手するのは困難でしたが、最近になって中国製の安価なものを入手できるようになりました。直径60 mmで1,280円、80 mmで1,680円です。この値段だと複数個変える値段です。

Photo_20200605185001

 水晶玉とありますが、もちろん天然水晶であるはずはありません。Amazonのサイトには【K9クリスタル素材を採用、透明度が高いボール】とあります。K9というからには光学ガラスのクラウンガラスだと思いますが、K9というのは聞いたことがありません。調べてみたら、BK7と同じもののようです。BK7はホウケイ酸塩クラウン光学ガラスで、合成石英でもありません。ですので、水晶という表現は適切ではないのですが、実験道具としてはBK7で十分です。

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2020年6月 5日 (金)

分光分析の幕開け(4)-紫外線の発見

化学線の発見

 1801年、ドイツのヨハン・ヴィルヘルム・リッターは、1800年のハーシェルの熱線(赤外線)の発見に触発されて、太陽光のスペクトルの紫色光の外側にも目に見えない光があるのではないかと考えて、実験を行うことにしました。

Die Auffindung nicht sichtbarer Sonnenstrahlen außerhalb des Farbenspektrums an der Seite des Violetts.
Ritter, J. W. (1801) 6. Von den Herren Ritter und Backmann. Annalen der Physik, 7, 527.

 実験を行うにあたり、リッター は塩化銀の光化学反応を利用しました。当時、硝酸銀や塩化銀に光を当てると黒化する現象はよく知られていました。最初の記録としては、1614年にタリアの医師Angeleo Salaが太陽光を硝酸銀の粉末に当てると色が黒くなることを報告しています。

 リッターは、太陽光のスペクトルの様々な色の光を塩化銀に当て、塩化銀が白色から黒色に変化する反応速度を調べました。そして、赤色光では、塩化銀がほとんど変色しないこと、青色光が赤色光よりも速く塩化銀を黒化させることを確認し、さらにスペクトルの紫色光の外側0.5インチの色がついていない部分がもっとも速く塩化銀を黒化することを発見しました。

 この実験の結果から、リッターはスペクトルの紫色光の外側に目に見えない物質を変化させる放射線が存在することを示し、これを脱酸線(de-oxidierende Strahlen)と名付けました。脱酸素線は後に化学線と呼ばれるようになりました。

 リッター が発見した化学線が光の仲間であることは直ちには受け入れられませんでした。化学線が紫外線と呼ばれるようになるまでには、しばらく時間を要しました。

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2020年6月 3日 (水)

光学機器が一番わかる

光学機器が一番わかる (しくみ図解シリーズ 9)

福田 京平 (著)

こちらも既に絶版しているようで中古品となっていますが、光学の基礎知識から光学機器の仕組みまでわかりやすくまとまった本です。下の目次を見るとわかりますが、光学機器のしくみについては幅広い範囲を対象としています。そのぶん深いところまで掘り下げた内容ではありませんが、光学機器のしくみの入門書としては一冊持っておくと良いと思います。

光学機器が一番わかる (しくみ図解シリーズ 9)

光ディスク、液晶、3Dディスプレイ、デジカメなど、今の電子製品の基礎を担うのが光学です。しかし、技術分野としては非常に重要であるにもかかわらず、光学は体系的に学ぶ機会がないようです。そこで本書では、光学の基礎知識、光学機器のしくみ、光伝送技術などをわかりやすくまとめます。

単行本(ソフトカバー): 256ページ
出版社: 技術評論社 (2010/4/9)
ISBN-10: 4774141984
ISBN-13: 978-4774141985
発売日: 2010/4/9
商品の寸法: 21 x 14.8 x 2.2 cm

目次

第1章 光の基礎
1-1 光学の歴史
1-2 光線としてみたときの光
1-3 波としてみたときの光
1-4 光は電磁波の一種…マクスウエルの方程式
1-5 電磁波の種類
1-6 偏光とは何か
1-7 粒子としてみたときの光…光の量子論
1-8 光の速さはどうやって測るのか
1-9 さまざまな光の量と単位

第2章 色と発光のしくみ
2-1 光の3原色と色の3原色
2-2 人間の目の構造
2-3 色の定量化…色彩工学
2-4 さまざまな発光現象
2-5 発光の基本原理

第3章 幾何光学
3-1 実像と虚像とは何か
3-2 焦点距離が長いレンズと短いレンズ
3-3 作図で像を求める
3-4 凹面鏡と凸面鏡
3-5 レンズのいろいろな倍率
3-6 レンズの明るさ
3-7 収差の種類としくみ
3-8 収差性能の評価と自動設計

第4章 さまざまな光学素子
4-1 鏡:もっとも身近な光学素子
4-2 さまざまなレンズ
4-3 ガラスレンズの材料と製法
4-4 プラスチックレンズの材料と製法
4-5 さまざまな曲面鏡
4-6 光学薄膜のしくみ
4-7 回折光学素子のしくみ
4-8 偏光素子のしくみ
4-9 フォトダイオードのしくみ
4-10 LED(発光ダイオード)とは何か
4-11 さまざまな照明用光源

第5章 時代を支える光学技術
5-1 レーザー光の特徴
5-2 レーザーのしくみ
5-3 レーザーの種類と分類
5-4 フェムト秒レーザー
5-5 自由電子レーザー
5-6 光ファイバーのしくみ
5-7 光通信を支える技術
5-8 フォトニック結晶とは何か

第6章 さまざまな光学機器
6-1 眼球と眼鏡とルーペ
6-2 カメラの種類と光学
6-3 カメラ用レンズのしくみ
6-4 オートフォーカスと手ぶれ補正
6-5 デジタルカメラのしくみ
6-6 その他のカメラのしくみ
6-7 光学顕微鏡の基本的なしくみ
6-8 顕微鏡によるさまざまな観察方法
6-9 光学方式以外の顕微鏡のしくみ
6-10 望遠鏡の種類と性能の比較
6-11 研究観測用大型望遠鏡
6-12 液晶ディスプレイのしくみ
6-13 プラズマテレビのしくみ
6-14 ELディスプレイとEL照明
6-15 プロジェクターのしくみ
6-16 3Dディスプレイのしくみ
6-17 ホログラフィーのしくみ
6-18 光ディスクのしくみ

 

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2020年6月 2日 (火)

分光分析の幕開け(3)-赤外線の発見

熱線の発見

 1800年、イギリスのウィリアム・ハーシェルは、プリズムでできた太陽光のスペクトルのさまざまな部分に温度計を当てて、様々な色の光の温度を測定しました。

Herschel, W(1800) Experiments on the refrangibility of invisible rays of the sun. Phil. Trans. R. Soc. Kond.,90,255-283,284-292,293-326.
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspl.1800.0013

Herschelinfrared

 実験の結果、赤色光は周囲より7 F°、緑色光は3 F°、紫色光は2 F°だけ温度を上昇させることを発見しました。

 さらに、ハーシェルはスペクトルの赤色光側の外側の温度を測定してみました。このときプリズムでできた可視スペクトルの幅は4インチほどになりましたが、赤色光側の端から1.5インチ外側の部分が最も大きい9 F°の温度上昇となることを突き止め、スペクトルの目に見える色がついている部分よりも温度が高くなることを発見しました。

 また、ハーシェルは紫色光の端から外側の部分でも同じ測定を試みましたが、温度上昇は認められませんでした。ハーシェルはこの領域での探究は継続しなかったようです。

 ハーシェルは、太陽光のエネルギーの最大強度は緑色光から黄色光あたりにあることから、太陽光の熱エネルギーの最大強度は、光のエネルギー最大強度と比べてかなりずれていることを指摘しています。

 ハーシェルは一連の実験から、赤色光の外側に熱を運ぶ熱線があると考えました。ハーシェルは熱線が光と同じ屈折と反射の法則に従うことを発見し、放射熱と光は本質的に同じものであることを提案しましたが、19世紀半ばまで受け入れられませんでした。

 また、ハーシェルが発見したのは紛れもなく赤外線でしたが、しばらくの間は「熱線」などと呼ばれました。

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2020年6月 1日 (月)

わたしもファラデー  たのしい科学の発見物語

わたしもファラデー―たのしい科学の発見物語

板倉 聖宣 (著)

イギリスの化学者・物理学者のマイケル・ファラデーの生い立ち、業績とその内容について、4人の子どもと博士の対話を交えながら、わかりやすく解説しています。

巻末にファラデーの業績の年表の付録がついています。これがとても良いです。

著者は「仮説実験授業」の提唱者の板倉先生です。

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内容(「BOOK」データベースより)

ファラデーはロンドンで鍛冶屋の子として生まれました。小学校しか出ていない彼は7年間の徒弟奉公をへて一人前の製本職人に。ところが徒弟時代に知った科学の楽しさが忘れられませんでした。ファラデーはどのようにして大好きな科学への道を歩むようになったのでしょうか。数学ができなくても豊かなイメージを武器に電磁気や半導体物質など今日の社会を支える大発見を次々となしとげたファラデー。その魅力的な半生をいきいきと描く発明発見物語。

内容(「MARC」データベースより)

小学校しか出ていなくて数学ができなくても、豊かなイメージを武器に、電磁気や半導体物質など、今日の社会を支える大発見を次々となしとげたファラデー。その魅力的な半生をいきいきと描く発明発見物語。

  • 単行本(ソフトカバー): 187ページ
  • 出版社: 仮説社 (2003/11/5)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4773501758
  • ISBN-13: 978-4773501759
  • 発売日: 2003/11/5
  • 商品の寸法: 18.8 x 12.8 x 1.4 cm

目次

第1章 ファラデーの生い立ち
第2章 新元素「ヨウ素」の発見に立ち会う―科学者としての第一歩
第3章 安全ランプの発明
第4章 磁力線のすばらしさの発見―世界最初のモーターの発明
第5章 電磁気の感応現象の追求―電磁誘導現象の発見
第6章 半導体物質の発見―白金の表面の不思議な現象のなぞ
第7章 磁石を近づけると逃げる物質の発見―「光も磁石に影響を受ける」ことの発見から「電波の存在」の予言まで

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