分光分析の幕開け(2)-ニュートンのプリズム実験
ニュートンのプリズム実験
分光分析の幕開けと言えば、アイザック・ニュートンが1666年に行ったプリズムの実験を外すことはできないでしょう。ニュートンは無色の太陽光をプリズムに通すと、虹のような連続した光の色の帯が現れる現象について研究を重ね、この光の色の帯のことをスペクトルと名付けました。
さて、この「分光分析の幕開け」シリーズの(1)でニュートンのプリズムの実験についてあえて触れなかった理由として、
- このブログでニュートンのプリズム実験についての説明を何度か掲載していること
- ニュートンのプリズム実験から19世紀の分光学の発展期の間には相当の年月が経過しており、ニュートンの実験が直接的に分光学の発展に寄与したとまではいえないこと
などもあるのですが、ニュートンが1704年に著作「光学」で非常に重要な先駆的な実験と結果を示したにもかかわらず、その後の光の探究からはあえて遠ざかってしまったふしがあるからです。
ニュートンは光の正体を粒子と考え、光の直進、反射、屈折などの現象を説明をしました。クリスティアーン・ホイヘンスやロバート・フックは光のさまざまな現象を観察し、鋭い洞察力から光は波だと唱えました。しかし、当時、万有引力を発見していたニュートンの権威があまりにも絶大だったため、ニュートンの説が覆ることはありませんでした。
ニュートンの著作「光学」に目を通してみると、前半部分に記述されている反射、屈折、プリズム分光などの現象の研究においては、光を粒子とした説明に勢いが感じられます。しかし、後半部分には、ニュートンリング、薄膜の構造色、回折など、光を粒子とすると説明が困難になりそうなものを題材として取り上げており、説明に苦戦しています。ニュートンの説明はこじつけのようなものもありましたが、それでも何とかつじつまを合わせて光の現象を説明できたのです。しかし、結論を出さずに説明を保留した現象もあります。
なぜ、ニュートンは自らの説明が困難になるような現象まで題材として取り上げたのでしょうか。それは、プリズムの実験からもわかるように、ニュートンが光と物質の相互作用と色の関係を解明しようとしていたからです。そういう意味では、ニュートンは何がなんでも光を粒子だと貫いていたわけではありませんでした。
ニュートンは、自身やその他の多くの研究者が光の研究を進めていく過程で、光は周期的な性質をもつことを認識していました。ですから、光の正体は本当は波なのではないかと気がついていたようにも思います。しかし、ニュートンは、光の現象について、光が波であるという立場での説明はしませんでした。ニュートンが波の立場で光の現象を説明していたら、もっといろいろなことが解明されていたかもしれません。
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