光には重さがあるのか
イギリスの物理学者アイザック・ニュートンの伝記に「リンゴが木から落ちるのを見て、万有引力を発見した」という有名な逸話があります。ボールを投げると放物線状に曲がりながら落下するように、私たちの身の回りにある質量をもつものはすべて地球の重力に引かれて地面に落下します。
アインシュタインは1905年6月に『運動物体の電気力学について』という論文で特殊相対性理論を発表し、その3ヶ月後に『物体の慣性はその物体の含むエネルギーに依存するであろうか』という論文で、エネルギーと質量は等価であり、相互に交換可能であることを示しました。これが有名な次の式です。
E=mc2 ①式
それでは、エネルギーと質量が等価であるならば、エネルギーをもっている光も重力の影響で曲がるのではないでしょうか。
アインシュタインは、強い重力が働く場所では、図のように空間が曲がると考えました。そして、空間が曲がると、時間が遅れると考えました。これを重力による時空の曲がりと言います。そして、時空が曲がったところでは、直進する性質をもつ光が空間の曲がりに沿って進むようになる。つまり、光は歪んだ空間の中を直進するが、空間が曲がっているのだから、外から見ると光が曲がって進んでいるように見えると考えました。光の進路を調べればこの理論が正しいかどうかを確認できると予言しました。
彼の予言は1919年5月29日の皆既日食のときに、太陽の光が遮断されたわずかな時間を利用して、太陽周辺に見える星を観察することによって確かめられました。このとき、太陽の陰に隠れて見えない位置にあるはずの星が見えたことが確認されたことによって、アインシュタインの一般相対性理論が正しいことが証明されたのです。
エネルギーと質量が同等で、光が重力によって曲がるならば、光に質量があると言っても良いのしょうか。私たちが物体の質量を考えるとき、物体は静止しています。この静止した物体の質量を静止質量といいます。その静止した物体の質量とエネルギーの関係を表した式が
E=mc2 ①式
なのですが、元々、この①式は次の②式から運動量pがゼロだったときに導出されるものです。①式を見て、単純に「光もエネルギーがあるから質量がある」と考えてはいけません。光は静止することなく常に一定の速度で動いていますから、①式は光には適用できません。
E2=(mc2)2 + (pc)2 ②式
(E:エネルギー、m:質量、p:運動量、c:光速)
ところで、②式において、質量mがゼロだったとすると、
E=pc ③式
となります。mがゼロでもEはゼロにはならないことは明白です。
この式を運動量pの式に直すと、
p=E/c ④式
となります。この式はマクスウェルの電磁波の方程式から導出することができます。ここでは省略しますが、②式において質量mをゼロとしたときに、電磁波の持つ運動量とエネルギーの関係式に一致したため、光の質量はゼロと考えられるようになりました。
ただし、光は静止することなく常に一定の速度で動いていますから、光の静止質量がゼロであるというのは便宜的な意味でしかありません。逆説的に言えば、静止質量がゼロの光は常に動いていなければならないのです。
ニュートン力学で定義される質量は物体の動かしにくさの度合いを示す量ですから、これを加速も減速もしない常に速度が一定の光に適用することはできません。しかし、光の粒子説において、光を粒子と考えると、光子は質量のない粒子ということになってしまいます。光子の質量をゼロとすることで、都合良く光を粒子として取り扱うことができるのです。
エネルギーと質量が同等であるということについては、重力は質量だけでなくエネルギーを持ったものと相互作用するので、光も重力の影響を受けると考えて良いでしょう。
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