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2020年4月29日 (水)

光は蓄えることができるか(3)ー光を圧縮して蓄える

 米国のハーバード大学のレナ・ハウ博士とその研究チームは、1999年にボーズ・アインシュタイン凝縮を利用して、光の速度を真空の1800万分の1、つまり時速60 kmほどまでに遅くすることに成功しました。博士らは絶対0度(0 K = -273.15℃)近くの極低温にしたナトリウム原子が凝集したガスの中に振動数を調整した制御用レーザー光をあてておき、このガスの中に波長が少しずつ異なる多数の光を重ね合わせたパルス光を送る当てる実験を行いました。すると、パルス光が圧縮されて速度が劇的に遅くなったのです。この現象の原理はガラスを通る光の速度が低下する原理とは異なります。この原理は量子力学に基づくもので非常に難しいため、どのようなことが起きているのかだけを簡単に説明します。

 極低温のナトリウム原子のガスの中では、光の速度が波長によって異なります。すると、たくさんの波長の光を重ね合わせたパルス光が圧縮されその移動速度が遅くなるのです。続いて、制御用レーザー光を出たパルス光はもとの状態に戻ります。博士はこの極低温のナトリウム原子のガスはブラックホールとよく似た性質を持っていると述べています。このことは時空の曲がった空間が作られているということを意味しています。ナトリウム原子のガスの中の時空が曲がっているのであれば、アインシュタインが一般相対性理論ので述べた通りの現象が起きているはずです。つまり、ナトリウム原子のガスの中では時間の進み方が遅くなっていることになります。博士らは2001年には光線を完全に止めることに成功しています。

Lenehau

 博士らはこの実験で、ナトリウム原子のガスにパルス光をためて、後で取り出すという実験にも成功しています。パルス光を制御用レーザー光に導入した後、制御用レーザー光を消します。このとき、パルス光も消えてしまいますが、パルス光の情報はたくさんのナトリウム原子に記憶されます。制御用レーザーを再びナトリウム原子のガスに照射すると、パルス光がよみがえります。

 博士が実現したこの現象は光が遅くなるということだけではなく、光のもっている情報を物質に記憶させて、光としてよみがえらせることができるということです。この現象を利用すると、光を自由に操ることができるようになります。量子コンピューターやより優れた光通信の実現が可能になるでしょう。

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