光源と物体の色のおはなし
光源色と物体色
私たちが色を見ることができるのは、光源を見ているときか、光で照らし出された物体を見ているときです。
光源色
光源の色は、光源から出た光を直接眼でとらえますから、光源が決まれば、眼で見える色が決まります。例えば波長590 nmの光を出すナトリウム灯はオレンジ色に見えます。
光の三原色を利用した光源は赤色光・緑色光・青色光を混ぜ合わせることによって色光を作ります。3色を均等に混ぜ合わせると白色光となりますが、混ぜ合わせる割合や明るさを変えると様々な色光を作ることができます。赤色光と青色光を混ぜたときにできる赤紫色光(マゼンタの光)は太陽光を分光したときに得られる単色光には存在しない色の光です。
次の図は液晶ディスプレイのカラー表示の仕組みを示したものです。カラー液晶ディスプレイは光の三原色で実にさまざまな色を作り出しています。液晶ディスプレイ上に表示されているバナナの黄色は赤色光と緑色光を混ぜ合わせて作られた黄色です。
光源の色は光を混ぜ合わせて作るため加法混色といいます。
物体色
物体の色は、光源から物体に届く光のうち、物体に吸収せれずに反射した光で決まります。次の図は光源を太陽とした場合のリンゴとバナナの反射スペクトルを示したものです。
赤いリンゴは太陽光に含まれる青緑系の波長の光を吸収し、太陽光から青緑系の光を欠いた光を反射します。その反射光が私たちには赤く見えるのです。同様に、黄色いバナナは太陽光に含まれる青系の波長の光を吸収し、太陽光から青系の光を欠いた光を反射します。その反射光が黄色く見えます。物体の色は光源の光から物体が吸収する光を減じたものであるため減法混色といいます。
赤いリンゴに青緑系の光を当てると、反射する光がありませんからリンゴは黒っぽく見えます。また、黄色いバナナに青色系の光を当てると、同じ理由で黒っぽく見えます。このように、多くの物体の色は「光源の光」と「物体が吸収・反射する光」で決まります。赤いリンゴや黄色いバナナは、昼間の太陽光のもとでは赤色や黄色ですが、光源が変われば見える色も変わります。私たちは普段何も気にすることなく「リンゴは赤色」「バナナは黄色」としていますが、暗黙の了解で光源を昼間の太陽としているのです。
またナトリウムランプの黄色、液晶ディスプレイに表示されたバナナの黄色、物体のバナナの黄色は光の成分がまったく異なることがわかります。
色の基準となる光は太陽光
私たちの視覚は太陽のもとで発達してきました。ですから、太陽光は人間にとって最も自然で理想的な光であり、太陽は私たちが見ている色の基準となる光源です。
太陽から地球にやってくる電磁波は地球の大気で散乱・吸収されます。例えば、人体に有害なガンマ線やエックス線は大気で吸収され、ほとんど地表に届きません。紫外線・赤外線も、その一部しか地表に届きません。可視光線は大気で散乱・吸収されますが、すべての波長領域の光が地表に届きます。このように大気は太陽光に対してフィルターのような働きをしています。多くの生物の視覚は主に大気のフィルターを通り抜けてきた可視光線に適応しながら進化してきたのです。
物体色
物体の色は物体を照らし出す光によって違って見えます。太陽光、白熱電灯、蛍光灯のもとでは、同じ色もわずかに違って見えます。色を厳密に定義するためには、光源を特定する必要があります。そこで、私たち人間の視覚にとって理想的な太陽光をもとに標準の光が定められています。その中でも色を定義する光として、D65が基準とされています。D65は紫外線を含む昼間の太陽光で照らされた物体の色を測定するために用いられる標準の光です。D65に紫外線が含まれているのは、紫外線が当たると蛍光を発する物体があるからです。現在、D65の標準の光を忠実に再現する光源はありませんが、D65の標準の光に近い光源が標準光源として使われています。
白色光はどんな光
白色光はよく「可視光領域の波長の光をすべて含んだ光」「無色の光」などと定義されます。また、物理的にはすべての波長の電磁波を同じ強さで含む光と定義されることもあります。しかし、物体の色について考える場合、昼間の太陽光とほぼ同じように物体の色を再現できる光を白色光としてよいでしょう。
太陽光は理想的な白色光ですが、実際には黄色い光をたくさん含んでいます。白熱電灯も黄色い光をたくさん含む白色光です。三波長形蛍光灯は赤・緑・青の光を混合した白色光を出しています。一般的な白色LEDは、青色の光を蛍光物質に当てることによって黄色い光を発光させ、青色と黄色の光を混合した白色光を出しています。
これらの電灯は、さまざまな波長の可視光線を均等に含んだ光を出しているわけではありませんし、それぞれ光の成分は異なります。しかし、物体の色を再現するという点においては、私たちが日常使う電灯が出している光は白色光と呼んで差し支えありません。
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