透明人間現る 透明人間になるおはなし(1)
透明人間 現る
ある寒い日の朝、イギリスの片田舎の村の宿屋に一人の怪しい男がやってきた。
その男は部屋にたくさんの薬のびんを持ち込んで閉じこもり、化学実験を始めた。男は、怪我をしているわけでもないのに頭から顔まで包帯でぐるぐる巻きした怪人のような出で立ちをしていた。
やがて、男の気味の悪い姿と行動に、村の人々がお前は何者かと追求すると、その男は頭から包帯を外し、自分の正体を明かした。そこには、顔の部分に何もない首なしの男が立ちつくしていた。
なんと、男は実験で体を透明にする薬を発明した、透明人間だったのである。
これはイギリスのSF作家ハーバート・ジョージ・ウェルズが1897年に出版した「透明人間」という小説の中の話です。
体が透明な生物は実在する
体を透明にするのは小説の中の話と思われるかもしれませんが、生物の中には透明に近い体をもつものもいます。例えばトランスルーセントグラスキャットフィッシュという淡水魚は色素がない透明な体をしていて透けて見えます。
Indischer Glaswels - Glass Catfish
その他、このブログで透明なカエルや頭部だけが透明な魚を紹介してありますので、参照してみてください。
私たちの体にも透明な部分はある
私たち人間にも透明な部分はあります。それは眼の中でレンズの働きをしている水晶体です。水晶体はクリスタリンという透明なタンパク質でできています。次の写真はマダラの水晶体です。

水晶体が透明なのは、光を目の中に取り入れるためですが、目の中に入った光は網膜上に像を結びます。 もし、網膜が透明だとすると、光は網膜を通り抜けてしまうので、ものが見えなくなってしまいます。
また、網膜だけが不透明でも駄目でしょう。明るいところで映画を見ているのと同じ状態にです。まわりからの光がたくさん入るため、余計な光の影響でものが見えなくなります。
ですから、SFの小説やF映画などに出てくる透明人間には、目の部分が透明ではないように描写されているものも多いです。
透明人間にはなれないが、見えない人間にはなれる
私たちが透明人間になるためには、私たちの体を作るすべての物質を透明にする必要があります。
実際のところ、体を透明に変える方法で透明人間になるのは不可能です。ですから、透明人間になろうとするならば、まわりから体そのものを見えなくしたり、体を透けて見えるようにしたりするなどの工夫をするしかありません。
幸いウェルズの小説の原題はInvisible Man 、つまり「見えない人間」です。私たちは物体に当たって反射する光や物体が発する光でものを見ています。ですから、物体からやってくる光をうまくコントロールすることができれば「見えない人間」は実現できそうです。
このように物体からやってくる光を何らかの方法でコントロールして、物体を視覚的に透明にする技術を光学迷彩といいます。光学迷彩はSFでよく使われる言葉ですが、実用化に向けての研究・開発が進められています。どのような工夫があるか考えてみましょう。
- 透明人間現る 透明人間になるおはなし(1)
- まわりの景色と同化する 透明人間になるおはなし(2)
- 物体の表面に背景を投影する 透明人間になるおはなし(3)
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