「光の三原色」と「色の三原色」の原理と仕組み|色が見える仕組み(7)
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はじめに
これまで説明してき色が見える仕組み(この記事の一番下にある【関連記事】参照)と「光の三原色」と「色の三原色」には密接な関係があります説明します。ここでは「光の三原色」と「色の三原色」の原理と仕組みについて説明しましょう。
よく光の色は波長によって異なるという説明を聞きます。これは間違いではありませんが、色は、光が持つ普遍的な性質ではなく、私たちが色覚で認識しているものです。たった三色で、さまざまな色を作ることができるのは、私たちの色覚の仕組みと深く関係しています。
ヒトの眼の網膜には赤色光、緑色光、青色光を感じる赤錐体(L錐体)・緑錐体(M錐体)・青錐体(S錐体)とよばれる3種類の細胞が存在します。この3種類の錐体はそれぞれ約560 nm、約530 nm、約430 nmを中心にある程度の幅をもつ波長範囲の光を感じることができます。3種類の錐体細胞の刺激の大きさは眼に入る光によって変化します。それぞれの錐体細胞が受けた刺激が視神経を通って脳に送られます。脳は3種類の錐体細胞が受け取った刺激の割合から色を認識します。
この記事をこのページから読んだ方は、この記事の一番下にある【関連記事】の(1)〜(6)をご一読ください。
「光の三原色」と「色の三原色」
光の三原色は赤(R:レッド)・緑(G:グリーン)・青(B:ブルー)、色の三原色は青緑(C:シアン)、赤紫(M:マゼンタ)、黄(Y:イエロー)です。次の図は光の三原色と色の三原色を重ねると何色になるかを示した図です。
この三色を混ぜ合わせると、ほとんどの色をつくり出すことができます。
光の三原色と色の三原色は色が違うだけのように見えますが、その意味は大きく異なります。光の三原色と色の三原色の違いについて、基本的な原理から考えてみましょう。
光の三原色
光の三原色は色光の混合です。次の図のように真っ暗な部屋の中で白地のスクリーンに赤・緑・青の光を当てたときの様子を示したものが光の三原色の図です。赤・緑・青の光源でさまざまな色をつくります。光の三原色の身近な応用例はカラーテレビや蛍光灯などです。
【参考】液晶ディスプレイのカラー表示のしくみ|液晶ディスプレイの仕組み(3)
よく白地に光の三原色が描かれた図を見かけますが、これは白色光の元で光の三原色の混色をしていることになりますので、正し表現とは言えません。光に三原色の背景は黒にするべきでしょう。
色の三原色
色の三原色は絵の具などの色材の混合です。次の図のように、白地のキャンバスの上で白色光に照らされたシアン・マゼンタ・イエローの色材を混ぜた様子を示したものが色の3原色の図です。色の三原色の身近な応用例はカラー写真やインクジェットプリタなどです。
色の三原色は白色光で照らされた時の物体に色ですから、色の三原色の背景は白色で正しいのです。
色の三原色は青・赤・黄であると説明している例もありますが、正しくはシアン・マゼンダ・イエローです。シアン・マゼンダ・イエローは日本語で表現するとそれぞれ青緑(実際には水色に近い青緑)、赤紫、黄になります。
日本人は昔から青と緑を明確に区別する文化をもっておらず、緑のことを青と呼ぶことが多かったという背景があります。赤紫と赤の区別もしっかりできていたかもわかりません。青緑を青、赤紫を赤と表現すると、色の三原色は青・赤・黄となります。
また、原色の赤・青・黄を色の三原色としている例もあります。絵画の分野では、昔から赤・青・黄の絵具の混色で、さまざまな色を作り出しています。そもそもマゼンタという顔料が使えるようになったのは1859年以降のことです。シアンの元になったプルシアンブルーという顔料が作られるようになったのは1704年以降です。小学校の美術の学習では、シアン・マゼンタ・イエローでは理解が難しいためか、赤・青・緑の絵具の混色で色の三原色を説明をしています。インクジェットプリンタが発売されるようになってから、色の三原色はシアン・マゼンタ・イエローと再認識した人も多いのではないでしょうか。
光の色は光の足し算
赤と緑の波長の光を混合すると、黄色い波長の光が含まれていなくても、黄色に見える光ができます。たくさんの波長の光を混合していくと、光の波長の種類と量が増え、光は次第に明るくなり、ついには白色光になります。このように光の足し算で色をつくることを加法混色といいます。
赤・緑・青の光の三原色を任意の割合で混ぜると、ほとんどの色をつくることが可能です。
W=R+G+B C=G+B M=R+B Y=R+G
R:赤 G:緑 B:青 C:シアン M:マゼンタ Y:イエロー W:白
次の写真は赤・緑・青のLEDの光で混色で作った色です。
加法混色には、異なる色光を重ねて色をつくる同時加法混色、色分けされた円盤を回転したときのように時間の経過とともに目に入る色光を変えて色をつくる継時加法混色、細かい色の点をモザイク状に敷き詰めて色をつくる並置加法混色があります。
物体の色は光の引き算
次に絵の具などの色材の混合について考えましょう。いろいろな色の絵の具を混ぜると黒ずんでいくのは、絵の具が光の吸収体だからです。絵の具を混ぜて別の色をつくるということは、吸収される光が増えてゆき、絵の具で反射して私たちの目に届く光の波長の種類と量が減るということです。このように、光の引き算で色をつくることを減法混色といいます。シアン・マゼンタ・イエローの3色で、ほとんどの色をつくり出すことができます。
補色とは
光の三原色と色の三原色を使うと、さまざまな色が作れますが、私たちが目で見ている色を再現できると言った方が的を射ているでしょう。
ところで、特定の2つの色光を混ぜると白色光となり、特定の2つの色材を混ぜると灰色になります。このような組み合わせを補色といいます。
光の三原色と色の三原色の補色の組み合わせは、赤とシアン、緑とマゼンタ、青とイエローです。例えば、青とイエローの光を混ぜると白色になるのは、青色光が青錐体を刺激し、黄色光が赤錐体と緑錐体を刺激するからです。青とイエローの色材を混ぜると白色にならずに灰色となるのは、色材が光の吸収体だからです。下地の白い紙よりは暗くなるということです。光と色の3原色はお互いに補色の関係になっています。
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コメント
背景が黒で3つの投光器で重なり合った絵の真ん中がK(黒)同時加法混色とありますがW(白)ではありませんか。
よろしくお願いいたします。
投稿: | 2021年7月30日 (金) 05時57分
ご指摘ありがとうございます。
KをWに修正させていただきました。
投稿: photon | 2021年7月30日 (金) 17時59分
良かったです
投稿: | 2021年9月22日 (水) 19時08分
good
投稿: | 2022年4月15日 (金) 20時13分
とても参考になりました。
投稿: かすがいどうふ | 2022年5月 3日 (火) 01時46分
背景が黒で3つの投光器で重なり合った絵の真ん中がK(黒)同時加法混色とありますがW(白)ではありませんか。
よろしくお願いいたします。
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の件、画像はまだ直っていません。KではなくてWだと思います。
投稿: White Love | 2024年8月 1日 (木) 06時22分
ご指摘ありがとうございます。
図が2つあったようで最初の図しか修正しておりませんでした。後の方の図も修正しました。
投稿: photon | 2024年8月 3日 (土) 16時33分