マイケル・ファラデーによる電磁誘導の発見(3)
電気力と磁気力はどのように伝わるのか
ファラデーが電磁誘導を発見した当時、多くの科学者たちは、電磁相互作用における電気力や磁気力は遠隔作用によって働く力であると考えていました。遠隔作用とは、空間を隔てた物体と物体の間に働く力が、物体間の空間に変化も及ぼすことはなく直接的かつ瞬間的に伝わる作用のことです。たとえば、ニュートンが発見した万有引力なども遠隔作用で伝わると考えられていました。
しかし、ファラデーは、電気力線や磁気力線という概念を用いて、電気力や磁気力は近接作用で働く力であると唱えました。近接作用は、物体と物体の間に働く力が、物体間に存在する媒質の変化を介して間接的かつ有限の速さで伝わる作用のことです。
電磁誘導の実験結果から、電界の変化が磁界の変化を生じ、磁界の変化が電界の変化を生じることを明らかにした彼は、電気や磁気は媒質を伝わって周囲に影響を及ぼすと考え、1837年に電磁場の近接作用を唱え、遠隔作用を否定したのです。
光と電磁気には関係があるのか
ファラデーは当時の研究論文で、『物質のいろいろな「力」の現象は、ひとつの共通の起源をもつ』、『物質のいろいろな「力」の現象は、お互いに関係・依存しあっているため、相互に変換でき、その作用の大きさは等しい』と述べています。彼が言うところの「力」は、現在の科学用語で言えばエネルギーのことです。つまり、彼はエネルギー保存の法則に言及していたのです。そして、彼は、さまざまな「力」の現象の関係を解き明かすことができるのではないかと考えていたのです。
ファラデーが活躍していた頃、光の正体は波であることがわかっていました。光が波であるならば、光も近接作用で伝わることになります。彼は、電気と磁気が相互作用するように、光も電気や磁気と相互作用するのではないかと考え、光と電磁気の関係を調べる研究に取り組みました。
当時、光は進行方向と垂直な方向に振動する横波であることが知られていました。太陽や電灯などの普通の光を自然光といいますが、自然光にはさまざまな面で振動する光の波が均等に含まれています。
自然光が、ガラスや水面で反射したり、方解石の結晶や偏光板を透過したりすると、光が偏光してひとつの平面でしか振動しなくなります。次の図は自然光を偏光板に通したときの様子を示したものです。
ファラデーは光と電磁気の関係を調べるうえで、光の偏光に着目しました。そして、偏光に電気をかけると、光の振動面が変化して、光の波がねじ曲げられるかどうかを確認する実験を行いました。
彼の実験装置は、両端に電極を取り付けた細長い入れ物に導電性の溶液を入れ、電極を電池に接続したものでした。そして、光をガラス板で反射させることによって作った偏光を、電気が流れている溶液に通し、偏光の振動面が次の図のように回転するかどうかを確認しました。
彼は電気を連続的に流したり、断続的に流したりして、電界の状態を変化させてみました。また、光を通す溶液を変えたり、電流と光の向きを変えたりするなど、条件をいろいろと変えて実験を行いました。しかし、彼の予想に反して、電界が光に影響を与えることを示す結果は得られなかったのです。
磁気と光の関係を調べる
光と電気の関係を見いだすことができなかったファラデーは、次に光と磁気の関係を調べることにしました。
彼は強力な電磁石のN極とS極の間に偏光を通し、磁界が偏光の振動面を回転させるかどうかを確認しました。しかし、電界の場合と同様に、磁界が光に影響を与えることを示す結果は得られませんでした。
そこで、彼は電極の間に光学実験用の鉛ガラスを置き、鉛ガラスに偏光を通してみました。すると、電磁石のスイッチをオンにして電流を流すと、偏光の振動面が回転することがわかったのです。電磁石のスイッチを切ると、偏光の振動面が元に戻りました。彼は、磁界が偏光の振動面を回転させることを発見したのです。
彼は鉛ガラスの他にも透明な材料を使って同じ実験を行いました。すると、材料によって程度は異なるものの、磁界の強さを大きくすると、偏光の振動面の回転の度合いが大きくなることを発見しました。また、電磁石の磁極を逆にすると、偏光の振動面が回転する方向も逆向きになることを発見しました。
このようにして、ファラデーは光と磁気の間に関係があることを突き止めました。1845年のことでした。この現象はファラデー効果と呼ばれています。
ファラデーの一連の実験によって、光と磁気の間に関係があり、そして、磁気と電気の間に関係があることがわかりました。彼は、1846年に「光線振動の考察」という論文にまとめ、光が電磁波であることを予見しています。光が電磁波であることを理論的にまとめる仕事は、イギリスの物理学者ジェームス・クラーク・マクスウェルが引き継ぐことになったのです。
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