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2012年3月17日 (土)

波はどのように伝わるのか エーテルのお話(1)

波の伝播には媒質が必要

 静かな水の上に石を落とすと、波紋が広がっていきます。このとき、水面に木の葉を浮かべると、木の葉はその場で揺れているだけです。すなわち、波を伝える媒質である水は、波と一緒に移動するわけではありません。

 次の映像は川の水面の波の様子を撮影したものです。水面に浮いているものが波と一緒に移動していないことがわかります。

 ギターの弦を弾くと、弦が振動して音が出ます。また、太鼓を叩くと、太鼓の皮が振動して音が出ます。ギターの弦や太鼓の皮から出るのは音波です。このように音が出ているものは振動しています。ものが振動すると、ものの周りにある空気に圧力の変化が生じて、その圧力の変化が空気を伝わっていきます。これが音波です。

 実際に音波が伝わる様子を太鼓を例に考えてみましょう。太鼓の皮が振動して、空気が押されたとき、空気は縮められて密となり、圧力が高くなります。空気が引かれたとき、空気は粗くなり、圧力が低くなります。そして、ものの振動が空気の振動として、空気中を伝わっていきます。その空気の振動、つまり音波が耳の奥にある鼓膜を振動させると、音が聞こえます。

Photo_2

 さて、音は真空中では聞こえませんが、これは媒質となる空気がないため、音波が伝わらないからです。次の図のように、アラーム音が鳴っている時計とワイヤレスマイクを容器に入れます。 容器の外側にはワイヤレスマイクの音を受信するためのラジオを置きます。容器中に空気が満たされているとき、アラーム音は容器中の空気の振動をさせてワイヤレスマイクに伝わります。Photo そのため、ラジオからアラーム音が聞こえます。容器中の空気を真空ポンプで抜いていくと、アラーム音が小さくなり、やがて聞こえなくなります。容器中の空気が少なくなると、アラーム音の振動が伝わりにくくなります。空気がまったくない真空になると、振動を伝えるものがなくなるのでアラーム音が聞こえなくなります。ですから、空気がない宇宙空間では、音は伝わりません。

 このように波が伝わるためには、媒質が必要となります。媒質が振動して波の形を作り、波を伝えていきます。

光の波は何を伝わるのか

 19世紀のはじめにトマス・ヤングが行った光の干渉の実験で、光の正体は波であることが示されました。その後も、オーギュスタン・ジャン・フレネルの偏光の実験など、光が波であること示す実験結果がたくさん出てきました。

 夜空の星が輝いて見えることからもわかるとおり、光は宇宙の遙か彼方から伝わってきます。光は真空中も平気で伝わることができるのです。波が伝わるには媒質が必要なはずです。いったい光の波は何を媒質として空間を伝わるのでしょうか。

 古くから科学者たちは、空間は光の波を伝える媒質となるもので満たされていると考えていました。そして、その媒質となるもののことをエーテルと名付けました。エーテルの語源はギリシャ語のアイテールで、古代ギリシャのアリストテレスはアイテールは天空を満たす元素であり、天体が円運動するのはエーテルの回転によるものと考えました。

 物理学にエーテルの概念を導入したのは、フランスの自然哲学者デカルトです。彼は1644年の著作「哲学原理」で、宇宙は無限の広さをもち、真空の空間は存在しないと述べています。そして、宇宙空間はエーテルの微粒子で満ちあふれ、エーテルが渦のように動いているため、天体が回転運動をしているのだという渦動説を唱えました。たとえば、惑星が太陽のまわりを同一平面上で同じ方向に回転運動するのは、エーテルが、水面に生じた渦のように、太陽を中心に渦を巻いて回転しているからだと説きました。

 デカルトは渦動説を物体の運動についても適用しています。たとえば、物体が落下は、渦が生じた水面に浮かべた木片が渦の中心に引き込まれる現象と同じであると考え、物体の落下は地球を中心としたエーテルの渦の動きによるものと説いています。

 このように、デカルトは、物体の運動を空間を満たすエーテルによる近接作用で説明しようと試みました。そして、物体の移動だけではなく、力や光もエーテルを媒質して伝わると考えました。デカルトの渦動説は誤った理論でしたが、力や光が遠隔作用ではなく、近接作用で伝わるという考えは的を射ていたと言えるでしょう。

 デカルトの説はその後も多くの科学者によって支持されました。たとえば、光の波動説を主張したホイヘンスも光を伝える媒質はエーテルであるとしています。

波が媒質を伝わる速さ

 一般に波が伝わる速さは媒質の弾性が大きいほど、大きくなります。弾性というのは、物質に力を加えて変形させたときに、元の形に戻る性質のことをいいます。

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物質に力を加えて変形させるということは、物質を構成する原子や分子などの粒子の結合を変形させようとすることです。ですから、弾性の大きい物質は物質を構成する粒子の結合が強く、力を加えて変形しても元の形にすぐ戻りやすいことになります。弾性というとゴムなどを思い出すかもしれませんが、弾性そのものはガラスや金属の方が大きいのです。

 波は媒質の変形が伝わっていくので、弾性の大きい媒質の方が速く伝わります。ですから、たとえば、音波は空気中よりも液体中の方が、液体中よりも固体中の方が、同じ固体では、より弾性の大きい硬い固体中の方が速く伝わります。

 また、波は媒質の慣性が大きいほど伝わりにくいという性質があります。これは、物質に力を加えて動かそうとするとき、質量が大きな物質ほど動かしにくいのと同じです。媒質を構成する粒子の質量が大きいほど、粒子が変形しにくくなるので、波が伝わりにくくなります。

 このことから、波の速さは媒質の弾性の性質が大きいほど、また、媒質を構成する粒子の質量が小さいほど大きいということになります。

 これを光の波とエーテルとの関係にあてはめてみましょう。光速は非常に大きな値ですから、エーテルの弾性はものすごく大きいことになります。また、エーテルの質量は非常に小さいことになります。これをひとことで言うと、エーテルは硬くて希薄であるということになります。弾性の大きいエーテルが掴み所のないほど希薄であるはずがありません。

 光の波はフレネルなどによる方解石による複屈折の研究によって、縦波ではなく、横波であることがわかりました。光が横波であることは、光速とエーテルの関係の矛盾をさらに浮き彫りにしました。

 横波は波の進行方向に対して媒質が垂直に振動し、その垂直の振動が波の進行方向に伝わっていく現象です。物質の変形が、変形の方向に直角に伝わっていくためには、媒質を構成する粒子同士の結びつきが強くなければなりません。ですから、粒子同士の結びつきが弱い気体や液体は、横波を伝えることはできません。そのため、一般に横波を伝える媒質は固体となります。つまり、横波である光を伝えるエーテは固体のようにエーテル同士が強く結びついていなければなりません。しかし、空間が固体のようなエーテルで満たされているという結論は受け入れがたいものです。

 フレネルはこのようなことから、エーテルはデカルトのように流動的なものではなく、固定的なものであると考えました。このフレネルの固定的なエーテルの考えは多くの学者に支持されました。エーテルが固定的なものであえば、エーテルを基準とした空間の絶対座標を知ることができると考えられるようになりました。

 19世紀、エーテルは発見されていませんでしたが、光が波である以上、光の波を伝える媒質は必ず存在すると考えられていまいた。科学・技術が発展すれば、そのうちエーテルを発見することができるだろうというのが、当時の科学者たちの常識でした。

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