光電効果 光の正体は何か
1880年代の後半、電磁波の研究をしていたドイツの物理学者ハインリヒ・ヘルツは、紫外線を電磁波の発信装置に当てると、電磁波が強くなる現象に気がつきました。この現象がきっかけとなり、彼は1887年に金属に紫外線を当てると、放電が起こりやすくなることを発見しました。その翌年の1888年、ドイツの物理学者ウィルヘルム・ハルバックスは帯電した金属に紫外線を当てると、帯電が失われることを発見しました。その後、これらの現象は、ドイツの物理学者フィリップ・レーナルトによって詳しく調べられました。そして、彼は金属に紫外線を当てると、金属から電子が飛び出してくることを見い出しました。
彼らが発見した現象を光電効果といいます。光電効果は金属に紫外線などの短い波長の光を当てると、金属内の電子が外へ飛び出す現象です。このとき、電子は光からエネルギーをもらい金属から飛び出してくるのですが、電子が金属の外へ飛び出すには、ある大きさのエネルギーが必要になります。
レナールトは光電効果について詳しく調べ、次のような興味深い現象を見つけました。
- ある波長より短い光を当てると、電子は光を当てたとたんに金属から飛び出してくる
- ある波長より長い波長の光では、光の明るさをいくら強くしても電子は飛び出してこない
- 電子が飛び出す波長の光では、電子のエネルギーは、あてる光の波長が短いほど大きくなる
- 電子が飛び出す波長の光では、光の明るさを変えても電子のエネルギーは変わらない
- 電子が飛び出す波長の光では、光の明るさを変えると飛び出してくる電子の個数が増加する。
これらの現象は、それまで主流であった光の波動説では説明することができませんでした。
波動説の立場では、いかなる波長の光でも、明るさを強くするか、あるいは十分に時間をかければ、電子はエネルギーを蓄積して、金属の外へ飛び出してこなければなりません。ところが、現実は予想に反して1や2の現象を示しました。
また、波動説では、電子が飛び出す波長の光でも、光の明るさを強くすれば、光全体としてのエネルギーは大きくなるはずですから、飛び出す電子のエネルギーも大きくなるはずです。しかし、結果は3~5のようになりました。
これらの現象は光を波とすると説明がつかないのですが、その一方で波の性質を示す光に、多くの物理学者が頭を悩ませました。
光電効果の不思議な現象を正しく説明したのは、相対性理論で有名なアインシュタインです。彼は1905年に「光は振動数(波長)に比例したエネルギーをもつ粒子(光量子または光子)である」という光量子仮説を発表し、光の正体を解き明かしました。
彼は光が弾丸のような粒子だったら、光がぶつかったとたんに電子が飛び出るという1の現象が成り立つと考えました。また、彼は、光は振動数に応じたエネルギーをもつ粒子であるため、光の明るさを強くしても光子1個あたりのエネルギーは変わらないと考え、2、3、4の現象を説明しました。さらに光の明るさが強くなるということは、光子の数が増えることであると考え、5の現象を説明したのです。
アインシュタインが、光が粒子の性質と波の性質をあわせ持った光子であると見事に結論づけたことによって、光の波動説と粒子説の論争に終止符が打たれることになったのです。
アインシュタインは光量子仮説によって1921年にノーベル賞を受賞しています。 次の写真は彼のノーベル賞受賞の記念切手です。光電効果の仕組みが図で示されています。
下部の黒い横棒が金属の表面で、ここに様々な波長の光が当たっていることが、虹の色で示されています。そして、●が金属表面から飛び出してくる電子で、電子のエネルギーの大きさは矢印の長さで示されています。
赤色の光は波長が長くて(振動数が小さくて)エネルギーが低く、青色の光は波長が短くて(振動数が大きくて)エネルギー高いのですから、エネルギーの低い赤色の光では電子は飛び出してこない、青い色の方にいくほど、飛び出してくる電子のエネルギーが大きくなるということを示しています。
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