色の変わるサングラスの仕組み (調光レンズの仕組み)
光で色の濃さが変わる調光サングラス
暗いところでは透明で、明るいところでは色がつくメガネを調光サングラスといいます。調光サングラスに使われているレンズを調光レンズといいますが、調光レンズはまわりの明るさによって色の濃さが変化するプラスチックやガラスでできたレンズです。ガラス製にしろ、プラスチック製にしろ、調光レンズの色の濃さが変わるのは紫外線の働きによるものですが、その仕組みは異なります。
ガラス製調光レンズは1964年に米国のガラス・セラミックス製品メーカーのコーニング社によって開発されました。コーニング社は1879年にトーマス・エジソンが発明した電球に用いるガラス容器を開発し、1915年に理科の実験器具用ガラスでおなじみの耐熱ガラスパイレックスを開発した会社です。
ガラス製調光レンズには銀と塩素などのハロゲン元素が加えられています。調光レンズの素材となるガラスを製造するときに、ガラスに酸化銀とハロゲン化アルカリ(アルカリ金属のハロゲン化物)を加えて熔融します。これを再加熱すると酸化銀とハロゲン化アルカリが反応し、ガラス内に均一にハロゲン化銀ができます。ハロゲン化銀は無色透明のため、レンズに色はつきません。ところが、レンズに紫外線が当たると、ハロゲン化銀が紫外線のエネルギーで銀とハロゲンに分解します。銀は可視光線を通さないのでレンズ全体が黒っぽくなります。
ハロゲン化銀(無色) → 銀(黒)+ハロゲン
レンズの一部を覆って光を当てると、次の写真のように光を当てた部分だけが黒くなります。
紫外線を遮断すると、銀とハロゲンがガラス内で再び結合してハロゲン化銀となり、レンズは無色透明に戻ります。なお、ハロゲン化アルカリはガラスに混ぜられているため、特に度の強い近視用や遠視用の凹レンズや凸レンズでは、中心部と周辺部で厚さが異なるため色の濃さに差が生じます。

凸レンズと凹レンズ
このように光のエネルギーによって起こる化学反応を光化学反応といいます。ガラス製調光レンズは、ハロゲン化銀が無色から黒色になり、そして無色に戻る光化学反応を利用しています。この光化学反応の速度は速くありません。ガラス製調光レンズに紫外線が当たって着色するまでには数分以上要します。また、退色してもとの無色透明になるまでに数分から数十分ほどかかります。また、この化学反応は温度の影響を受けます。温度が高いとハロゲン化銀の分解と、銀とハロゲンの結合の反応速度が速くなるため、冬よりも夏の方が色がついたり消えたりする時間が短くなります。
プラスチック製調光レンズ
世界で初めて販売されたプラスチック製調光レンズは1982年に米国のアメリカン・オプティカル社が販売したPhotoliteという製品です。しかし、世界で最も有名なものは1991年に米国のトランジション・オプティカル社が開発、販売したTransitionsという製品です。
プラスチック製調光レンズにはハロゲン化アルカリは使われていませんが、やはり紫外線を当てると色が変化する感光物質が使われています。例えば、スピロオキサジンという感光物質は無色ですが、紫外線を当てるとメトロシアニンと呼ばれる構造に変化し、青色となります。紫外線を遮断すると、無色のスピロオキサジンに戻ります。
初期のプラスチック製調光レンズはプラスチック素材に感光物質が混ぜられていました。そのため、ガラス製調光レンズと同様に、特に度の強いレンズでは色の濃さにムラが出ました。現在は、レンズの表面に感光物質をコーティングする方法で作られています。この方法ではレンズの中心部と周辺部で色の濃度差は生じませんが、レンズの表面に深い傷がついたり、コーティングがはがれたりすると、その部分が発色しなくなります。
プラスチック製調光レンズの光化学反応は感光物質の構造変化によるもので、その反応速度は迅速です。紫外線を数十秒ほど当てると着色し、紫外線を遮断すると数分で退色します。また、この光化学反応は温度の影響を受けます。温度が低いほど速く着色し、退色に要する時間が長くなります。逆に温度が高いと、着色に要する時間が長くなり、退色に要する時間が短くなります。
ガラス製にしろ、プラスチック製にしろ調光レンズは紫外線で色が変わるのですから、日差しが強くても紫外線が届かないところでは着色しません。例えば、天気の良い日に自動車を運転する場合、サングラスを使うことがあると思いますが、このとき調光サングラスはあまり役に立たないかもしれません。最近の自動車の窓ガラスは紫外線を通さないガラスでできているからです。
調光レンズはフォトクロミズム
調光レンズのことをフォトクロミックレンズともいいます。フォトクロミックは英語で「光で発色する」という意味です。そして、調光レンズのように光の作用によって物質の色が可逆的に変化する現象をフォトクロミズムといいます。このフォトクロミズムという現象は1867年にJ.フリッチェが報告しています。彼はテトラセン(ナフタセン)という淡黄色の芳香族化合物が光を照射すると無色になり、加熱するともとの色に戻ることを論文に報告しています。

テトラセン(ナフタセン)のフォトクロミズム
その後、多くの分子がフォトクロミズムを起こすことがわかり、光で発色する物質の研究とその利用が進んでいます。
フォトクロミズムを生じる物質は、光で分子の構造を可逆的に変化させることができるため、光による分子のスイッチや、光ディスクなどの記憶媒体の利用の研究が盛んに行われています。
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