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2011年12月31日 (土)

コンタクトレンズの仕組み

コンタクトレンズを発明した人

 レオナルド・ダ・ヴィンチが1508年にまとめた眼に関する古い写本に、水が入った底が丸い透明な器に顔をつけて、器越しにものを見るとものの見え方が変わると書いてあります。ダ・ヴィンチはこの方法で角膜の力を強めることができると述べています。つまり、ダ・ヴィンチは、角膜の屈折力を改善させて視力を矯正する方法を考えついたことになります。このことから、一般的に、コンタクトレンズの原理を発明したのはダ・ヴィンチであると考えられています。しかし、当時ダ・ヴィンチの興味は眼の仕組みそのものに注がれていたようで、この方法を視力矯正に応用することまでは考えていなかったようです。

ダ・ヴィンチが考えた視力の矯正
ダ・ヴィンチが考えた視力の矯正

 1636年、フランスのルネ・デカルトは視力を改善する方法として、両端が球形状のガラス管に水を満たして、眼をガラス管の片方の端に接してのぞく方法を提案しました。デカルトはこの道具で視力を調べたようですが、まばたきすることができないため、視力を矯正する道具としては実用的ではありませんでした。しかし、コンタクトレンズの原形を考えたのはルネ・デカルトと考えることはできるでしょう。

デカルトの考えた視力の矯正
デカルトの考えた視力の矯正

 現在使われている目に装着するタイプのコンタクトレンズのアイデアは1820年代にイギリスのジョン・ハーシェルによって目を保護するためのものとして提案されました。ジョン・ハーシェルは天王星および赤外線を発見したウィリアム・ハーシェルの息子です(ココログ 光と色と「分光分析の幕開け(3)-赤外線の発見」)。

 世界で初めて視力矯正のためのコンタクトレンズを作ったのはスイスのオーゲン・フィックです。フィックは1887年に兎の眼からとった石膏の型で作ったコンタクトレンズを製作し、Ein kontactbrille(接触する眼鏡)という題名の本で発表しました。このkontactbrilleがコンタクトレンズの語源です。しかし、フィックのコンタクトレンズは重たくて目の負担が大きく短時間しか装着できませんでした。

 1889年、ドイツのアウグスト・ミューラーは吹きガラスからコンタクトレンズを作成する方法について修士論文にまとめています。ミュラーのコンタクトレンズは軽量でしたが30分ぐらいしか装着することはできませんでした。ミュラーはコンタクトレンズのフィット感、涙による湿潤、角膜のカーブに合わせた形状などのアイデアを出し、後のコンタクトレンズの開発の基礎を築きました。

 初期のコンタクトレンズはガラスで作られていました。ガラス製コンタクトレンズは、加工が難しい、割れる危険性がある、着け心地が悪い、眼が充血して長時間使用することができないなどの欠点があり、ほとんど普及しませんでした。

ハードコンタクトレンズ

 コンタクトレンズが広く使われるようになったきっかけは、化学工業の発展によって生まれた新しい材料であるプラスチックが作りました。1940年代にポリメチルメタクリラート(PMMA)という透明度が高く、硬くて加工しやすいプラスチックが開発され、プラスチック製のコンタクトレンズを作られるようになったのです。PMMAで作られるコンタクトレンズをハードコンタクトレンズといいます。

ハードコンタクトレンズの材料・ポリメチルメタクリラート(PMMA)の構造
ハードコンタクトレンズの材料
ポリメチルメタクリラート(PMMA)の構造

 ハードコンタクトレンズはPMMAの性質から酸素透過性がほとんどありません。眼の角膜を作る細胞は血管をもたないため、涙から酸素を取り込む必要があります。角膜がハードコンタクトレンズで覆われると、細胞は酸素を取り込むことができません。そのため、ハードコンタクトレンズは眼に与える負担が大きく、長時間装着することができません。

 プラスチックはその構造の中にケイ素やフッ素などの元素を入れると酸素透過性が高くなります。そこで、PMMAの構造の一部をケイ素やフッ素を含む形に置き換えた酸素透過性プラスチックが開発されました。現在、一般にハードコンタクトレンズと言えば、酸素透過性コンタクトレンズのことで、PMMA製のものはほとんど使われていません。

酸素透過性ハードコンタクトレンズの材料
酸素透過性ハードコンタクトレンズの材料

 ハードコンタクトレンズはレンズが硬く、上下に動きやすいため、異物感を感じたり、ホコリなど巻き込んだりしやすいという欠点がありますが、このことは眼に異常があったときに、すぐに気がつきやすいという長所にもなっています。

ソフトコンタクトレンズ

 ハードコンタクトレンズの使用感が良くないという理由で開発されたのが、柔らかいプラスチックを使ったソフトコンタクトレンズです。ソフトコンタクトレンズに使われるプラスチックは、本来は硬くて水溶性の材質ですが、水を大量に吸って柔らかくなるという性質をもっています。

 このプラスチックはPMMAとよく似た構造をしています。PMMAは吸水性が全くないので、PMMAに親水基である水酸基を導入したポリヒドロキシエチルメタクリラート(PHEMA)というプラスチックが使われます。PHEMAは水を含んでいるときは柔らかいのですが、乾くと硬くなり破損しやすくなります。ですから、ソフトコンタクトレンズは専用の保存液に浸しておく必要があるのです。PHEMAは酸素透過性がほとんどありませんが、水を吸うので涙を介して酸素を透過させることがでます。

ソフトコンタクトレンズの材料・ポリヒドロキシエチルメタクリラート(PHEMA)
ソフトコンタクトレンズの材料
ポリヒドロキシエチルメタクリラート(PHEMA)

 ソフトコンタクトレンズは着け心地も良いのですが、ホコリなどを巻き込んでも気がつきにくいという欠点があります。長時間気がつかないでいると、角膜にできた傷から細菌が入り、角膜に障害を起こすこともあります。また、汚れやすいので洗浄をしっかり行う必要もあります。そのため、最近では、定期的に交換するタイプや使い捨てタイプのものが主流になっています。

角膜の形状に合わせて加工できる

 ハードにしろ、ソフトにしろ、コンタクトレンズは角膜に密着して取り付けます。人間の眼の角膜の表面は球面ではなく、中央部が急で周辺部に行くほど緩やかな非球面をしています。しかも、上下左右が非対称です。最近のコンタクトレンズは角膜の形状にあわせた非球面タイプのものが多くなってきました。レンズと角膜の形状をあわせることにより、局所的な角膜の圧迫を抑えたり、異物感を軽減したり、涙を入りこみやすくしたりできるのです。

角膜の形状に合わせたコンタクトレンズ
角膜の形状に合わせたコンタクトレンズ

遠近両用コンタクトレンズ

 コンタクトレンズにも遠近両用タイプがあります。遠近両用コンタクトレンズは大きくわけると、交代視型(視軸移動型)と同時視型があります。

交代視型(視軸移動型)コンタクトレンズと同時視型コンタクトレンズ
交代視型(視軸移動型)コンタクトレンズと同時視型コンタクトレンズ

 交代視型はレンズに遠くを見る遠用部と近くを見る近用部があり、視線を移動することによって遠近を使い分けます。同時視型は、遠用部と近用部から入った光が同時に網膜上に結像します。眼が遠くを見ているときには、近くのものの像がぼやけ、近くのものを見ているときは、遠くのものの像がぼやけることになりますが、脳が網膜上でピントが合った方の像を見るように選択するのです。

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