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2011年12月30日 (金)

ガラスはなぜ透明なのか

透明とは

 一般に透明とは物体が可視光線のほぼ全域の光、もしくは一部の光を透過して、物体の向う側が見通せる状態のことをいいます。例えば、無色透明のガラスは可視光線のほぼ全域の光を透過します。一方、色ガラスのように可視光線の一部の光しか透過しないものは透明ですが色づいて見えます。

 物体が透明であるためには物体の表面や内部で可視光線が散乱しないこと、そして可視光線が物体を構成する物質に吸収されずに透過することなどの条件が必要となります。例えば透明なガラスの表面に細かい傷を入れると、光が傷で散乱(乱反射)するため不透明な磨りガラスとなります。また、ガラスの内部に小さな微粒子をたくさん分散させると、光が微粒子で散乱するため不透明になります。

ガラスが透明なのはどうしてだろう

 固体にはたくさんの原子や分子が規則正しく結合した結晶体と、不規則に結合して結晶を作らない非晶体があります。固体物質の多くは小さな単結晶がたくさん集まってできた多結晶体です。多結晶体には粒界と呼ばれる結晶の境目があります。粒界の大きさが光の波長と同じかそれ以上の場合、光が粒界で散乱するため不透明となります。一方、結晶を作らない非晶体は粒界がないため、光の散乱は起きません。

 ガラスは結晶構造をもたない非晶体です。主成分の二酸化ケイ素(SiO2)が網目状に結びついた構造をしており、その様子は固体というより液体に近い状態です。このような状態では粒界が存在しないため光は散乱しません。そして、最も重要なことは二酸化ケイ素が光を吸収しないということです。いくら非晶体でも物体を構成する物質が光を吸収する性質をもっていると無色透明にはなりません。

結晶体と非結晶体の構造
結晶体と非結晶体の構造

 普通の板ガラスは無色透明に見えますが、ガラスの縁をよく見てみると緑色に見えます。これは板ガラスに含まれている不純物が光を吸収するからです。ガラスが薄い場合は吸収される光の量が少ないため無色透明に見えますが、ガラスが厚くなると吸収される光の量が増えるため色づいて見えるのです。次の写真は厚さ 1.5 cmのガラス1枚のとき(右側)と2枚重ねたとき(左側)の光の透過の様子を比較した写真です。2枚重ねた左側の方が暗くなっています。厚さが1 mにもなると真っ暗になって向う側が見えなくなります。

ガラス板の透明度
ガラス板の透明度

 光を遠くまで伝送する必要がある光ファイバーには石英ガラスが使われています。石英ガラスは極めて透明度が高く光の信号をほとんど減衰させることなく100 km以上先まで届けることが可能です。プラスチック製の光ファイバーは数十メートル先までしか光の信号を伝送することができません。

透明なプラスチックや結晶

 熔融した液体を冷却したとき、ガラスと同様に結晶化せずに固まった状態をガラス状態といいます。プラスチックにもガラス状態のものがあります。身近な例ではスーパーやコンビニのポリエチレンというプラスチックでできた袋があります。この袋には透明なものと不透明なものがあります。透明なものはポリエチレンが結晶構造をとっていません。不透明なものは袋の強度をあげるためにポリエチレンを部分的に結晶化させています。また、アクリル樹脂の仲間は非晶質で透明度が高く眼鏡のレンズなどガラスの代わりに用いられることから有機ガラスと呼ばれることもあります。

 ダイヤモンドをはじめとする宝石の多くは結晶体です。これらの宝石はひとつの結晶からなる単結晶で粒界がありませんので光が散乱しません。ダイヤモンドや水晶は可視光線のほぼ全域の光を透過するため無色透明です。

 ガラスにもあえて結晶化させたものもあります。ナノテクノロジーを使って粒界を光の波長より小さくして透明にする工夫がされています。結晶構造をもちますので厳密にはガラスとは言えませんが結晶化ガラスと呼ばれています。結晶化ガラスの代表は耐熱ガラスです。調理器具や食器、耐熱性を要する建材やインテリア、液晶パネルやプラズマディスプレイに使われています。同様に多結晶のセラミックスを透明化した透光性セラミックスもあります。屈折率が高いのでレンズなどに使われています。

光は無色透明の物質をすり抜けるだけなのか

 光が無色透明の物質を通り抜けるとき、光の速さが低下します。このことは、光がその物質と相互作用していることを意味しています。例えば、光がガラスを通過するとき、光はガラスの分子とぶつかります。このとき、ガラスの分子中の電子が光のエネルギーを受け取りますが、すぐに光を放出します。放出された光はとなりの電子に受け取られますが、その電子はまたすぐに光を放出するという過程が繰り返されます。このため光の速さが真空中より遅くなるのですが、光はガラスの中を伝播していきます。無色透明なガラスでは、可視光線全域の光が同じような状態となります。これが、光がガラスを伝わるしくみです。無色透明な物質では同じことが起きています。

 吸収された光がどのようになるかは物質によって変わりますが、多くの場合は熱エネルギーとなって失われます。物質によっては蛍光やリン光として再放出するものもありますが、失われた分は熱エネルギーになります。

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コメント

光子はなぜ直進するのですか?
光子が出発するときの速度は0からどうなるんですか?
屈折するとき、最短時間で通過する道をどのように見つけるんですか?

投稿: ヨコイキヨオ | 2020年10月10日 (土) 13時45分

ヨコイキヨオさん

コメントありがとうございます。
・地球上でボールを真っ直ぐに投げると、重力の影響でボールは曲がって落下します。他の粒子も力を受けて曲がります。たとえば電子は電磁力の影響で曲がります。ところが、光はそのような力の影響を受けないため直進します。
・電灯をつけるとあたりが瞬時に照らされることからわかるように、光は発生後から光速で進みます。
・フェルマー原理
https://opticaltale.blogspot.com/2020/07/blog-post_24.html

投稿: photon | 2020年10月10日 (土) 15時36分

わかりやすい解説をありがとうございます。
氷や水晶は結晶だと思いますが、透明なのはなぜでしょうか?

投稿: | 2021年2月21日 (日) 11時18分

コメントありがとうございます。
単結晶になると粒界がなくなるため透明になります。

投稿: photon | 2021年2月21日 (日) 22時03分

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