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2011年8月26日 (金)

昆虫の光走性|飛んで火にいる夏の虫

飛んで火にいる夏の虫

 世界中に広く分布するヒトリガというガがいます。英語ではその羽の模様からTiger Mothと呼ばれますが、日本語では漢字で火取蛾と書きます。ヒトリガは夜行性の昆虫で、夜になると電灯の周りをぐるぐると旋回しながら飛ぶ姿をよく見かけます。電灯のない昔には、明かりを求めて、かがり火などに飛び込んで来たのでしょう。このような習性は、他の夜行性の昆虫でもよく見られますが、このガがよく目についたことから、とりわけ火取蛾と呼ばれるようになったのでしょう。


ヒトリガ(火取蛾)

ヒトリガ(火取蛾)

 表題の諺「飛んで火に入る夏の虫」はヒトリガのような昆虫の習性に由来しています。夜間に火の明るさを求めてやって来た昆虫が自ら炎の中に飛び込んで焼け死ぬことから、自ら進んで災いの中に飛び込むことのたとえとなりました。

光に反応する昆虫の性質

 生物が外部の刺激を受けて方向性のある移動運動をする性質のことを走性といいます。走性は生物に生まれつきのもので、経験や思考に基づくものではありません。そのため、走性を生じさせる刺激に対していつも同じ反応となります。

 走性のうち、光の刺激に反応するものを走光性といいます。昆虫の走光性には次の表に示した屈曲走光性転向走光性目標走光性保留走光性があります。また、走光性には、ガのように光に近づく正の走光性と、ミミズのように光から遠ざかる負の走光性があります。

走行性の種類

屈曲走光性 光を感じる眼がある頭部や体全体を上下左右に振りながら、光の刺激の強さが等しくなる方向を探して進む走光性
転向走光性 左右対称についている眼を使って、左右の光の刺激の強さを比較しながら、光の刺激の強さが等しくなる方向を探して進む走光性
目標走光性 目標走光性眼の網膜に光源の像が同じように結ぶように進む走光性
保留走光性 眼の網膜に結ぶ光源の像に対して一定の角度で進む走光性

 昆虫の走光性は、昆虫の種類や、幼虫か成虫かによって異なりますが、ここでは一般的な転向走光性保留走光性について説明します。

 転向走行性は2つの目に同じ明るさを感じる方向へ向かう性質です。転向走光性の昆虫の眼の片側から光を当てると、光を当てた側に向きを変え、反対側の眼にも光が同じように当たる方向を探します。光源が2つある場合、2つの光源の中間の場所に向かいます。また、眼の片側を覆うと、光源のある方に向きを変えますが、この状態では光源をぐるぐると回ることになります。

 保留走光性の昆虫は眼の網膜に結ぶ光源の像を頼りに進むので、眼が左右対称についている必要はありません。眼の片側を覆っても、転向走光性の昆虫のように光源をぐるぐると回ることはありません。光源が2つある場合は、どちらかの光源だけを頼りに進みます。保留走光性は目標走行性に似ていますが、目標走行性の昆虫が光源に対して直線的に進むのに対して、保留走光性の昆虫は光源に対して一定の角度を保ちながら進みます。

ガはなぜ電灯をぐるぐると回るのか

 生物には昼行性のものと夜行性のものがいます。夜行性の生物には視覚よりも聴覚などを発達させたものもいますが、多くの生物はわずかな光を頼りに行動します。夜間、電灯や明るい自動販売機のまわりに集まってくる昆虫は夜行性で、正の走光性をもつ昆虫です。そして、電灯をぐるぐると回る昆虫は保留走光性です。どうして網膜に結ぶ光源の像を頼りに進む保留走光性の昆虫が電灯をぐるぐると回ってしまうのでしょうか。

 太古の世界では、夜間の明るい光は月の光に限られていました。私たちは月明かりで身の周りの物体を確認しながら行動することもできますが、月を見ながら歩くと、月の位置を頼りにある方向へ真っ直ぐ進んで行くことができます。

月の位置を頼りに進む
月の位置を頼りに進む

 これは月が非常に遠くにあるため、月からやってくる光が平行光線として届いているからです。このとき、同じ方向に進んでいる限りは、どんなに移動しても、月はいつも同じ方角に見えます。

 保留走光性の昆虫も、これと同じです。次の図のように、月の位置を頼りにある方向に真っ直ぐに進む習性があります。いつも月と同じ角度を保って進む限りは、同じ方向に真っ直ぐに飛んで行くことができるのです。

光の進み方
光の進み方

 一方、近いところにある電灯からやって来る光は傾きのある光線として届きます。保留走光性の昆虫がこの光線を頼りに光源に近づこうとすると、電灯の見える方角が次々と変化します。すると、昆虫は電灯が常に同じ方角に見えるように進む方向を修正します。その結果、保留走光性の昆虫は電灯をぐるぐると回ってしまうのです。

保留走光性の昆虫は電灯を回る
保留走光性の昆虫は電灯を回る

太古から現代に受け継がれた習性

 太古から夜行性の昆虫は月を頼りに行動してきました。飛んで火に入る夏の虫のように、もし走光性が昆虫の生存に対して害をなすのであれば、その昆虫は絶滅してしまうはずです。しかし、自然界に火がそこらじゅうにあるわけではありません。総じて考えれば走光性は昆虫の生存を支えてきたのです。わずかな光を捉えて生き延びてきた太古の昆虫の走光性が現代の昆虫にも脈々と受け継がれているのです。電灯をぐるぐると回る昆虫の行動が滑稽に見えるのは、人間が人工の明かりをたくさん作ってしまったためでしょう。

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