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2011年5月19日 (木)

花火の色の原理と仕組み

 夏の夜空を彩る花火。その魅力は何といっても、美しい色の変化でしょう。いったいどのような仕組みで様々な色を出すのでしょうか。

花火はどこで発明されたのか

 花火の起源は黒色火薬を発明した中国です。中国では古くから酸化剤である硝酸カリウム(KNO3)を主成分とする硝石が産出しました。9世紀頃にはすでに硝石に木炭と硫黄が加えられた黒色火薬が発明され、火器が作られていました。また、祭りなどで黒色火薬を使った爆竹や、火の粉を楽しむような原始的な花火が使われていました。

 黒色火薬が日本にやってきたのは1543年に種子島に鉄砲が伝来したときです。日本で歴史上の記録に残っている最も古い花火は、1589年に伊達政宗が見た花火と、1613年に徳川家康が見たものです

 

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徳川家康が見た花火はどんな色だったのか

 徳川家康が見た花火は、竹筒に黒色火薬をつめたもので、竹筒から吹き上がる暗赤色の火の粉を見て楽しむものでした。この花火をきっかけに、国内で花火が作られるようになりましたが、江戸時代の花火はパチパチと出る火花を楽しんだり、打ち上げたときにできる光の筋(光芒)を楽しんだりするものでした。花火の色は暗い赤橙色で、現在の花火ように綺麗な色は出ませんでした。どうして暗い色の花火しか作ることができなかったのでしょう。

 物体は温度が高くなると光を出します。例えば、ニクロム線に電気と通すと発熱と同時に色が暗赤色になります。ニクロム線は高温になるにつれて様々な波長の光を出し明るい色になります。さらに温度が高くなると白色に近い光を出します。このように熱が光となって放出される現象を熱放射といいます。 

 熱放射によって物体から放出される光の色を、その物体の絶対温度で表したものを色温度といいます。色温度によって、光源の色を数値的に表すことができます。また逆に、光源の色から光源の温度を知ることができます。

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 江戸時代の花火の色が暗かったのは、黒色火薬の燃焼温度が低かったからです。硝酸カリウムは酸化剤として燃焼を促進する働きがありますが、その燃焼温度は2000℃以下です。この程度の温度の燃焼では、暗い赤橙色の光しか出てこないのです。

 日本が江戸時代に鎖国をしている間、ヨーロッパでは火薬の研究が飛躍的に進みました。フランスの化学者クロード・ルイ・ベルトレーは1768年に硝酸カリウムより強い酸化剤の塩素酸カリウム(KClO3)を合成しました。

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 塩素酸カリウムを火薬に加えると、燃焼温度が2000℃を超えます。さらにアルミニウムやマグネシウムなどの金属粉を火薬に加えると、燃焼温度が3000℃近くになり、まばゆい銀白色の光が出ます。ヨーロッパの花火は日本の花火よりもはるかに明るかったのです。塩素酸カリウムが日本にやってきたのは明治時代です。

 塩素酸カリウムはたいへん危険なので、現在の花火には過塩素酸カリウム(KClO4)や過塩素酸アンモニウム(NH4ClO4)が用いられています(花火が水中でも燃焼し続けるのは、酸化剤が酸素を含んでおり、燃焼に必要な酸素を供給するからです)。

赤・黄・緑・青、現代の花火の色は

 現在、私たちがよく見る花火は赤・黄・緑・青や中間色など、前述の熱放射では出ない実に様々な色を出します。花火から綺麗な色の光が出るのは、火薬に着色剤が混ぜられているからです。どうして、着色料を混ぜると様々な色が出るのでしょう。

 金属化合物を高温で熱すると、その金属元素に特有な色の炎が出ます。これを炎色反応といいます。金属化合物が高温になると、分解して金属原子内の電子が不安定な高エネルギー状態になります。しかし、電子はすぐに元の安定した低エネルギー状態に戻ります。このとき電子が放出するエネルギーが可視光線として出てきます。金属元素によって電子状態が異なるため、それぞれの金属元素に特有の色の光が出てくるのです。

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 花火に使われている着色剤は金属化合物です。着色剤を含む火薬が燃焼すると、燃焼で分解・生成した不安定な化合物から特定の波長の光が出ます。この光が花火の色の正体です。どんな金属化合物が色を出しているのでしょう。

 次の写真はシャッタースピードを遅くして花火を撮影したものです。花火がいろいろな色を出していることがわかります。

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 赤色を出すには、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)などの化合物が使われます。緑色にはバリウム化合物、黄色にはナトリウム化合物が使われます。青色は燃焼温度が高くなると他の色に弱められるため、作るのが難しく、いまだにきれいな青色は完成していません。現状では、銅化合物が使われています。

色光 使われる化合物の例
赤 色 硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、 炭酸ストロンチウム(SrCO3)、シュウ酸ストロンチウム(SrC2O4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウム(CaSO4)
緑 色 硝酸バリウム(Ca(NO3)2)、 炭酸バリウム(BaCO3)、シュウ酸バリウム(BaC2O4)
黄 色 シュウ酸ナトリウム(Na2C2O4)、 氷晶石(Na3AlF3) (塩化ナトリウム NaClは湿潤性が高いので使えない)
青 色 硫酸銅(CuSO4)、 炭酸銅(CuCO3)、 孔雀石(CuCO3・Cu(OH)2)

 色調を変えたり、中間色を作るには着色料の配合を変えます。例えば、赤のストロンチウム化合物と青の銅化合物を混ぜると紫色となります。また、違う色の着色料を花火の玉の中で何層かに分けると、色が変化する花火を作ることができます。

 花火は化合物の光と色の祭典と言えるでしょう。夏の花火をお楽しみに。

 炎色反応は実験キットで簡単に確認することができます。

 

 

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