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2011年5月

2011年5月24日 (火)

LEDが光るしくみ (4)

■LEDが放出する光の色とエネルギー バンドギャップの計算式

 LEDの発光色はLEDに使われている半導体の価電子帯と伝導帯のエネルギー差、すなわちバンドギャップの大きさEgで決まります。

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 つまりLEDが放出する光のエネルギーEはEgに相当します。光のエネルギーEは光の波の振動数νにプランク定数hを乗じたものでE=hν で表すことができます。また、光の波の振動数νは真空中における光速 cを波長λで除したものですから、光のエネルギーEは次の式のように表すことができます。

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 h、c、λの単位をそれぞれ[J・s]、[m/s]、[m]とすると、Eの単位は[J]となります。hとcはそれぞれ定数ですから、h=6.6×10-34[J・s] とc=3.0×108[m/s]を上式に代入すると、E=1.98×10-25/λ[J]となります。λの単位を[nm]にすると、E=1.98×10-16/λ[J]となります。光のエネルギーEや半導体のバンドギャップのエネルギーEgの単位には[eV]がよく使われます。1[eV]は1.6×10-19[J]ですから、上式は次のようになります。

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 この式を使うと、光の波長λから光のエネルギーEを簡単に求めることができます。また、LEDに使われる半導体のバンドギャップのエネルギーEg がわかれば、そのLEDから放出される光の波長λを求めることができ、光の色を知ることができます。

■LEDをつくる化合物半導体

  ケイ素だけでできている半導体のバンドギャップEgは約1.12[eV]です。これを先の式に代入すると、ケイ素の半導体のバンドギャップEgに相当する光は、波長が約1100[nm](1.1[μm])の近赤外線になります。ですから、可視光のLEDには使えません。加えて、ケイ素単体の半導体は、電子と正孔が再結合する際に結晶の格子振動を伴うため、電子が持つエネルギーの光への変換効率が悪く、LEDには使えません。ゲルマニウム単体の半導体も同じです。

 LEDに使われる半導体でまず重要なのは発光効率が高いということです。電子と正孔が再結合するとき、電子の持つエネルギーが効率よく光に変換される必要があります。LEDに使われる半導体は2種類以上の元素を組み合わせてつくられた化合物半導体です。

 化合物半導体は結晶の格子振動を伴わないので、電子の持つエネルギーを光に効率的に変換することができます。化合物半導体には様々な種類がありますが、元素周期表のⅢ-Ⅴ族、Ⅱ-Ⅵ族、Ⅳ-Ⅳ族を組み合わせたものに分類することができます。

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 化合物半導体はケイ素単体の半導体にはない機能をもっています。下表は化合物半導体の分類を示したものです。

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 LEDの発光色とLEDに使われる化合物半導体の例を次の表に示します。半導体の種類によって、異なる波長の光が出てくるのは、それぞれの半導体のバンドギャップの大きさが異なるからです。

発光色 半導体材料 波長(nm)
赤色 GaAlAs 660
橙色 AlInGaP 610~650
黄色 AlInGaP 595
緑色 InGaN 520
青色 InGaN 450~475
紫外 InGaN 365~400
 
白色 InGaN青+ 黄色蛍光体 465 560
InGaN紫外+RGB蛍光体 465 530 612

(注)InGaNはGaNとInNを混合した結晶。混合比によりバンドギャップの大きさを変えることができる。

 このシリーズの第1回で「半導体は導体と絶縁体の中間の電気の通しやすさをもつ物質というより、条件によって電気を通したり、通さなかったりする物質」と説明しましたが、エネルギー変換装置のような機能を持っていると考えても良いでしょう。

■LEDの構造

 LEDの構造は下図のようになっています。金属製のリードフレームの片側にLEDチップが取り付けられて、そこから細い金属のワイヤがもう片方のフレームにつながっています。それに樹脂をかぶせた簡単な構造です。LEDが光を発するのはLEDチップに秘密があります。このチップに半導体が取り付けられています。一般的にLEDの足の長い方が、アノード(+)、短い方がカソード(-)です。

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■青色LEDがLEDの用途を広げた

 化合物半導体の発展により、種々の色の光を発光するLEDが登場しました。しかし、十分な明るさをもつ赤色LEDは早くから存在していましたが、青色LEDと緑色LEDは発光効率が悪く表示用ランプなどに使われるのみでした。1980年代の後半に当時名古屋大学の赤崎勇氏や天野浩氏(現在は名城大学)のグループがGaNの単結晶の製作やGaNの不純物半導体の作製に成功すると、このことがきっかけとなって高輝度の青色LEDや緑色LEDの開発が進みました。高輝度の青色LEDの登場により、白色LEDをつくることができるようになり、LEDは次世代の照明として注目されるようになりました。

■白色LEDのしくみ

 白色以外のLEDはある波長を中心とした単色光に近い光を発光しますが、白色光そのものを出すLEDはありません。白色LEDには、(1)青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせたもの、(2)紫外線LEDと赤緑青(RGB)の3色を発光する蛍光体を組み合わせたもの、(3)赤色LED、緑色LED、青色LEDを組み合わせたものがあります。

 現在、主流の白色LEDは(1)のタイプのものです。青色LEDから放出する青色光と、青色光が当たることによって蛍光体が出す黄色い光を混色することにより白色光をつくります。青色光と黄色光が補色の関係にあるため、白色光を作ることができるのです。この白色LEDの発光波長は465[nm]、560[nm]ですが、465[nm]が青色LEDの光、560[nm]が黄色蛍光体から出る光です。蛍光体から出る黄色い光はかなり波長幅のある光です。ですから、この白色LEDの光をCDなどの裏面で回折させて見ると、青色や黄色以外の色も見えます。

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 (2)のタイプの白色LEDは、LEDから出る紫外線が当たることによって蛍光体が出す赤緑青の光を混色することにより白色光をつくります。(1)の白色LEDより演色性が良く、照明用白色LEDとして注目されています。

 蛍光体から出る光の波長は蛍光体に当てる光の波長より長くなります。つまり、もとの光のエネルギーより高いエネルギーの光は得られないということです。そのため、短波長の光を出す高輝度の青色LEDが白色LEDの実現に不可欠だったのです。

 (3)のタイプの白色LEDは前述の2つの方式とは異なり、赤緑青の3色のLEDの光を混色して白色光をつくります。光の3成分が単色光に近いので、演色性はあまり良くありませんが、RGBだけで色をつくるカラー液晶のバックライトなどに使われています。

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2011年5月19日 (木)

花火の色の原理と仕組み

 夏の夜空を彩る花火。その魅力は何といっても、美しい色の変化でしょう。いったいどのような仕組みで様々な色を出すのでしょうか。

花火はどこで発明されたのか

 花火の起源は黒色火薬を発明した中国です。中国では古くから酸化剤である硝酸カリウム(KNO3)を主成分とする硝石が産出しました。9世紀頃にはすでに硝石に木炭と硫黄が加えられた黒色火薬が発明され、火器が作られていました。また、祭りなどで黒色火薬を使った爆竹や、火の粉を楽しむような原始的な花火が使われていました。

 黒色火薬が日本にやってきたのは1543年に種子島に鉄砲が伝来したときです。日本で歴史上の記録に残っている最も古い花火は、1589年に伊達政宗が見た花火と、1613年に徳川家康が見たものです

 

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徳川家康が見た花火はどんな色だったのか

 徳川家康が見た花火は、竹筒に黒色火薬をつめたもので、竹筒から吹き上がる暗赤色の火の粉を見て楽しむものでした。この花火をきっかけに、国内で花火が作られるようになりましたが、江戸時代の花火はパチパチと出る火花を楽しんだり、打ち上げたときにできる光の筋(光芒)を楽しんだりするものでした。花火の色は暗い赤橙色で、現在の花火ように綺麗な色は出ませんでした。どうして暗い色の花火しか作ることができなかったのでしょう。

 物体は温度が高くなると光を出します。例えば、ニクロム線に電気と通すと発熱と同時に色が暗赤色になります。ニクロム線は高温になるにつれて様々な波長の光を出し明るい色になります。さらに温度が高くなると白色に近い光を出します。このように熱が光となって放出される現象を熱放射といいます。 

 熱放射によって物体から放出される光の色を、その物体の絶対温度で表したものを色温度といいます。色温度によって、光源の色を数値的に表すことができます。また逆に、光源の色から光源の温度を知ることができます。

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 江戸時代の花火の色が暗かったのは、黒色火薬の燃焼温度が低かったからです。硝酸カリウムは酸化剤として燃焼を促進する働きがありますが、その燃焼温度は2000℃以下です。この程度の温度の燃焼では、暗い赤橙色の光しか出てこないのです。

 日本が江戸時代に鎖国をしている間、ヨーロッパでは火薬の研究が飛躍的に進みました。フランスの化学者クロード・ルイ・ベルトレーは1768年に硝酸カリウムより強い酸化剤の塩素酸カリウム(KClO3)を合成しました。

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 塩素酸カリウムを火薬に加えると、燃焼温度が2000℃を超えます。さらにアルミニウムやマグネシウムなどの金属粉を火薬に加えると、燃焼温度が3000℃近くになり、まばゆい銀白色の光が出ます。ヨーロッパの花火は日本の花火よりもはるかに明るかったのです。塩素酸カリウムが日本にやってきたのは明治時代です。

 塩素酸カリウムはたいへん危険なので、現在の花火には過塩素酸カリウム(KClO4)や過塩素酸アンモニウム(NH4ClO4)が用いられています(花火が水中でも燃焼し続けるのは、酸化剤が酸素を含んでおり、燃焼に必要な酸素を供給するからです)。

赤・黄・緑・青、現代の花火の色は

 現在、私たちがよく見る花火は赤・黄・緑・青や中間色など、前述の熱放射では出ない実に様々な色を出します。花火から綺麗な色の光が出るのは、火薬に着色剤が混ぜられているからです。どうして、着色料を混ぜると様々な色が出るのでしょう。

 金属化合物を高温で熱すると、その金属元素に特有な色の炎が出ます。これを炎色反応といいます。金属化合物が高温になると、分解して金属原子内の電子が不安定な高エネルギー状態になります。しかし、電子はすぐに元の安定した低エネルギー状態に戻ります。このとき電子が放出するエネルギーが可視光線として出てきます。金属元素によって電子状態が異なるため、それぞれの金属元素に特有の色の光が出てくるのです。

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 花火に使われている着色剤は金属化合物です。着色剤を含む火薬が燃焼すると、燃焼で分解・生成した不安定な化合物から特定の波長の光が出ます。この光が花火の色の正体です。どんな金属化合物が色を出しているのでしょう。

 次の写真はシャッタースピードを遅くして花火を撮影したものです。花火がいろいろな色を出していることがわかります。

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 赤色を出すには、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)などの化合物が使われます。緑色にはバリウム化合物、黄色にはナトリウム化合物が使われます。青色は燃焼温度が高くなると他の色に弱められるため、作るのが難しく、いまだにきれいな青色は完成していません。現状では、銅化合物が使われています。

色光 使われる化合物の例
赤 色 硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、 炭酸ストロンチウム(SrCO3)、シュウ酸ストロンチウム(SrC2O4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウム(CaSO4)
緑 色 硝酸バリウム(Ca(NO3)2)、 炭酸バリウム(BaCO3)、シュウ酸バリウム(BaC2O4)
黄 色 シュウ酸ナトリウム(Na2C2O4)、 氷晶石(Na3AlF3) (塩化ナトリウム NaClは湿潤性が高いので使えない)
青 色 硫酸銅(CuSO4)、 炭酸銅(CuCO3)、 孔雀石(CuCO3・Cu(OH)2)

 色調を変えたり、中間色を作るには着色料の配合を変えます。例えば、赤のストロンチウム化合物と青の銅化合物を混ぜると紫色となります。また、違う色の着色料を花火の玉の中で何層かに分けると、色が変化する花火を作ることができます。

 花火は化合物の光と色の祭典と言えるでしょう。夏の花火をお楽しみに。

 炎色反応は実験キットで簡単に確認することができます。

 

 

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