« 花火の色の原理と仕組み | トップページ | 光が生まれたのはいつだろう »

2011年5月24日 (火)

LEDが光るしくみ (4)

■LEDが放出する光の色とエネルギー バンドギャップの計算式

 LEDの発光色はLEDに使われている半導体の価電子帯と伝導帯のエネルギー差、すなわちバンドギャップの大きさEgで決まります。

081117_img_w200

 つまりLEDが放出する光のエネルギーEはEgに相当します。光のエネルギーEは光の波の振動数νにプランク定数hを乗じたものでE=hν で表すことができます。また、光の波の振動数νは真空中における光速 cを波長λで除したものですから、光のエネルギーEは次の式のように表すことができます。

081117_img2_org

 h、c、λの単位をそれぞれ[J・s]、[m/s]、[m]とすると、Eの単位は[J]となります。hとcはそれぞれ定数ですから、h=6.6×10-34[J・s] とc=3.0×108[m/s]を上式に代入すると、E=1.98×10-25/λ[J]となります。λの単位を[nm]にすると、E=1.98×10-16/λ[J]となります。光のエネルギーEや半導体のバンドギャップのエネルギーEgの単位には[eV]がよく使われます。1[eV]は1.6×10-19[J]ですから、上式は次のようになります。

081117_img3_org

 この式を使うと、光の波長λから光のエネルギーEを簡単に求めることができます。また、LEDに使われる半導体のバンドギャップのエネルギーEg がわかれば、そのLEDから放出される光の波長λを求めることができ、光の色を知ることができます。

■LEDをつくる化合物半導体

  ケイ素だけでできている半導体のバンドギャップEgは約1.12[eV]です。これを先の式に代入すると、ケイ素の半導体のバンドギャップEgに相当する光は、波長が約1100[nm](1.1[μm])の近赤外線になります。ですから、可視光のLEDには使えません。加えて、ケイ素単体の半導体は、電子と正孔が再結合する際に結晶の格子振動を伴うため、電子が持つエネルギーの光への変換効率が悪く、LEDには使えません。ゲルマニウム単体の半導体も同じです。

 LEDに使われる半導体でまず重要なのは発光効率が高いということです。電子と正孔が再結合するとき、電子の持つエネルギーが効率よく光に変換される必要があります。LEDに使われる半導体は2種類以上の元素を組み合わせてつくられた化合物半導体です。

 化合物半導体は結晶の格子振動を伴わないので、電子の持つエネルギーを光に効率的に変換することができます。化合物半導体には様々な種類がありますが、元素周期表のⅢ-Ⅴ族、Ⅱ-Ⅵ族、Ⅳ-Ⅳ族を組み合わせたものに分類することができます。

081117_img4_org

 化合物半導体はケイ素単体の半導体にはない機能をもっています。下表は化合物半導体の分類を示したものです。

081117_img5_org

 

 LEDの発光色とLEDに使われる化合物半導体の例を次の表に示します。半導体の種類によって、異なる波長の光が出てくるのは、それぞれの半導体のバンドギャップの大きさが異なるからです。

発光色 半導体材料 波長(nm)
赤色 GaAlAs 660
橙色 AlInGaP 610~650
黄色 AlInGaP 595
緑色 InGaN 520
青色 InGaN 450~475
紫外 InGaN 365~400
 
白色 InGaN青+ 黄色蛍光体 465 560
InGaN紫外+RGB蛍光体 465 530 612

(注)InGaNはGaNとInNを混合した結晶。混合比によりバンドギャップの大きさを変えることができる。

 このシリーズの第1回で「半導体は導体と絶縁体の中間の電気の通しやすさをもつ物質というより、条件によって電気を通したり、通さなかったりする物質」と説明しましたが、エネルギー変換装置のような機能を持っていると考えても良いでしょう。

■LEDの構造

 LEDの構造は下図のようになっています。金属製のリードフレームの片側にLEDチップが取り付けられて、そこから細い金属のワイヤがもう片方のフレームにつながっています。それに樹脂をかぶせた簡単な構造です。LEDが光を発するのはLEDチップに秘密があります。このチップに半導体が取り付けられています。一般的にLEDの足の長い方が、アノード(+)、短い方がカソード(-)です。

081117_img6_org

■青色LEDがLEDの用途を広げた

 化合物半導体の発展により、種々の色の光を発光するLEDが登場しました。しかし、十分な明るさをもつ赤色LEDは早くから存在していましたが、青色LEDと緑色LEDは発光効率が悪く表示用ランプなどに使われるのみでした。1980年代の後半に当時名古屋大学の赤崎勇氏や天野浩氏(現在は名城大学)のグループがGaNの単結晶の製作やGaNの不純物半導体の作製に成功すると、このことがきっかけとなって高輝度の青色LEDや緑色LEDの開発が進みました。高輝度の青色LEDの登場により、白色LEDをつくることができるようになり、LEDは次世代の照明として注目されるようになりました。

■白色LEDのしくみ

 白色以外のLEDはある波長を中心とした単色光に近い光を発光しますが、白色光そのものを出すLEDはありません。白色LEDには、(1)青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせたもの、(2)紫外線LEDと赤緑青(RGB)の3色を発光する蛍光体を組み合わせたもの、(3)赤色LED、緑色LED、青色LEDを組み合わせたものがあります。

 現在、主流の白色LEDは(1)のタイプのものです。青色LEDから放出する青色光と、青色光が当たることによって蛍光体が出す黄色い光を混色することにより白色光をつくります。青色光と黄色光が補色の関係にあるため、白色光を作ることができるのです。この白色LEDの発光波長は465[nm]、560[nm]ですが、465[nm]が青色LEDの光、560[nm]が黄色蛍光体から出る光です。蛍光体から出る黄色い光はかなり波長幅のある光です。ですから、この白色LEDの光をCDなどの裏面で回折させて見ると、青色や黄色以外の色も見えます。

081117_img7_org

 (2)のタイプの白色LEDは、LEDから出る紫外線が当たることによって蛍光体が出す赤緑青の光を混色することにより白色光をつくります。(1)の白色LEDより演色性が良く、照明用白色LEDとして注目されています。

 蛍光体から出る光の波長は蛍光体に当てる光の波長より長くなります。つまり、もとの光のエネルギーより高いエネルギーの光は得られないということです。そのため、短波長の光を出す高輝度の青色LEDが白色LEDの実現に不可欠だったのです。

 (3)のタイプの白色LEDは前述の2つの方式とは異なり、赤緑青の3色のLEDの光を混色して白色光をつくります。光の3成分が単色光に近いので、演色性はあまり良くありませんが、RGBだけで色をつくるカラー液晶のバックライトなどに使われています。

人気ブログランキングへ

| |

« 花火の色の原理と仕組み | トップページ | 光が生まれたのはいつだろう »

光のおはなし」カテゴリの記事

科学」カテゴリの記事

光源」カテゴリの記事

光学機器」カテゴリの記事

コメント

> 化合物半導体は結晶の格子振動を伴わないので、

格子振動がないわけじゃないですよね.

投稿: O川(仮) | 2011年5月25日 (水) 08時50分

直接繊維型か間接遷移型の違いという意味で、化合物半導体は結晶の格子振動と書いたのですが、ちょっと言葉が不足しているかもしれませんね。

投稿: photon | 2011年5月26日 (木) 15時08分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: LEDが光るしくみ (4):

« 花火の色の原理と仕組み | トップページ | 光が生まれたのはいつだろう »