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2010年1月

2010年1月29日 (金)

LEDが光る仕組み(2)

■ケイ素の結晶に不純物を加えると

LEDが光る仕組み(1)で説明した通り、ケイ素の結晶に電気を通すためには、ケイ素原子の結合の担い手である価電子を自由に移動できるようにする必要があります。そして、ケイ素の結晶に不純物を加えると、価電子の動きを制御することができると説明しました。

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不純物を加えると言っても、でたらめに物質を加えれば良いわけではありません。ケイ素の結晶の中に、ケイ素以外の原子を不純物として加えるのです。具体的にはケイ素原子と価電子数が異なる原子を加えます。ケイ素原子は価電子を4つもっています。ケイ素の結晶に価電子数5のリン原子と価電子数3のアルミニウム原子を加えたとき、どのようなことが起きるのか考えてみましょう。

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■リン原子を加えたとき(n型半導体)

ケイ素の結晶にリン原子を加えると、ケイ素原子とリン原子は価電子を1個ずつ出し合って結合します。ところが、リン原子は価電子を5つ持っているので、電子が1個余ります。この余った電子は室温程度の熱エネルギーでリン原子の束縛から外れ、結晶中を自由に動き回るようになります。つまり、この余分な電子がより大きなエネルギーをもつ自由電子となります。この結晶に電圧をかけると、この自由電子が負極から正極へ移動し電流となります。このように、結合に使われなかった価電子によって電流が流れる半導体をn型半導体と呼びます。nはnegative(陰性の、負の)の略です。

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■アルミニウム原子を加えたとき(p型半導体)

ケイ素の結晶にアルミニウム原子を加えると、ケイ素原子とアルミニウム原子は価電子を1個ずつ出し合って結合します。ところが、アルミニウム原子は価電子を3つしか持っていないため、結合をつくることができず電子が不足する部分ができます。この部分は電子がなくなった孔のようになります。この孔は負電荷を帯びた電子が不足してできた孔なので、正電荷を持つ孔として考えることができることから正孔と呼ばれます。

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正孔は非常に不安定で、まわりの価電子を引っ張り込んで結びつこうとする性質があります。その結果、結合の担い手になっている価電子は原子の束縛から外れ正孔と結びつきます。その価電子が外れたところは新しい正孔となります。新しくできた正孔は再び価電子と結びつき、その価電子の外れたところが新しい正孔となります。このように、正孔は次々と価電子と結びついて消滅・生成を繰り返し、あたかも正電荷をもった粒子のように結晶中を動き回ります。実際には電子が移動しているのですが、正孔が移動していると考えることができるのです。

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この結晶に電圧をかけると、正孔は正極から負極へ移動し電流となります。このように、正孔によって電流が流れる半導体をp型半導体と呼びます。pはpositive(陽性の、正の)の略です。

■p型半導体とn型半導体を組み合わせると

 次の図のようにp型半導体とn型半導体を組み合わせた接合をpn接合といいます。

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 電圧をかけていない状態では、接合面の付近で正孔と自由電子が結合しようと移動します。移動して出合った正孔と自由電子は電気的に中和し、その結果、接合面付近は正孔と自由電子が少なくなります。その部分を空乏層といいます。空乏層のn型側は自由電子が不足し正に帯電し、p型側は正孔が不足し負に帯電し、全体としては安定した絶縁状態になります。そのため、電流が流れません。

■順方向と逆方向の接続

次の図のように、p型を正極、n型を負極に接続して電圧をかけると、正孔はn型の方へ、自由電子はp型の方へ移動します。正孔と自由電子は接合部で出合い結びつき電気的に中和します。

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正極ではp型から導線へ電子が移動するので新しい正孔が生成されます。一方、負極では導線からn型に電子が供給され続けます。そのため電流が流れ続けるようになります。この電圧をかける向きを順方向といいます。
接合面で正孔と自由電子が中和するとき、自由電子が持っていたエネルギーが熱や光のエネルギーとして放出されます。どのようなエネルギーがどれぐらいでるかは半導体を作る物質によって異なります。
 次の図のように、p型をマイナス極、n型をプラス極にして電圧をかけると、正孔はマイナス極の方へ、電子はプラス極の方へ移動します。接合部の付近は正孔と電子がほとんど存在しなくなり、空乏層となるので、電流が流れなくなります。この電圧をかける向きを逆方向といいます。

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■ダイオードはどのような素子か

pn接合はp型からn型に向けて電流が流れる性質があります。この働きを整流作用といいます。整流作用をもつ半導体素子をダイオードといいます。

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ダイオードは電流の流れる方向が周期的に変わる交流を直流に変換するなど、さまざまな用途で使われます。

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ダイオード(diode)はギリシャ語のdi(2つの)とode(通り道)が語源です。LED(発光ダイオード)はダイオードの一種で順方向に電圧をかけたときに発光します。電池をつなぐ向きを逆にすると光りません。LEDの仕組みについては(3)で説明します。

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2010年1月 9日 (土)

LEDが光る仕組み(1)

LEDとは

 信号機や電光掲示板をよく見ると小さなランプのようなものが並んでいることがわかります。この小さなランプのようなものがLED(Light Emitting Diode発光ダイオード)です。

LEDを使った歩行者用信号(青色)
LEDを使った歩行者用信号(青色)

 LEDは従来の光源に比べて優れた特長をもっています。LEDは電気部品に使われている半導体でできていますが、電気を流すと発光するタイプの半導体でできています。

LEDの主な特徴

  • 省電力である
  • 寿命が長い
  • 目的の波長の光を出すことができる
  • 電球より応答が良く点滅性能に優れている
  • 小型・軽量で衝撃に強い

LEDを発明した人は誰か

 20世紀の初め、イギリスのヘンリー・ジョセフ・ラウンド(H.J.Round)は炭化ケイ素などの結晶に電圧をかけると種々の色の光が出ることを報告しました。この報告がLEDと同じ発光原理の発光現象の発見と考えられています。 また、1920年代にロシアのオレク・ウラジーミロヴィチ・ロシェフ(O.V.Losev)はラジオに使われているダイオードに電圧をかけると発光することに気がつき、世界で初めて発光ダイオードに関する詳細な論文をまとめました。

 Roundの報告はメモ程度のものであり、Losevの論文は当時ほとんど注目されませんでしたが、この2人がLEDの発光原理の発明者と考えることができるでしょう。

H.J.ラウンドとO.V.ロシェフ
H.J.ラウンドとO.V.ロシェフ

 1950年ぐらいまでは天然に算出される鉱物の発光現象の研究が盛んに行われました。人工的な結晶で作られた発光ダイオードが登場したのは1960年代に入ってからです。

半導体はどんな物質か

 鉄や銅などの金属は電気を良く通す導体、普通のガラスやゴムは電気をほとんど通さない絶縁体です。 半導体は「室温において電気を通しやすい導体と電気を通さない絶縁体の中間の性質(電気の通しやすさ)を持つ物質」とよく説明されます。

 しかし、純粋な半導体物質は低温ではほとんど電気を通しません。ところが、半導体物質に不純物を加えたり、光や熱を加えたりすると電気が良く通るようになります。ですから、半導体は導体と絶縁体の中間の電気の通しやすさをもつ物質というより、条件によって電気を通したり、通さなかったりする物質と考えた方が的を射ているでしょう。

 私たちの身の周りの物質はすべて原子と原子が化学結合したものです。もちろん、半導体も原子と原子が化学結合したものです。半導体が電気を通したり、通さなかったりする理由は、原子と原子の化学結合に仕掛けがあるからです。

絶縁体のダイヤモンドの結合を考えてみよう

 次の図はダイヤモンドの結晶中の炭素原子の化学結合を簡単に示したものです。

ダイヤモンド結晶中の炭素原子の化学結合
ダイヤモンド結晶中の炭素原子の化学結合

 ひとつの炭素原子は結合を担う「手」を4つ持っており、隣り合う炭素原子同士がその「手」を取り合って結合していると考えることができます。

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結合を担う「手」の正体は何か

 原子は正電荷を帯びた原子核と負電荷を帯びた電子からできています。原子の一番外側にある電子(最外郭電子)は内側の電子より原子核からの引力が弱いため、原子と原子が近づくと特別な働きをします。この最外郭電子を価電子と呼びます。 この価電子が原子と原子が化学結合するのを担う「手」です。ひとつの炭素原子は価電子を4つ持っており、それが化学結合の「手」となるのです。

炭素原子の構造
炭素原子の構造      

(注)最外郭電子の数が電子郭の最大収容数と同じ、もしくは8個の原子は、電子配置が安定しているので価電子はゼロとします。

ケイ素原子の化学結合を考えてみよう

 半導体として良く使われるケイ素の原子も炭素原子と同じように4つの手を持っています。

ケイ素原子の構造
ケイ素原子の構造

 ケイ素原子同士が結合するとき、隣り合ったケイ素原子同士が価電子を共有し、結合をつくります。このように原子と原子がお互いに価電子を出し合ってつくる結合を共有結合といいます。

ケイ素原子の共有結合
ケイ素原子の共有結合

 原子と原子が共有結合している場合、結合の担い手である価電子は原子に束縛されています。そのため、価電子は物質中を自由に動くことができません。

 電気が物質中を流れるというのは、電子が物質中を移動するということです。ですから、電子が移動できない物質は電気を通さない絶縁体です。半導体に使われる純粋なケイ素の結晶は、不純物を加えたり、光や熱を加えたりすると電気が流れるようになりますが、通常は電気を通しません。一般にダイヤモンドは絶縁体と考えられていますが、やはり不純物を加えることで半導体をつくることができます。

金属はどうして電気が流れるのか

 金属原子は他の原子と出会うと価電子を放出し、正電荷を帯びやすいという性質をもっています。そのため、金属原子がたくさん集まると、それぞれの原子は価電子を放出して正電荷を帯びます。その結果、価電子は原子核の束縛から逃れて、金属中を自由に動き回れるようになります。つまり、価電子は特定の原子に束縛されず、すべての原子に共有されている状態になります。このように金属中を自由に移動できる価電子を自由電子といいます。正電荷を帯びた金属原子(金属イオン)と自由電子からなる結合を金属結合といいます。金属は価電子が金属中を自由に移動できるので電気をよく通すのです。

アルミニウム原子の構造と自由電子アルミニウム原子の構造と自由電子

ケイ素の結晶に電気を通すには

 ケイ素の結晶に電気を通すためには、ケイ素原子の価電子を移動させる必要があります。今日、もっとも広く使われている半導体はケイ素、ゲルマニウムなどの元素の純粋な結晶に不純物をわずかに加えたものや、ガリウムヒ素などの化合物です。不純物を加えたり、化合物としたりすることによって価電子の動きを制御することができるようになるのです。 このような方法によりp型n型と呼ばれる半導体をつくることができます。LEDはこのp型とn型の半導体を組み合わせたものです。p型とn型半導体については次回で説明します。

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2010年1月 7日 (木)

丸底フラスコのレンズ

丸底フラスコに水を入れて、壁掛け時計の実像を作り、元の時計を背景に写真を撮影してみました。壁にかかった物体としての時計とフラスコの中に映る実像としての時計が映っています。

Image2

実像はよく倒立していると言われますが、この写真で物体と実像の文字盤の位置を比較すると、レンズの光軸(時計の針の中心)を中心に上下左右が反転していることがよくわかりますね。

「レンズ」のキホンの詳細

https://optica.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-e25b.html

 

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2010年1月 4日 (月)

アイザック・ニュートンの誕生日(1643/01/04)

今日はイギリスの物理学者アイザック・ニュートンの誕生日です。ニュートンは1643年1月4日に生まれました。

Googleのロゴがリンゴの木になっていました。Googleのサイト上ではリンゴが木から落ちるアニメが表示されます(2010年)。

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さて、ニュートンとリンゴの木というと「ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て万有引力に気がついた」という有名な逸話があります。

ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見るまで万有引力に気がつかなかったのか!ということになりますが、リンゴが木から落ちるのを見て気がつくのは重力であり、重力については、ニュートン以前のもっと古い時代から知られていたことです。この話はそもそも「リンゴが木から落ちるのを見て」と、これだけで終わる話ではありません。

ニュートンが万有引力について考えるきっかけになったのは、ヨハネス・ケプラーが1619年に発表した惑星の運動に関する法則です。

ニュートンは惑星の運動と、木から落ちるリンゴに働く「力」が同じものであると考え、その「力」のことを万有引力と名付けました。

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2010年1月 2日 (土)

屈折率の異なる物質中を通る光

屈折率の違う物質を層状に重ねた物体に光を通すと、光は次の図の左側のように境界面で屈折しながら進みます。光の進む向きが変わるのは境界面なので、光は同じ屈折率の層中は直進することがわかります。

各層の厚さを小さくすればするほど、ひとつの層内で光が直進する距離が短くなります。図の右側のように連続的に屈折率が変化する物質では、光は物質中を曲線的に進むことになる。

Photo

フェルマーの原理では「光は2点間の最短時間の経路を進む」と説明されます。連続的に屈折率が変化する物質において、光が物質に入る位置と、光が物質から出てくる点をその2点と定義すると、もはや光の経路は直線ではありません。

光が最短時間の経路を取るということと、光の直進性を結びつけて考え過ぎると、かえって理解の妨げになるかもしれません。

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