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2009年11月21日 (土)

オーパーツ「世界最古のレンズ」は本当にレンズか アッシリアのレンズ/ニムルドのレンズ

 Googleで「最古のレンズ」で検索してみると、「紀元前700年頃、現在のイラクの北方にあったアッシリア文明の都市ニネヴェの遺跡から、直径3.8cm、焦点距離11.4cmの水晶のレンズが見つかっている。このレンズは太陽光を集めるのに使われた」という説明がたくさん出てきます。元になっている情報を探してみました。

 海外ではこちらのサイトに似たような記述があります。このサイトには、このレンズをBritish Association for the Advancement of Science に紹介したのは、万華鏡の作成や偏光角の発見で著名なディヴィッド・ブリュースターと書いてあります。

いろいろ検索してみたところ、たぶんこの話の元になっているのは下記の論文ではないかと思います。

W.B.Barker, The Nineveh Lens,
British Journal of Physiological Optics, Vol. 4, No. 1, January 1930., pp. 4-6.

 この論文を引用して説明しているサイトでは、このレンズは大英博物館にあり、レイヤードという人物が1853年に発見したとかかれています。レイヤードの発見が1853年、上記の論文が1930年、77年もの開きがあるのも気になります。

 大英博物館にある1853年にレイヤードが発見した「水晶体の小片」はアッシリア文明のニムルドという都市で見つかったもので、紀元前800~900年頃のものとなっています。

このことは、1966年に日本で開催された「アッシリア大文明展」の図録 『大英博物館 アッシリア大文明展 芸術と帝国』 にも写真付きで紹介されています。この図録は現在でも古本屋で入手することができます。

Photo

この図録にこの水晶の小片に関する説明が記載されています。

 レヤードが水晶の小片を発見したとき、彼はすぐにそれがレンズではないかと想像したそうです。その小片はほぼ円形の形をしていて、大きさが長さ4.2 cm、幅3.45 cm、厚さはもっとも肉厚のところが0.64 cmです。小片の片面は平らで他方が膨らんだ形状でした。つまり、平凸レンズの形をしているのです。

 このレンズを本の上に置くと、文字を拡大して見ることができます。小片が発見された後、たくさんのレンズの専門家(この専門家というのはディヴィッド・ブリュースターの可能性がありそうです)が調べた結果、この水晶の小片は焦点距離が12 cmのレンズであり、意図的にレンズとして作られたものに違いないと結論づけられました。そして、それ以来、「ニムルードのレンズ」と呼ばれるようになったようです。

 プトレマイオスが透明な球体で物を拡大して見ることができると述べたのが紀元後2世紀ですから、もし、それより古い時代のアッシリアから精巧なレンズが見つかったとなると、これは世紀の大発見ということになります。しかし、その時代にレンズが意図的に作られていたとはたいへん考えにくいです。

 発見者のレヤードは「この小片は多くの不透明な青いガラス片の下から出土した。それらのガラスは朽ち果てた木製や象牙製の何かを覆っていた象嵌材の破片と考えられる」と報告しています。

 つまり、壁や何かの像などに埋め込まれていた水晶の板ということになります。たまたまレンズの形をしていただけでレンズではなかったわけです。現在では、家具や置き物などの装飾に使った象嵌材として作られた可能性が高いというのが考古学の専門家の見方のようです。

ということで、インターネットで「世界最古のレンズ」と紹介されているニネヴェのレンズというのは、「ニムルードのレンズ」と同じもののことであり、それは世界最古のレンズではないと結論づけておきたいと思います。

これがその「レンズ」の写真です。

Photo_2

なお、大英博物館のサイト(英語)にもほぼ同じ内容の解説があります。

http://www.britishmuseum.org/research/search_the_collection_database/search_object_details.aspx?objectid=369215&partid=1

Description

Oval rock-crystal inlay: ground and polished, with one plane and one slightly convex face. It has been regarded as an optical lens but would have been of little or no practical use.

Dimensions

Diameter: 1.25 centimetres
Thickness: 0.25 centimetres (maximum)
Length: 4.2 centimetres
Width: 3.45 centimetres
Length: 12 centimetres (focal length)

Curator's comments

When it was found by Layard this oval piece of ground quartz or rock crystal was immediately identified as a lens, and it has come to be known as the 'Nimrud lens'. It could certainly have been used as a crude magnifying glass, with a focal length of 12 centimetres from the plane surface. Over the years it has been examined by a number of opticians (e.g. Gasson 1972), many of whom believe that it was deliberately manufactured as a lens. However, although this piece of rock crystal has been carefully ground and polished, and undoubtedly has optical properties, these are probably accidental. There is no evidence that the Assyrians used lenses, either for magnification or for making fire, and it is much more likely that this is a piece of inlay, perhaps for furniture. This is supported by Layard's statement that this object 'was buried beneath a heap of fragments of beautiful blue opaque glass, apparently the enamel of some object in ivory or wood, which had perished' (Layard 1853: 198).

Bibliography:

  • A. H. Layard, ‘Discoveries in the Ruins of Nineveh and Babylon’ (London, 1853), 197-98;
  • G. Gasson, ‘The oldest lens in the world: a critical study of the Layard lens’. ‘The Opthalmic Optician’, 9 December 1972, 1267-72;
  • L. Gorelick & A. J. Gwinnett, ‘Close work without magnifying lenses’. ‘Expedition’ 23 (1981), figs. 7a-b.

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